ド辺境からの物体エルフ
突然の発光!
唖然とする村人達!!
一体何が現れるのかと固唾を飲む村人達の目の前に現れたもの!
それは!!
相打ちに倒れるストフレッドとケビンの姿だったのである!!!
おおよそ大半の読者諸氏はお気付きのことであろう!
ストフレッドとケビンは、早速「キメェモンスター」略してキメモンでバトルをおっぱじめているのだ!!
ちなみに、審判はたまたま村に観光に来ていたキメェモンスターバトル委員会公式A級レフェリー、ミス・キタアカリである!!!
彼女はシャーチク村を出た後、カローシ村を訪れていたのだ!!
「両者、HP0! よってこの試合は、引き分けとなります!!」
「ま、また、ひきわけだー!!」
「よんれんぞく! しかも、おたがいに、いちげきでエイチピーのはんぶんをもっていきながらの、きょうれつなクロスカウンター!」
「くうきが、ぴりついてるぜ! こっちまでしびれるみたいだ!」
そう!
驚くべきことに、この勝負は四回目!!
しかもそのすべてが相打ちドローという、壮絶な試合内容!
流石に疲労を隠せないらしいストフレッドとケビンは、お互いに膝立ちのまま、荒く息をしているのである!!
ちなみに!
キメモンバトルは、プレイヤーへのダメージは一切ない!!
吹っ飛んだりダメージを受けてるっぽい感じだったりするのは、気分的なアレなのである!!!
「タップ君。私はあまり頻繁にキメモンで遊んでいるわけではないのだが。ここまで相打ちが続くものなのかね?」
「ヴィーちゃんのかんかくが、ただしいよ。ふつうなら、こんなにドローばっかりにならないね」
「ほう。ということは、この試合は普通ではない、ということかね?」
「まず、どっちもせっけいしこうが、にかよりすぎてるんだ。しかも、いちげきひっさつねらいの、かみそうこう」
「ほかにも共通点があるのかね?」
「あまりにも、だいすうんが、にすぎてるんだ。もしかしたら、すきるのえいきょうかも」
ストフレッドの持つスキルは、「呪術王」!!!
ありとあらゆる呪いを持ち、それらを駆使して地平を統べる力である!
対するケビンのスキルは、「覇道邁進」!!!
圧倒的な武力と智謀策略権謀をもって全てを支配統治する力である!
そう!!
どちらも形こそ違えど、王の器!!!
正道を外れていながらも、なお己の手中にあるもので臨むものを掴み取る!!
いわば二人は似た者同士!
どちらも特にダメージを受けてないのに、メッチャ演出しまくってがくがく震えてたり、こっそり服を汚してたりする芸の細かさもちゃっかり一緒!!!
お気付きの方も多いであろう!!
そう!
どちらも!!
同じぐらいアホだったのである!!!
「やるな、シャーチクむら! つぎでけっちゃくをつけてやる!! いままでとは、ちがうかんじでいくからな!」
「そっちこそ、カローシむら! こっちだって、これまでとはちがうもの、みせてやるぜ!」
「「ためてためて、いちげきでたおすスタイル!!!」」
ちなみに!
当人達にとってこれまでの戦闘スタイルは、「我慢して我慢して一撃」というものであった!!
「ためてためて、一撃で倒す」のとは、全くの別物なのである!!!
無論!!
「同じではないのかね?」
はたから見れば、どっちも同じようなものなのである!!!
「どうだろう。じっさいにみてみないと、わからないけど」
「ふぅむ。まぁ、楽しそうだから良しとしよう。ほら、あそこを見てごらん。少年達だけでなく、少女達もあんなに楽しそうにしているではないか。分け隔てなく楽しめる。キメモンとは、実に素晴らしい遊びなのだね」
「なんだろう。すなおに、うなずけないきもちになるのは」
こうして!
カローシ村で始まったストフレッドとケビンのキメモンバトルは、連続ドローにより!!
ついに、五回戦目へと突入したのである!!!
丁度、同じころ!
シャーチク村では、神父が首からかけていたシンボルが!!
めっちゃ輝きまくっていたのである!!!
「なになになに! こわいこわいこわい!」
「どういうこと!? なんで光ってんの!? 村長の頭!?」
「ハゲ関係ないだろう! 大体俺の頭自前で光ってねぇよ!!」
混乱が巻き起こる中!
光の中から、人型の何かが現れた!!
それは、教会に飾られた絵画に描かれた姿!!!
「あ、あああああああ、貴女様は!! スキルを司る神の一柱!!」
そう!
神父のシンボルから現れたのは、スキルを司る神の一柱だったのだ!!
「かかかかかか神様あぁ!!!」
「ははぁー!」
「ありがたやありがたや!」
秒で平伏すシャーチク村の村人達!
基本的にド辺境に生きる農民は、神様とかそういうのに弱いのだ!!
