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行きはよいよい帰りはこわい

 マード翁を連れての帰り道。

「遺跡におると分かっていて呼びに来たっちゅうことは、もうあのくらいのサイズのサーペントなら片づけられる自信がついとるわけかのう?」

「まあ……前回来た後にやった修行で『オーバースラッシュ』もかなり威力上がりましたし、あれなら一匹なら倒せると思います。二匹三匹も来ると捌けるかはちょっと自信ないですけど」

「ほうほう。……なあユーカや。この坊主やばくね?」

「今さらかよ」

「あれから二か月か三ヶ月くらいじゃろ。あの時超決死の覚悟で倒した相手の話をなんかもう『あっ若干厄介っすよねー』みたいなテンションで流しとるぞ。ワシが今さっき超かっこつけてクライマックス感モリモリな技で倒した奴を」

「いや、実際今のアインなら一撃だろうしなあ……」

「ワシの荒行の結果をめっちゃくちゃ雑に跨ぎ超えるのやめてくんないかのう」

「いや実際治癒師があんだけ派手な技使うのスゲェと思うぜ? でもアイン伸び盛りだから。若干だけど魔術も覚えたぞこいつ。一週間ぐらいで」

「なんじゃそれ。マジでなんじゃそれ」

「クリス君が教えてくれたので……」

 マード翁が僕を見る目が驚嘆を通り越し、怪しい呪いの武器でも見るような感じだ。

 そしてマード翁の後ろでアテナさんも怪訝そうな雰囲気を出している。

「……一週間で魔術を……? 風霊(ウチ)ではどんな簡単な魔術でも二か月ぐらいかけて教えるが……」

「いや、その……無詠唱魔術に変な才能があったらしくて……そんなに威力はないけど火を出したり明かりを作ったりなら」

「無詠唱魔術は逆に難易度が高かったはずだが……」

「それは適性があったらしいとしか」

 正直僕もあんまりよくわかってないので困る。

 いや、魔力の扱い方はわかるし僕とクリス君がよく似た特殊な感覚を持っているというのもわかるのだけど、一般的な魔術というのを知らないので、僕がどれだけ特殊なのかがさっぱりわからないのだ。

 わざわざリノとかファーニィにこういう話吹っ掛けるのも違う気がするし。そもそも二人とも「一般的」とは言い難いタイプの魔術師だし。

「ユーカのなんかを受け継いだにしてもおかしいじゃろそれ。ユーカも自力じゃ火起こしすらできんかったじゃろ確か」

「クリス君にも言われました。なんか原理的にそういう覚醒のしかたするはずがないって。……だから多分元々そういう適性あったんだろうってことなんですが」

「それなのにお前さんゼメカイトであんなカスみたいな強さじゃったん!?」

「カスとか言わないで下さい。悲しくなるので」

 いや本当、数日で「オーバースラッシュ」や無詠唱魔術覚えることができてしまったことを考えると一年も何やってたんだって話になるし、カスとしか言いようがない実力だったのも事実なんだけど。

 事実でしかないのでただただ悲しくなるしかない。

「はー……そうなってくると冒険者も学校とか必要なんじゃないかと思うのう」

「あー、悪くねえ考えだなそれ。学校とは言わねーまでも、適性一通り調べて教える初心者講座みてーなのあると死亡率下がるかもな」

「まあ冒険者なんて食い詰めて始めるような考えなしの連中が多いから、そんなんあったとしてどれだけ受けてくれるかが問題なんじゃがの」

「それはなー……冒険者だもんなー……」

 一瞬「そういうのあったらよかったな」と思ったものの、確かに冒険者やろうとする奴がそんなに計画性あるとは思えないな……。

 実際ほとんどの新人は「最初から大活躍しちゃうかも」なんてムシのいい事を考えがちで、先輩の話なんてロクに聞きやしないものだ。

 僕も、そんな講座があったとしても、受講するのは三回くらいなんとか冒険を生き延びてからになるかもしれない。

 ……そんな話をしていると、ファーニィが「ちょっと待って下さい」とみんなに鋭い声を発する。

「……這う音がしてます」

「サーペントか」

「多分。……でもこんな音だったかな……?」

「おいマード。ここって特殊個体どれくらいの確率で出るんだ」

「這う音が違うやつ……おったかのう? もしかしたらワシも会ってない奴じゃないかのう」

「何日も野生化してたのにまだ会ってない奴いんのか?」

「ここ広いぞい。お前さんがちっちゃくなる魔導書拾ったあそこの倍ぐらいあるから、場合によっちゃあ違うのがいる可能性も……」

 マード翁が言葉を途切れさせる。

 彼の表情を見て、僕はその視線を慌てて追う。


 サーペント、だった。

 とりあえず第一印象はそうだった。

 が、その頭の陰からもう一匹。

 いや、もう一匹。

 もう一匹。

 ……いやいやいや、そんなまとめて来るとか、僕の「二匹三匹いたら捌けないかも」って言葉を聞きつけたように……いや。


「……サーペントじゃ、ない」


 同時にいくつも出てくる蛇頭。

 変な這いずり音。

 ……ああ、そうだ。そういうモンスターもいる。遺跡には。

 あのときの遺跡には、いたじゃないか。

「ジェニファー。全力で距離取って。ファーニィもダッシュ」

「ガウ!」

「わ、わっかりましたーっ!!」

 ライオンとエルフの足音が一目散に遠ざかる。

「確か毒だか強酸だか、吐きますよね、あれ」

「……まあ、個体によりけりじゃがのう。……全く、ワシ一人の時ならいい遊び相手になったんじゃが」

「全員守るのは骨ですか」

「ワシだけではな。……アイン君、さっそくじゃが……磨いた実力、見せてもらおうかの」

 残った全員……僕、マード翁、ユーカさん、アテナさん、そしてクロードが身構える。


 多頭龍(ヒュドラ)


 あの運命の日に出たという、僕自身は見たことのない大物モンスター。

 それが、ここにも生息していた。

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