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うちの村の子供が「呪術王」とかいう禁忌系スキルを取得した件

 あれから!

 大体三十分ぐらいが経過したのである!!!


「ぜんっぜん来ねぇぞ。魔法。どうなってんだ」


「それな。マジでやったのかよエルフのじいさんよぉ」


「おかしいのぉ。こんな、時間を守らない子じゃないんじゃが」


「なんで親戚の子風に言ったんだよ。意味わかんねぇよ」


 そう!

 なんかすげぇと噂の魔法攻撃が!!

 全く来ないのである!!!

 なんかすごい勢いで来るというから、皆メチャクチャ身構えていた!

 村長はホウキを構え、ストフレッドの父はこぶしを握るなど!!

 皆それぞれの得物を手に、空を見上げていたのだ!

 にもかかわらず!!


「めっちゃ快晴なんだけど」


「気持ちのいい青空だってことしか伝わってこないわ」


「っかしぃなぁ。なんでだろう」


「長老じゃないけど、こんなに遅れるはずないのにな」


「おーい。エルフ連中が言ってた紙、拾ってきたぞー」


 気の利くヤツが、長老が言っていた「破いた、魔法陣が書かれた紙」とやらを拾ってきたのだ!


「えー。よく見つけて来たな。いったいどうやったんだ」


「うちの村には落とし物を感知する系のスキル持ってるヤツもいるからね」


「便利だよな、あれ」


 早速!

 術式とかに詳しい村人達で、検証してみることにしたのである!!


「エルフ連中が言ってた通りのものだよ、これ」


「なんでまだ魔法攻撃こないんだ?」


「ホントそれな」


 どうやら、魔法陣自体は問題なかったようである!

 そうなると問題は、何故攻撃が来ないのかであった!!


「まあ、なんだ。もうちょっと待ってみるか」


 村長の言葉に、一同は空を見上げるのであった!!





 さらに、三十分ぐらいが経過したのである!!!


「なんということじゃ。そんなことになっていようとは」


 愕然とするエルフ長老!!

 三十分ぐらいかけて、ストフレッドのこととか!

 あと、なんか出てきた女神さまのこととかについて説明していたのである!!


「そっちも、そんなことになってたとはなぁ」


「そりゃ村も襲うか」


「村燃やされるの怖いしね」


 ついでに!

 エルフ村の方の事情も聞いていたのである!!

 同じド辺境に生きるもの同士!

 シャーチク村の村人達にとって、エルフ達の事情は他人事ではなかったのだ!!


「エルフにとっての村を焼かれるってのは、うちの村にとっての害獣被害。田んぼをやってる村にとっては、イナゴや干ばつみたいなもんだからなぁ」


「レイワノコメソウドウとかいうの、大変だったみたいだしね」


「お前、ホント怒られるからな」


 日本でも、多くのゲーマーが米作りで阿鼻叫喚を繰り広げた2020年だったのである!!

 何のことかわからなかったら、保護者の方に聞いてみて頂きたい!


 それにしても、なぜエルフ達は話をあっさり受け入れたのであろうか!

 疑問に思う方もいらっしゃるかもしれないが、それにはきちんとした理由があったのである!!

 エルフ達に説明をしたのが、神父だったのだ!

 リアル神様がポンポン現れるこの世界において、神父への信頼度は絶大であった!!

 何しろマジできちんと神父してないと、実物の神様にオシオキされちゃうのである!!!

 ゆえに!!

 多くの人が神父に寄せる信頼は恐ろしく分厚い!

 クソ寒い冬場に外で二時間ほど作業して、体がかじかんでいるところに!!

「お疲れ様、寒かったでしょう!」

 といって差し出されるおにぎりと豚汁へ寄せられる「食わんくてもわかる。上手いやつや」という信頼ぐらい熱々なのだ!!!


「ならば、わしらがこれ以上何かをする必要は、全くないということじゃな」


「そうですね。大人しく、裁きを受けましょう」


 エルフ達も、悪人ではない!

 自分達の村に加護をもらうという目的はあったとはいえ、その行動の大半は「世界を混乱に陥れるものを討つ」という善意からくるものであった!!

