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アテナの冒険者デビュー

 最前衛をアテナさんとクロード。少し後ろに僕。

 さらにいくらか離れてユーカさん&リノonジェニファー。最後衛ファーニィ。

 アテナさんとクロードの鎧の防御力と、僕の射程の長さを当て込み、治癒術師のファーニィをできるだけ前線から遠ざけるとこういう陣形になる。

「妙な雰囲気ですね……」

「敵は前からだけじゃない。上にも気をつけろよクロード。滅多にないが建物の上から襲われるってこともあるぜ」

 ユーカさんのアドバイスで僕も視野を水平だけに固定していたことに気づき、上も改めて見回す。

 ここはダンジョンじゃない。天井なんかありはしないのだ。

 ……直近のいくつかの建物はざっと20メートル以上あった。

「……あの高さから飛び降りてきたら大抵のモンスター死なない?」

 見上げたリノがぼそっと呟く。

「まぁな。でも飛行型のモンスターもいるだろ」

「あ、そっか」

「……遺跡で飛行型作ってることはめったにないけど、遺跡のモンスターって普通より増えるの速いから、ああいうところでワイバーンやグリフォンが巣を作ってたりするんだよ。前にそれでフルプレが攫われたことあってな」

「フルプレさんが……? マズそうだけど……」

「誰……?」

 他は理解していても相変わらずリノは話についていけていない。……断片的に聞こえた話だけでも察してもよさそうなところではあるけど、まあわざと教えていない僕らが悪いと言えば悪いな。

 でも今さらユーカさん本人を差し置いて僕たちの口から彼女の「正体」を言うわけにもいかない。

 ごめん。

「他のメンバー全員気づいてたけどフルプレは視界が狭いからノーガードだったんだよ。んで連れてかれたけどマードの奴の『まあフルプレじゃし』って一言で無視することに決めて」

