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第17話 嘆きの灯台-17 一座

「近頃、市内を騒がせている魔獣被害! かかる事件において狩人協会員ならびに警察機関による迅速な対応は称賛に値するものである。

 しかしッ! 目を背けてはならない事実がある!

 事実とは! 現実として! 魔獣は今も! このサンベイル市内に入り込んでいる事だ!

 そしてその魔獣は貴方の側で息を潜めているかもしれない!

 彼らの名誉のために断りを入れる。これは彼らの怠慢ではない!

 何の怠慢か! それは市政による怠慢である!

 我々市民党はかかる事態を予期し、幾度と無く予算委員会にて問題を提起していた。しかし現実はどうか。ありえるかもしれない未来にではなく、その場しのぎの予算ばかりが計上されたではないか。

 そして今、またその場しのぎの対策を講じ、対応と言い張るのだ。これは最早市政に蔓延る伝統的怠慢であると言わざるを得ない!


 故に! 今必要な物を補充する!

 必要なものとは何か! その場凌ぎの素人ではない! 知識を持った専門家である!

 私はその解決のため、南より協力者を得ることに成功した――……」






 政治の世界とは摩訶不思議だ。良い事と悪い事の線引きが昨日と今日、時と場合、発言者と聴衆によって変わるのだ。


 先日、ひとつの演説が為された。

 題目は市内を騒がす魔獣被害と市政の怠慢について。発演者は"組織"の構成員クラウン・ゴールドス氏である。

 彼の主張は要約すると、『魔獣が市内に入り込んで手が回ってない。だからすぐに対応できる連中に俺が声をかけておいた。市内に入れるけどいいな?』だ。


 サンベイル市内への武器の持ち込みは許可が無い限り禁止である。許可を持つのは警察権力側の人間か協会員、大よそその二通りだ。

 まあ、これは当前だ。武器を持った人間の方が武器を持たない人間より問題を起こす確率が高いのだから。それを禁止したところで不満を表すのは何かやらかそうとする不穏分子の側だろう。


 ところがここに市内への魔獣の侵入被害という要素が加わるとどうなるだろう。

 なんと! あれだけ禁止していた武器の持込が特例であっさり許可されてしまったではないか!

 しかも、それを操る怪しげな武装集団まで市内に受け入れてしまう始末。


 ここ数ヶ月まるで使っていなかった通信機器が着信を告げた。

 仕事を終えてシーリィ女史とデートしてから帰宅して、シャワーを浴びてまったりしていたそんな時だ。

 伝達された内容は"大鷲の一座"としての任務。指定の場所に指定の装備で集合しろといったもの。

 市庁舎での一件以来装備していなかった面当てと革鎧を身に纏い、指定された空き地へ向かってみれば俺以外に肌の見えない不審者セットの男が25人も居て、しかも整列しているではないか。


「久しぶりだな"Y"」

「お久しぶりです。隊長」


 そう、市内に受け入れられた魔獣退治の専門家という触れ込みの武力集団、それは"大鷲の一座"が闇を纏った姿、"頭文字の集団(イニシャルズ)"なのであった。


 以前から決行日へ向けて一座の面々を市内に迎え入れると聞いてはいたのだが、まさかこのような状況を利用して放り込んでくるとは考えていなかった。

 ゴールドス氏の政治的腕力を少々侮っていたようだ。


 ゼークト隊長こと"Z"の作戦説明が続く。


「今回我々は市内に侵入した魔獣の撃破が目標となる。当然のことながら市街への配慮は最大限に行われねばならない。火器の使用時は十分に留意すること。

 初回につき事前情報のある個体へ対応するが、次回以降そのような物がない場合もありうる。怠るな」


 了解、の声がが唱和される。


「では行動開始。各班車両へ乗り込め」


 これもある意味残業にあたるのだろうか。





 揺れる車両内には俺と、俺に割り当てられた第3班がひしめき合っていた。


「よお"Y"。お前サンベイルじゃどうしてたんだよ」


 お調子者の"D"ことディートハルドが訊ねてきた。コイツは任務の移動中に限らず無駄口が多い事で仲間内では有名な奴だ。


「どうという物でもない。任務に当たっていた」


 言うまでもなく"組織"経由の任務については守秘義務がある。こいつらには話せない。それはコイツも、ほかの奴も理解しているはずなのだが、その辺りの事情を気にせず会話が続く。


「かーっ、俺もなー、市内で生活したかったぜ。なんの任務かしらねーけどよぉ、サンベイルだぜサンベイル。人も多けりゃ女も多い。基地の側なんかババアしかいやしねえ」

「そうは言っても"D"さん。僕らみたいなのが市内に居ても女性と関わり合いになれるとは思えないですよ」

「ばっかだなー"C"ちゃんよぉ。女ってのはな、危ねぇ空気の男に惹かれちまうモンなんだよ。わかる? ヤダこの人、ドキドキする! ってな寸法よ。だいたいな、馬鹿正直に俺たち傭兵ですなんて言うわけネーだろ」

「あっ、それもそうか」

「だろ? つまるところ男と女の一対一よ。そこに職業だのなんだのは挟まらないってワケ。あるのは如何に自分の魅力を伝えるか、そして相手を楽しませるかよ」

「はーなるほどなー。僕も女性を口説けるように勉強しておかないと」


 あのなC。Dの言っていることは真に受けてはいけないぞ。こいつのナンパ成功率は押並べて低い。その上変に意識が高いからその事を素直に受け入れようとしないのも性質が悪い。