 誤解さえ解ければ、悪あがきをするものなど一人もいなかったのである!!!


「いや、まぁ。アンタ達も踊らされたわけだしなぁ」


「ここはひとつ、後で神様にお伺いを立ててみるのがよかんべ」


「なぁに、悪いようにはならんさ」


 一度は刃を交えはしたものの、お互いに死者や大怪我をしたものは居なかった!

 エルフ達に共感するところも多いということもあり、シャーチク村の村人達はすっかり同情的になっていたのだ!!


「申し訳ないのぉ」


「いや、もう。事情が事情だから。こういうのはあれだ、お互い様だし」


「っていうか、なんだな。ホントに全然来ねぇなぁ、魔法」


「こうなってくるとあれだな。早く来いよって感じで、イライラしてくるな」




 さらにさらに!!

 三十分ぐらいが経過したのである!!!


「すげぇな、このリンゴ。焼きリンゴにしてるのに全然味がボケない」


「オレ、最近の甘さが強い果物ってちょっと苦手だったんだけど。これ酸味とのバランスが絶妙だわ」


「メチャクチャうめぇ。よく噂を聞く理由が分かるよ、これ」


「いや、この芋すげぇよ。蒸しただけでこんなに美味いの」


「ほっくほくじゃん。塩だけでバターいらないでしょこれ」


「うちの村でもイモは作ってるけど、レベちだわ」


 バーベキューをしているのである!!!

 戦いが終わってから一時間ぐらい!

 いい加減お腹が空いてきたシャーチク村の村民達の一部が、なんやかんやあってバーベキューを始めた!!

 外で人が集まったらバーベキュー!

 生の食材を持ち寄ればよいうえに、子供も大人も楽しめて、腹に溜まるものも酒のツマミも作れる!!

 まさに、ド辺境農村でやるには打って付けのイベントなのだ!

 もちろん!!

 なんやかんやあって解放されたエルフ達も参加している!!!

 彼らは結構な量の食材を持ち込んでおり、それも一緒に焼いたりして食べているのだ!

 エルフ達が持ち込んだ中でもとりわけ評判が良かったのが、エルフリンゴである!!


「えー、これで末端価格いくらぐらいなの?」


「末端価格って。えー、時期によるけど、王都の果物屋では一個130~180ぐらいだって言ってたかな」


「うっそ、そんな安いの!? 銘柄果物ってもっと高くない?!」


 銘柄果物とは!!

 農協に認められた、ブランド果物のことである!

 名乗るには農協の厳しい基準をクリアしなければならず、そこに新たに名を連ねることは、果物農家の悲願といってもよい!!


「いやいやいや! 銘柄果物なんてとても!」


「えー、コレでもダメなの!? やっぱ高いなぁ、銘柄の壁」


「うちの芋も、まだまだだしなぁ」


「え!? この芋こそ、銘柄じゃなかったの!?」


「こんな美味いのに!? いや、でもこのクオリティ保てたら来年には行けるでしょ、コレ!」


「だよなぁ。こんな美味い芋食った記憶マジでないし」


「ははは、いやぁ、そんな」


「ほめ過ぎじゃない? まあ、ちょっと自信はあるんだけど」


「それを言うなら、このリンゴ酒も美味いよ。こんな澄んだのど越しのいい酒、初めてだわ」


「そうそう。エルフリンゴの味わいが残ってるのに、しっかり酒なんだよな」


 もう一つ評判が良かったのが、酒であった!!

 エルフリンゴを使って作られた、いわゆるシードルである!

 名産品にすべく、エルフ達が研究に研究を重ねて作った品であった!!!

 遠征時の水分補給用でもあるため、比較的弱い酒である!

 傭兵や冒険者を生業としているエルフは遠征も多いのだが、行った先の生水が必ずしも飲用に適するとは限らない!!

 ゆえに、エルフの村では長期保存が可能な、水分補給用の酒造りも盛んにおこなわれていた!

 地球でいうところのワインのようなモノであるといえるだろう!!

 その辺のワインに関する中世ヨーロッパ的なあれこれを詳しく知りたい方は、ぜひ保護者の方にお尋ね頂きたい!!!