「無視したんだ……?」

「まあ実際それぐらい切り抜けられなきゃ足手まといだしなー。案の定攫ってったワイバーンはすぐ倒したらしいんだけど、合流するのに二日かかって飢え死にしかけてた」

 ガハハ、と笑うユーカさん。笑い事じゃなくないですか。

「二日程度で餓死寸前はさすがに燃費が悪いな、王子も」

「え、今の王子様の話なの?」

「うむ。フルプレというのは我らがローレンス王子のことだ。全身鎧を常用し、兜を決して脱がない謎めいた不審な怪冒険者として有名だったらしい」

「……アンタじゃん」

「私は脱げと言われれば脱ぐが? まあどうしてもというなら王子のような謎路線もやぶさかではない」

 アテナさん、リノに説明してくれるのはいいけど論点がズレていってます。

 とにかく上には注意しつつ行こう。

 ……通路はほんのりと妙な発光ラインがあるから暗くならないけど、夜に上から襲撃されるのは怖いな。

 特にそれには注意しなきゃ。


 しばらく遺跡をウロウロしていると、遠目にライトゴーレムの姿が見えた。

 二体。

「あれは……」

「全員構えて。あれがライトゴーレム。普段は歩いてるけど魔導具的な力で軽く飛べるから油断しないで」

 前に壁に押し付けられて殺されかけたので、ちょっとだけトラウマだ。

「向こうは気づいていないようだが」

 アテナさんが「どうする?」という調子で訊いてくる。

「……僕の『オーバースラッシュ』で先制で倒そう」

「いや、それには遠い。……それにせっかく数が少ないんだ。ファーニィの矢でちょっかいかけて、釣り出して倒そうぜ」

 ユーカさんが提案。

 ……確かに距離は40メートル近くある。ここから「オーバースラッシュ」はちょっと威力も命中率も厳しい。

 みんなで走って距離を詰めるのは、陣形も崩れるし途中で別モンスターに奇襲される可能性もあって避けたい。

 釣り出しが妥当か。

「ファーニィ、当てられるか? いや、当たらなくても矢が近くに落ちれば気づくとは思うが」

「当てますよ! ……あ、いや、でもちょーっとあいつ細すぎないです? なんか刺さりそうな角度の部分があまりにも少ないんでダメージになるかはちょっと……」

「わかってたことだろーが」

「うぅ……刺されー刺されー」

 パッ、と放たれた矢がライトゴーレムの一体に飛び……カシュッと掠って向こうの壁に当たる。

 遺跡の壁は硬いので、そっちに当たる音の方が大きく響いた。

「だめだった……」

「いや、ちゃんと当たったんだからそれでいいだろ。……来るぞ、ファーニィはもう弓は置け。どうせ効かねえ!」

 ユーカさんの言う通り、ライトゴーレムはこちらを見つけたようだ。二体とも同じように身を前傾させ、滑るようにスピードを上げて突進してくる。

「さて」

 そこに悠然とアテナさんが進み出る。

「クロード君。モンスター相手には今回が初陣なので、譲ってくれまいか」

「えっ……い、いや、今ですか!?」

「昔から憧れでね。フフフ」

 楽しそうな笑い声を漏らしつつ、アテナさんがかっこいい構えを取る。

「さあて、かかってこいモンスターども! 我こそは風霊騎士団のアテナ・ストライグ!」

 名乗りを上げ始めた。

 いや、本当騎士崩れ冒険者でこういう人ってたまにいるけど。モンスター相手にそういう名乗りはマジで意味ないので、それ駄目なパターンですよ。

「クロード! アテナさんを援護! 後衛(こっち)は僕が守る!」

「はっ、はい!」

 自分も遺跡初体験で緊張しているのに、あっちだ、いやこっちだ、と翻弄されるクロードがちょっと可哀想。

 でも健気に指示に従うあたり、やっぱり優秀だ。

 いわゆる有名冒険者の典型のように我を優先するのではなく、指示を受けることで本領発揮できるタイプの戦闘員なんだろうな、彼は。

 騎士としてはそれでいいと思う。冒険者としての一本立ちには心配があるけど。

 で、アテナさんの方はというと……名乗りとか一切無視して一直線に突っ込んでくる二体のライトゴーレムに対し。

「記念すべき戦だ! 出し惜しみはなしで行かせてもらおう!」

 ビゥーン、と兜の目の部分を光らせたかと思うと、掲げた剣にも光を湛える。

 パワーストライク……いや。

「秘奥義!」

 剣が……伸びる。

 いや、剣から光が溢れ、光でできた刀身が延長されていく。

 1メートル弱の刀身が見る間に延長され、3メートルを越え、さらに伸びる。


「“破天”」


 伸びきった光の剣は、全長5メートル近くにまで巨大化。

 さすがに異常事態だとライトゴーレムも理解したのか、そのリーチ外で急制動をかけるが……アテナさんはまるで問題にせず。

「そこは、私の距離だ!」

 ダン、と踏み込む。

 重い鎧に身を包んでいるとは思えない、重さがない……というより何かに弾き飛ばされたとしか思えないほどの瞬間移動で、ライトゴーレム二体両方を剣のリーチに収めて。

「成敗!!」

 ザン、と一太刀。

 二体を斜めに断ち切る。

 ……ガシャン、とライトゴーレムたちは崩れ落ち、アテナさんは目の部分の光もゆっくりと落として、かっこいい残心から身を起こす。

 あ、でもその斬り方だと……。

「片方倒せてないです」

「ぬ?」

 僕が指摘すると同時、崩れ落ちたはずのライトゴーレムの片方が復活。

 下半身のない状態で浮き上がる。

 が、それもさすがに二度目なので僕は近づきながら「オーバースラッシュ」を振り、今度こそ復活不能な大きさにする。

「ああ、済まない。締まらないなこれでは」

「僕それで前回死にかけたんで。……凄い技ですね、それ」

「今の騎士団では教えていない技だ。人に使うにはあまりにもやりすぎなのでね。書物から独学で覚えたのだけれど……いやあ、一度実戦で使ってみたくてな」

「…………」

「そんな目で見ないでくれないか。いや、あるなら使ってみたくなるだろう? ロマンのある技だろう?」

「いえ、まあ……」

 妙に言い訳がましくなってきたアテナさんに微妙な顔をしてしまう僕。

 これ使ったらあの水竜(アクアドラゴン)騒動も収められたんじゃないか、とか。

 そんな出番のない技を通常業務の片手間で独学で完成させるこの人ホント何、とか。

 風霊騎士団それでいいのか、とか。

 ……この技僕にも使えないかな、とか。


 これなら、付け焼き刃では無駄かもしれない、と思われた通常剣技も、実戦で意味を成してくる。

 繋がる。

 ロナルドへの……最強との戦いへの、道筋が。

 ……微妙な顔でメガネを押しながら、僕の胸中では興奮が渦巻いていた。

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