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遺跡の再会

「とうっ」

 ファーニィは建物の上で方角を確認すると、躊躇なく、そこから両手両足を広げて飛び降りてきた。

 といっても数十メートルだ。あんな高さまでいく階数の建物なんて現代じゃ見ないけど、あるなら余裕で10階以上だろう。

「うわわわ……!」

「落ち着けアイン。あいつ空から落ちても平気だろ。魔術で」

「……あ、あー」

 そういえば緑飛龍(ウインドワイバーン)にさらわれたりとかあったな。

 と思って落ち着くと、案の定ファーニィは「ウインドダンス」を発動して落下速度を落としながら着地。

「ちゃっくりーく!」

「……風魔法でそういう制御できるなら、いっそ風で上まで上がっても良かったんじゃない?」

「いや、そんな風力出したら下にいる人もみんな吹っ飛びますよ。たまに故郷の森でも、木に登るの横着して挑戦する子いますけど……風の暴力で移動しようとすると細かい制御も効かないんで、枝に着地もできなくて結局大怪我しかねませんし」

「……そういう需要なんだ、さっきの登攀技術」

 エルフが森で人間に射かけるっていうと、確かに樹の上からってイメージはあるよな。 

 どうもファーニィの故郷にはやたらすごい木があるようなことを時々言うし、僕たちの知ってるような「木」とはスケールが違う奴があったりするんだろう。

 ちょうどいいところに枝があったり、両手両足で組み付いて登る……なんてやり方が通用しないような大木に、きっとあのクライミングは有効なんだと思う。

「それはそれとして。どうしてあっちだと思うんだファーニィ」

 少し高いところに登っただけで見える場所に、マードさんが都合よくいたとは思えない。

「あっちにめっちゃモンスターの死骸集まってるとこ見えました。絶対あれマード先生の仕業だと思います」

「……そういや遺跡のモンスターって死体消えないんだっけ?」

 ついダンジョンの時の癖で、モンスターの死骸はただの障害物として見る癖がついてしまっている。

 が、ここでは死骸はそう簡単には片付かない。

 それでも生身なら肉食のモンスターたちが食らうだろうが、ライトゴーレムなどはきっといつまでもそのままだろう。

「それなら素材取りもできるか……」

「いや、それよりマードがそんなに山になるほど戦闘? あいつ何やってんだ?」

 ユーカさんは変な顔をした。

「マッチョになれば足だってそこそこ速くなるはずだし、無用な戦いは避ける方だと思ってたんだが」

「そうなの? 結構受けて立つ方だと思ってた」

「そりゃ前に来た時は急いでたしな。でもあいつ基本的には自分から敵を求めるタイプじゃなかったと思うんだけどな……」

 首をかしげるユーカさん。

「改めて、野暮用ってなんなんでしょうね……」

「僕らの想像力じゃわからないよ。まず僕らの次元じゃ遺跡に用がないし……」

「やっぱり直接聞くっきゃねーなぁ」

 僕やファーニィも交えて結局「わからん」という結論だけが出る。


 そして、ファーニィが見たという死骸の山を目指して歩くこと数十分。

 ついに眼前にそれが見えてくる。

「……何日ここで暴れた結果だ、これ?」

 ユーカさんが呆れ交じりに言う。

 それは、まさに山。

 ライトゴーレムの死骸が何百体分も積み重なって、遠目には建物が一つ倒壊した跡のようにしか見えない。だが近づけばそれはすべてゴーレムの残骸だ。

 凄まじい。

「もしかしてこれ、同族のゴーレムがなんかの目的で壊れた仲間を集めた……とかじゃないの?」

 リノの説も納得してしまう。何百年もそれを続けた結果だ、と言われると納得してしまう量だ。

 が、そこから見回せば他のモンスターも似たような状況にされている。

 ある場所には資材のように積み重ねられた、巨木のようなサーペントの死骸。

 ある場所には生ゴミのようなアーマーゴブリンたちの死体。

 それらは呆れるほどの規模でありながら、白骨化するほどの時間は経っていない。

 そして。

「……あっ」

 それらの陰からのっそりと出てきた、相対的に小さな、しかしあまりにも壮絶な威圧感の塊。

 一切の衣服を身に着けていない、筋肉の怪物。

 ……それが、あのマードさんだと気づくのに、僕も一拍、いや数拍ほど時間がかかる。

「なんだ……あれは、モンスター……ですか?」

「人間に見えるが……いや、人間か?」

「ちょっ……なんでアレ丸出しなの!?」

 慄いて構えるクロード、アテナさん。違うところが気になってしまったらしいリノ。

 そんな僕らをしばらく険しい眼光で見つめ……唐突に彼も気づいたらしい。

「なんかファーニィちゃんがおる……って、なんじゃお前らか!」

「なんでお前ちんちん丸出しなんだよマード」

「あっ、本当じゃ。……いや、燃えたり溶けたりチョンパしたりいろいろしたからのー」

 急に恐ろしい威圧感が解けて、ただの露出筋肉老人になった。

「何してんだマジで」

「それはこっちの台詞じゃ。何しとんじゃお前ら。ここはお前らが遊ぶにはちょいと厳しいはずじゃろ。あと何なんじゃそっちのリビングアーマーとかライオンとか美少年とかは」

「こいつらは……」

「む」

 ピクリ、とマードさんは一瞬で顔つきを変え、こちらに背中を向ける。

「ちと待っとれ。……すぐ片づけるからの」

 のしのしと彼が歩いて行く先には、路地から顔を出したサーペント。

 この前、僕たちで戦った雷撃サーペントと同じくらいの、しかし明らかに違う変種だ。

「レアモンじゃ。……こいつもリリーちゃんが見たら喜ぶじゃろうなあ」

「お、おい、お前ひとりでやるの?」

「そこらを見たじゃろ。……やれるわい」

 マード翁は冗談のように逞しい背中を見せつけ、構え。

 サーペントが鎌首をもたげ、なんらかの攻撃をしてこようとするところに真正面から突っ込んでいく。

 案の定、サーペントはあの雷撃サーペントと同じように額から謎の結晶を見せ、光線をマード翁に放つ。

 マード翁はそれに直撃し、黒焦げに炎上しつつも全く意に介せず突進。

 そして。

「……せっかくじゃ。派手に、ゆくぞ!」

 グッと鎌首の真下でしゃがみ、すくい上げるように両掌を突き上げ。


「必殺!! マードキャノン!!」


 大気が歪み、炸裂する。

 僕たちまで衝撃の余波が飛んできて、ファーニィは尻もちをつき、リノはジェニファーの背中でひっくり返って気絶してしまう。

 ジェニファーが「ガウ!?」と慌てているが一応騎乗用の魔術でくっついているらしく落ちない。

「ネーミング丸パクじゃねーか!」

 ユーカさんが叫ぶ。

 マード翁はズズンと倒れ伏すサーペントを背に振り返り。

「…………お前さんの代わりをやる練習なんじゃよ」

 どこか優しげに言いながら、微笑んだ。

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