「それにしても、ホントに全然来ないなぁ」


「だんだん腹立ってきたな。もう、アレだ。こうなると逆に早く来いよって気になる」


「わかる。もう、こうなっちゃうとな」


「アレ作ってた方の立場的には、あれ、失敗したのかな、上手く行かなかったのかな、って不安になるわ」


「あー! まぁー、ねぇー! 作った側からするとね!」


「それもそうかぁ! そういう不安ね!」


「んん? あ、飛行船だ」


 そんなことをしているうちに!!

 ヴィッフェンドルフの乗った船が戻ってきたのである!!!


「あれ、教会のお偉方の船じゃないの?」


「国教の異端審問局元局長“光の”ヴィッフェンドルフ猊下専用の船じゃったとおもうんじゃがのぉ」


「うん。まぁ、なんやかんやあってな」


「やんごとなき事情があって、この村にあるんだよ。あの船」


「なにそれ怖い。どういうことよ」


「偉い人の考えることはわからんってことよ」


「なるほど」


 ド辺境に住む農民にとって「偉い人の考えることはわからん」というのは魔法の言葉であった!!

 何しろ、偉い人が考えていることは、ホントによくわからないのである!!!


 そうこうしているうちに!

 ストフレッド達が皆がたむろってるところに!!

 やってきたのである!!!


「ふむ。何事だね」


 代表して訊ねたのは、ヴィッフェンドルフであった!!

 ちなみにエルフ達には!

「見た目はアレだけどとても偉くてやんごとない御身分の方が、説明できない諸事情によっていらっしゃっている」

 と説明してあった!!

 ギリ、嘘はついていないのである!!!


「いや、実はかくかくしかじかで」


 さっそく、村長がヴィッフェンドルフに説明を行った!

 一体どんな風に説明したか、気になる方々もいらっしゃるだろう!!

 だが!

 かくかくしかじかは!!

 かくかくしかじかなのである!!!


「なるほど。運命を司る神々の一柱か。あの方々の中には、さらに上位の神々のためにお働きになる方もいらっしゃる。数奇な運命、というのを好まれる上位の神もいらっしゃるからな」


「どういうことだ?」


「要するに、ストフレッドくんに悲劇的な人生を歩ませることそのものを目的にされていらっしゃるのかもしれない。ということだ」


「なにそれ怖い」


「神々の考えることはわからんなぁ」


「そうなると、ますますエルフ連中は事故にあったようなもんか」


「いや、情けない話ですじゃ」


「まぁまぁ。一杯いきましょう」


「おっとっと、では、ご返杯を」


 すっかり酒盛り状態なのである!!!

 バーベキューと言えば酒!

 酒と言えばバーベキューといっても過言ではない!!

 ド辺境農村でのコミュニケーションとは、すなわち飲みニケーションなのである!!!


「あ、ていうか、そうだ。ヴィッフェンドルフ、お前、空飛んでくるときでっかい魔法攻撃見なかったか」


「んん? どういうことだ?」


 村長の質問に、小首をかしげるヴィッフェンドルフ!!

 魔法攻撃に関するくだりを説明すると、ヴィッフェンドルフは思い出したというように手を叩いた!!!


「もしかして、アレのことか」


「なんか覚えがあるのか」


「うむ。すまん、もしかしたらそれ、もう消してしまっているかもしれん」


 時間は、結構長くさかのぼるのである!!!




「ヴィーちゃん。なんかへんなのとったー」


 村へと向かう船上!!

 操舵に集中していたヴィッフェンドルフに、ストフレッド達が声を掛けてきたのである!!!


「なにかあったのかね?」


「なんかねー、タっつぁんが、とんできたのを、つかまえたんだー」


 ストフレッドの説明では要領を得ない!

 甲板上にいるというタップの元に向かったヴィッフェンドルフ!!

 そこで見たモノとは!!!


「なんだね、この蟲毒みたいな魔法の塊は」


 エルフ村からぶっ放された、攻撃魔法だったのである!!!