 Dはよくこれで傭兵が務まるなと思う程軽い男だが、戦闘に関しては一座の中でも一目置かれた存在である。俺もその分野に関しては見習うべき点の多い男だ。他の部分は反面教師として役に立つ。


「"C"今回の任務、隊長からどのように聞いている?」

「どのように、ですか? 政治家から依頼があったから、サンベイル市内で魔獣退治をするって聞いてますけど。あ、それなりに長居するとも言ってましたね」

「え、"C"それマジで? 俺聞いてないんだけど」

「"D"さんその時病院行ってて居なかったんですよ」

「早く教えてくれよ。よし、任務の合間でぜってー女手に入れる」


 妙なやる気を出す"D"はさておき。

 "C"の話によれば一座は真の目的を報されず市内に滞在先を用意されていることになる。魔獣退治の件があるから滞在自体は不自然ではないが、もし魔獣が現れなかったらどういった段取りで一座を市内へ引き入れる心算だったのか。


「"Y"さん。何か気になることでもあるんですか?」

「ん? いや、今回の件、かなり急だったなと思ってな」

「急って?」

「市内で暮らしていたから感じるんだが、凶暴な魔獣が暴れ出したのが些か唐突でな」

「よお"Y"。魔獣なんだから考えなしのいきなり感は当たり前なんじゃねえのか?」

「そうなんだがな。妙な事聞いて悪かった」


 あまり考えても仕方がない。

 思考を打ち切るのと車両が停止したのは殆ど同時だった。




 扉側の隊員が飛び出していくのを追いかけ外へ整列する。

 舗装されていない環状のマラソンコースがあり、その周囲を背の高い木で囲まれた森を切り開いた地域の公園といった趣の場所だ。

 車中にて配布された地図によれば、一周400m強の○と十字が合わさったような形をした比較的ありふれた公園であると分かる。


「今回の対象はこのモンド公園に潜伏している魔獣だ。情報によれば魔術を使う四足型の魔獣であるとのことだ。

 確実に撃破するため囮を使う。"Y"、"D"、"C"、お前達は単独で公園内を移動し、対象と遭遇した場合信号弾を発射。その後公園中央の広場まで誘引しろ」


 なるほど。深夜の公園で魔獣と追いかけっこをするわけか。

 無茶を言われているように思うかもしれないが、実際のところ市内に入り込んだ魔獣を狩る際にこの手の手法はよく採られる。賢しい奴ら魔獣は有利な獲物にしか襲い掛からないのだ。

 まあやりたいかと聞かれれば勿論やりたくないのだが。


「行動開始。他は俺に続け」


 隊長が他の隊員を引き連れ公園に入る。少し遅れて俺たちも続く。


「公園は三叉路だ。左に俺が。"C"は正面、"D"は右を」

「了解」

「了解だ」


 正面はそのまま進むと広場に繋がっている。大勢で通った道を何故またと思うかもしれないが、肝心なのは襲える獲物が通ったかどうかだ。対象がその付近に潜伏していた場合はCが通るまで現れないことも十分考えられる。


 寂しい街灯の明かりの間の暗闇を渡るように一人進む。

 今は不気味な静寂に満ちているが、明るい時間ならば静かな公園と評せるだろう。今度シーリィ女史と来てみてもいいかもしれない。


 ところで囮に俺とCとDが選出されたが、実はこれには理由がある。

 というのも、何故かは分からないのだが、俺達三人は敵に好かれるからだ。(ふいの遭遇をしやすい、集団戦で敵に狙われやすい)


 特にDは笑える。いや、本人的には笑えないのかもしれないが、ある種の芸かと思わんばかりにいつもいつも貧乏くじを引く。ケンサヴィネ市立美術館にてモーデウス等に踏み倒された運の悪い数人のうちの一人はDである事からも察していただきたい。

 ではその次に運の無い奴はというとだ。


 構えたライフルを右手側に掃射する。

 地を蹴る音と飛翔音。

 咄嗟に飛び退くと、寸前まで立っていた場所に重量物が振り下ろされ、夜のやや湿気た地面を大きく陥没させた。


「グオォォ……」


 猫科の瞳に異常発達した牙。顔形は猫というよりは狼に近い。斑の白黒の体毛からは、しなやかさよりごわついた固さを感じる。屈んで這うような、今にも飛び掛らんとする姿勢にも関わらず体高は俺の身長とほぼ同じにある。

 そしてなにより、その魔獣には青白い二本の尾が生えていた。


 一座の中で一番に運が無い奴はDだ。

 そして二番目に運が無いと言われているのが俺である。

 なんで俺の方に来るのか。Dの方にいけよ。


 とりあえず対象の魔獣と相対して分かったことがある。

 少なくともコイツは"尾薬"の影響下にある魔獣だということだ。


「グアァァオッ!」


 信号弾を発射したのと奴が飛び掛ったのは同時。

 深夜の公園で命をかけた追いかけっこが始まる。



ブクマやご評価ご感想、ありがとうございます。めっちゃ励みになります!


このかいあたまくるくる状態で書いたので後日色々訂正するかもしれませんすまぬのじゃ

季節の変わり目たいちょうにおきをつけを!

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