「なんかねー、かんぱんから、そとみてたら、とおくのほうをとんでてさ」


「つかまえるかなぁーって、タっつぁんがためしたら、うまくつかまえちゃったんだ」


 タっつぁんのスキル「領域支配」!!

 その力をもってすれば、飛んでる魔法を捕まえることすら可能であったのだ!!!


「ううむ。どこかに向かって飛んでいた攻撃魔法なのだろうね。この船を狙っていたわけではないようだが」


 ヴィッフェンドルフの感知能力に引っかからなかったぐらいである!

 結構遠くを飛んでいたものと思われた!!


「まさか、つかまえられるとおもわなくって」


「まあ、捕まえてしまったものは仕方ない。しかし、物騒だね、これは」


「どうしよう。はなせば、もとのところにかえるかなぁ」


「それも、どうかとおもうけど。こうげきまほうなんでしょ、それ」


 ストフレッドの言う通り、放っておくにはあまりに物騒すぎる代物である!!


「ふむ。まあ、ここはアレだね。消してしまおう」


「えー? いいの?」


「坊主的にこういう物騒なものは放っておけないからね」


 比較的ヴィッフェンドルフ自体が危険物であるのだが!!

 その辺はドンマイなのである!!!




「とまぁ、そんなことがあって魔法は私が消滅させたのだよ」


「いや、っていうかそんなこと簡単に出来るんですか」


「光魔法というのは相手の攻撃魔法に干渉して消し去ったりするのが得意なのだ。よくそういう強者ムーブが漫画やアニメであるだろう」


「よく見るけど」


「本人の口から言われるとなんだかなぁ・・・」


「小さい子供などは意外とそういうのが好きでな。目の前で邪悪な敵が放った攻撃魔法をさっそうと現れた私が消した時の、美幼女たちの顔に浮かぶ希望にあふれた笑顔が今でも忘れられん」


「流石、“光の”ヴィッフェンドルフ様だわ」


「お前、エルフ連中に名前聞かれたらどうするんだ。向うが困惑するわ」


「ごめんそうだったわ。俺だってまだ受け止めきれないしな」


 ぶれない!

 例えどんな姿になろうが、どんな場所であろうが!!

“光の”ヴィッフェンドルフの信念は微動だにしないのである!!!

 それは兎も角!!

 そう!

 なんか壮大そうな伏線を張りまくった攻撃魔法は!!

 知らんところで知らんうちに片付けられてしまっていたのである!!!


「これで、良かったのじゃ。なんとも締まりのない感じにはなったけども」


「なんか、逆に申し訳なかった。そういうことなら、一応持ってくるだけは持ってきておけばよかったな」


「それはそれで怖いよ」


「物騒なもん持ってこられても始末に困りますよ」


 村のバーベキュー会場が、なんかホッとした雰囲気に包まれた!

 その時である!!!


「ふざけんなぁあああああ!!!」


 突然空が光り輝き、貫頭衣のにいちゃんが飛び込んできたのだ!

 両足をきれいにそろえて、横合いからのドロップキック!!

 芸術的ダイレクトエントリーである!!!

 ちなみに!

 被弾して吹っ飛ばされたのは、村長であった!!


「うわぁああああ!?」


「ちょ、村長ぅううう!!」


「ほっとけ! 村長は丈夫だから無事だ! それより何だ、このやたら煌びやかで神々しい気配を纏ったにいちゃんは!?」


「神様じゃ、ボケェぇえええええええええええ!!!!!」


 お気づきの方も多かったことであろう!!

 運命を司る神々の一柱なのである!!!


「あ、あれはっ! 運命を司る神々の一柱!!」


「知っているのか、神父!」


「人間に様々な試練を与え、それを乗り越えることを喜びとする神だと聞いていますが」


「わしらにこの村を襲撃せよとおっしゃったのは、この神様じゃぁ!」


「「「な、なんだってぇー!?」」」


 エルフ長老の言葉に、劇画調で驚くシャーチク村の村人達!!

 今日だけでも二柱目の神の登場!

 ド辺境に暮らす農民的には一柱でもうお腹いっぱいであるにもかかわらず!!

 追加の神投入なのである!!!


「イノシシやら教会のお偉方に続き、エルフまでこんな有様になるとはなぁ! こうなったら、なりふり構っていられねぇ! こっちだって上位のお歴々にせっつかれとるんじゃい!!!」


「お歴々!? いったい、どういうこと!?」


「貴様ら人間の知ったことではないわっ! こうなったら、エルフ全員に「狂化」スキルを添付して、めちゃくちゃにしてくれる!!」


「ま、まさかっ! 狂化スキルですって!?」


「知っているのか、神父!!」


「そのスキルが付いたものは、理性を失い暴れ続けるという恐ろしいスキルです!」


「その通り! その恐ろしいスキルを付けて、この村を悲劇的な惨状にしてくれる!! そんな修羅場を見せるために、人間界に呪術王のスキル持ちを誕生させることにしたんだからなぁ!」


 衝撃の事実!!

 ストフレッドに恐ろしい運命(笑)を背負わせた神の登場に、衝撃を隠せないシャーチク村の村人達!

 そして、なんか捨て駒にされたっぽいことを察したエルフ達!!

 あまりのことに動けないでいる両者をしり目に、運命を司る神々の一柱は、その権能を振るわんと腕を振り上げた!

 まさに!!

 その時である!!!


「おるぁあああああああああああ!!!」


「ケヒュッ!!!」


 突然現れた神々しい光を纏う女性による、走り込みラリアット!

 首を確実に狙ったその一撃で、運命を司る神々の一柱は変な悲鳴を上げたのである!!

 確実に首に入った証拠と言えるだろう!!!

 よろける運命を司る神々の一柱!!

 しかし!

 突然の襲撃者による攻撃は、留まるところを知らないのである!!!


「喰らえっ!!」


 軽々と跳躍した女性は、空中でひねりを加えながら華麗に宙を舞う!

 その遠心力を生かして繰り出されたのは!!

 芸術的延髄蹴り!!!


「す、すっげぇー!! なんて目を見張るような空中殺法!」


「っていうか、あれ! スキルを司る神々の一柱だぞ!!」


 お気づきの方も多かったことであろう!!

 何を隠そう!

 この女性こそは、スキルを司る神々の一柱だったのである!!!


「き、貴様ぁ! 俺が誰の指示で動いてるかわかっているのかっ!」


「お黙りなさい、このクソ小物ムーブ野郎! 人間界を混乱させ、祈りの量を上げようという一部の神による目論見は既に露見しました! 今頃、最高神様が黒幕達にソバットを決めているでしょう!」


「なん、だと」


 神々の会話を、呆然と聞いている村人達!

 何か聞いたらまずそうな会話である!!

 なら、とりあえず聞かなかったことにしよう!

 よくわかんないけど、なんか巻き込まれたりしたら怖いし!!

 シャーチク村の村人達と、エルフ達の心が、一つになった!

 見ざる言わざる聞かざるは、ド辺境に暮らす農民にとって必須スキルなのだ!!!


「というか、そういう人間に聞かれたら不味い情報をペラペラしゃべるものではありません!」


 アンタも大概喋っとるやないかい!

 と言いたいところであったが、全員そっと視線を下に向けた!!

 突っ込んだら聞いていたことになってしまうからである!!!


「というわけで、沈みなさい!」


 スキルを司る神々の一柱が、運命の方のヤツの後ろに回り込む!

 背面からがっちりとホールドを決めると、一気に地面から引っこ抜いた!!

 浮き上がる運命を司る神々の一柱!

 その体が描く放物線は!!

 未来への懸け橋なのである!!!


「ゲブフッ!!!」


「で、でたぁー!!! スキルを司る神々の一柱様の、ジャーマン・スープレックスだー!!! 運命を司る神々の一柱、うごけなぁーい!!」


「いやぁー、ここまできれいに決まったら意識持っていかれてるでしょう!」


 すかさず入る実況と解説!

 会場に集まったド辺境の農民達が、熱狂に沸く!!

 だが、これだけでは終わらないのである!!!


「ああっと! スキルを司る神々の一柱様、そのまま運命を司る神々の一柱様の上で転がった!! まさかこれは!?」


「このまま一回転して、もう一度決めるつもりですよ!」


 回転の勢いのまま立ち上がり、その動きを利用して再び運命を司る一柱を高々と持ち上げる!

 仕事=力×距離 という運動エネルギーの求め方に即した破壊力が!!

 運命を司る神々の一柱へと襲い掛かる!!!


「ジャーマン・スープレックス二本目炸裂ぅうううう!!!」


「これは相当なフィジカルが無いとできませんよ! スキルを司る神々の一柱様は、相当仕上げてきていますね!」


 しかし!

 二連続だけでは!!

 終わらなかったのである!!!


「私は夢でも見ているのでしょうか!? そのままさらに一回転! これは!?」


「きますよ!」


「三連続ジャーマン・スープレェエエエクッス!!!」


「もはやこれは芸術ですよ!」


「きゃー! すてきぃいいい!!」


「まさに女神様だぜー!」


「全身に油圧ポンプでも仕込んでんのかいっ!!」


 湧き上がる歓声が!

 とどまるところを知らない!!

 運命を司る神々の一柱、完全轟沈なのである!!!


「ふぅ。皆さん、安心してください。これで、彼が皆さんを惑わすことは、もうないでしょう」


「へへぇー!!」


「なんだかよくわかりませんが、ありがとうございます!」


「さっすが女神様だぜー!!」


「さて、ストフレッド。ストフレッドは居ますか?」


 穏やかな笑顔で語りかけるスキルを司る神々の一柱!

 だが、片足は運命を司る神々の一柱の上に乗っかっている!!

 無論のこと、ド辺境に暮らす農民達は見て見ぬふりであった!!!


「んえ?」


 一方!

 その呼ばれた当のストフレッドは!!


「あ、ごめんなさい。ぜんぜんきいてませんでした」


 めっちゃバーベキューを食っていたのである!!!


「スーさん、だからいったじゃない。なんかシリアスそうなはなしだし、きいてたほうがいいって」


「しょうがないよ。ずっとクッキーとクラッカーたべてて、くちがあまくなってたんだ。しょっぱいものがあれば、たべたくなるのがにんげんだよ」


「りんごも、たべてたじゃない」


「あのリンゴすごいよね。やいてるのにぜんぜんあじがぼけないし。さいきんはやってる、あまいだけのやつよりも、ちょっとすっぱさがある、ああいうやつがすきだな」


「この緊張状態の中で、無心でバーベキューを食べていたのですね。さすがは私が見込んだ少年です」


 スキルを司る神々の一柱は、なんかそこはかとなく満足気だったのである!

 神々のツボは、凡人にはとても理解できないのだ!!


「それは兎も角。貴方はスキル呪術王という、大変な重荷を背負って生まれてきました。地上にそのスキルを持ったものを誕生させることは、多くの神による話し合いのもとに決まったことです」


「かみさまって、ごうぎせいなのか」


「たいへんそうですね」


「そう。大変なのです。ですから今回のようなクソめんどくさい事態も起きたり、いえ、それは置いといて。スキルを持った子供を誕生させることを決めたのは多くの神による話し合いで決まったことですが、そのスキルをあなたに授けると決めたのは、私なのです」


「へぇー。そうなんですかぁ。なんか、たいへんそうなしごとですね」


「ストレスとか、すごそうだよね」


「何時も胃に穴が開く思いです。お偉方は大枠だけ決めて、結局は下に丸投げ。って、それもいいとして。貴方は私のことを、恨んではいませんか?」


「え? なんでですか? ぼくのしらないところで、ぼくのおこづかいをかくしたとか?」


「そんなことはしません。貴方に呪術王というスキルを授けたことについて、です」


「あー。いえ、ぜんぜん。このスキルをもったのが、ぼくでよかったな。とは、おもいます」


 ストフレッドの言葉に、スキルを司る神々の一柱は目を丸くする!!


「このむらは、いいむらですから」


 その一言が、すべてを物語っているのである!!!

 スキルを司る神々の一柱は、村人達を見回した!

 ほとんどの村人達が、ポカンとした顔をしている!!

 結構なアホ面が並んでいる!

 が!!

 彼らは、愛すべきアホばかりなのだ!!!


「呪術王のスキルを貴方に授けたのは、正解だったようですね」


 スキルを司る神々の一柱は、優し気に微笑んだ!!

 無論、その足の下には、運命を司る神々の一柱が踏みつけになったままなのである!!!


「ストフレッド。今回のことは、これで片が付きました。これは私が責任をもって、連れ帰りましょう。ですが、これから先、きっと貴方には多くの試練が降りかかることになるでしょう。それでも。きっと貴方は。いいえ。貴方達は、それを乗り越えていくことと、信じています」


「なんだか、よくわからないですけど、わかりました! がんばります!」


「ええ。がんばってください。貴方に試練をもたらすのはそのスキルですが、きっと、助けにもなってくれることでしょう」


「まったくはなしがみえないけど、わかりました! なんか、きっとうまいことやってみせます! このスキル、じゅじゅじゅぼっ ぬぁあああああああ!!!」


 口を押えて悶絶するストフレッド!!!

 そう!

 思いっきり舌を嚙んだのである!!


「スーさぁあぁあん!? なぜっ! さっきはいえたのに!! ヴぃーちゃんも、スーさんはせいちょうしてるって、いってたのに!!」


「まあ、人というのは、成功と失敗を繰り返して成長するものだからな」


「そう! だからい、いっかいのしっぱいで、まけてたまるか! じゅちゅじゅっ ああああああ!!!」


「もうやめなよスーさぁーん!!!」


 これから先!

 ストフレッド、シャーチク村には、様々な危機が降りかかることだろう!!

 だが!

 とりあえず!!

 シャーチク村は、今日も平和だったのである!!!

というわけで、「うちの村の子供が「呪術王」とかいう禁忌系スキルを取得した件」完結でございます

長々とお付き合いいただいて、ありがとうございました

気が向いたら、また番外編などやっていけたらいいなぁ、等と思っております




さて、今回は最終回ということで、特別にとある方からコメントをいただきました

この作品を語るうえで、けっして切り離せない方であり、一番の功労者ともいえる方

地の分さんです


地の分さん「多くのアマラ作品に携わってきましたが、こんなに叫び続ける作品は初めてでした。普通、地の分に!があると、ちょっと文体として受け付けない方もいらっしゃるので、避ける作品が多いわけですが。これはむしろ、全部!しているスタイルなわけです。正直こういうのは私自身は初めてで、非常に面喰いました。!と、!!、!!!はそれぞれに同じ効果にならないように気を使っていたつもりでしたが、いかがだったでしょうか。また次の作品も、がんばらせて頂きたいと思います。まあ、同じように叫んでばかりいるのは、ちょっとご勘弁願いたいですが(笑)」




地の分さん、本当にありがとうございますた

こんなに地の文を酷使したのは、私自身初めてです

ぶっちゃけ書いてて一番疲れるのが地の文でした

セリフ書いてるのと同じぐらい気を使いましたし


そんなわけで、改めて

ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました

少しでも楽しんでいただけたようでしたら、幸いです




続いて、非常に恥ずかしいのですが、宣伝をさせて頂ければと思います

新作を投稿しました


「おっさん、異世界でダンジョンを作ることになる」

https://book1.adouzi.eu.org/n6433gr/


かなりテイストの違う作品ですが

私が書いてみたかったダンジョン物の一つを、書いてみることにしました

もしよろしければ、読んでみて頂ければと思います

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― 新着の感想 ―
[一言] 遅ればせながら、完結おめでとうございます よく笑わせて貰って、良い作品でした。 どなたも突っ込んでいらっしゃらないようなので。 地の「分」じゃないよ!!地の「文」に修正してあげてください!…
[一言] 完結乙です 第三者の介入で戦いが有耶無耶になるのはあるあるですね スープレックスはリングを一周するのかと期待してたのは秘密です 三連でも相当ですし、スキルの女神の今回のバトルへの意気込みは…
[良い点] 完結おめでとうございます! 感嘆符(!)がこんなにたくさんあるのに、この作品にはとても馴染んでいたので面白かったです [気になる点] 地の文さんがそんなに疲れてたなんて 知らずに過ごして…
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