「貴方方が祈ってくださったおかげで、こちらにやってくることが出来ました。間に合ったようで、何よりです」
「ま、間に合った、ですか?」
「はい。まず、お礼を言わせてください。ストフレッドを、スキル呪術王を持つ少年を受け入れてくれて、ありがとう」
スキルを司る神の一柱の言葉に、村人達は首を傾げた!!
そんな村人達を見て、スキルを司る神の一柱は苦笑を漏らす!
村人達にとって、ストフレッドは村の子供である!!
受け入れるも受け入れないもないのだ!!!
「スキルというのは、一種の才能を目に見える形にしたものです。私たちスキルを司る神は、いわば才能を授ける神と言えるでしょう。
ですが、才能というのは祝福であると同時に、呪いのようなモノでもあります。
それがあるが故の苦しみもあれば、ないが故に苦しむこともある。
臨む道に進もうとしても、才能がなく挫折するものは、少なくありません。
むしろ、競争の激しい道であれば、心折れて去っていくものの方が圧倒的に多いのが当然です。
あのスキルがあれば、このスキルさえなければ。
持つ者は持たらず者の気持ちが理解できず、蔑み。
持たざる者は持つ者を羨み、妬む。
多くの者がスキルに翻弄され、時に道を踏み外します。
それは、仕方のないことなのでしょう。
人とは生まれながらにして、そういった面を持つ者なのですから。
ですが。
ああ、ですが。
この小さな村に住む貴方方は。
寄り添い、助け合い生きる貴方方は。
自分のスキルを受け入れ。
他人のスキルを受け入れ。
お互いに支え合い、この辺境の地で、平和な営みを築いている。
それはとても素晴らしく、とても得難いことなのです。
だからこそ。
私はスキル呪術王を、それを背負うことになる者を、この村に生まれる少年に定めたのです。
本来なら、まだ地上に下すべきではないスキルであると、私は思っていました。
他にもいくらかの神が、きっとそう思っていたことでしょう。
ですが、呪術王を持つ者を出現させることは、決定事項でした。
私達では、覆すことが出来なかったのです。
ならばせめて、せめて静かに暮らすことができるように。
そう思い、私はこの村を選んだのです。
やはりそれは、間違いではなかったのでしょう。
我々神が、貴方方にお詫びをすることは禁じられています。
ですからせめて、お礼を言わせてください。
あの子を受け入れてくれて、本当に、ありがとう」
淡々と語られる、スキルを司る神の一柱の言葉!
だが、聞いている当の村人達は、ポカン顔であった!!
何の話か、よく分からなかったからである!!!
「今は、まだわからない話かもしれません。ですが、何時かわかるようになる時が、来るかもしれません。本当は、そんな時は来ないほうがいいのですが」
スキルを司る神の一柱は、なにやら複雑そうな表情で笑っている!
だが!!
すぐに切り替えるように、表情を微笑みへと変えた!!!
「それよりも今は、大切な話がありましたね。結論から言いましょう。貴方方がストフレッド少年を守ることに、何ら問題はありません。
呪術王というスキル自体に問題があるわけではなく、それを持つ人の人となりが重要であることは、いつか教会を通して世界に知らせるつもりです。
ですが、残念なことに、今はそれをすることができません。今しばらく、時が必要なのです。
それまでの間、是非、あの子を守ってあげてください」
「そりゃ、まぁ。うちの村の子供ですし」
「よく遊んで、手伝いとかもしてくれるし。いい子だもんなぁ」
「アホだけどな」
「そうなんだよ。なんでアイツあんなにアホなんだ?」
「この間、トンボ獲ろうとして指回してて、自分の目が回って木から落ちてたぞ」
「それは。ヤバいレベルなのでは?」
にわかに賑やかになる村人達!
楽し気な村人達を、スキルを司る神の一柱は優しく見守っている!!
そんな中、一人不安げな神父が声を上げた!
「あの、ということは、エルフの人達のことは、どうすれば?」
「本来は話し合いで解決したいところですが、時間もありませんしやむを得ません。出来るだけ殺さないようにブチのめしてください」
さらっと零れだす暴力的な物言い!!!
神父の顔は引きつっているが、シャーチク村の村人達はノンリアクションだ!
普段から魔獣とかに襲われたりしたときに防衛したりしているので、暴力は割と日常茶飯事なのである!!
「ですが、エルフの人達ってたしか、すごく強いはずでは」
「戦闘民族だって話を聞きますし」
「マジかよ。金髪になってトンガリヘアになったりするのか」
「やめろ。おい、マジでやめろ」
不安がる村人達!
それも、当然のことであろう!!
かなりアレな感じにヒャッハーしている印象があるが、彼らはあくまで農民!
挨拶をすると「やぁ! ここは、しゃーちく むら だよ!」とかいうタイプの民族なのである!!!
「安心してください。あのエルフ達がやってきた村の名前を聞けば、きっとあなた達もやる気が出てくるはずです」
「村の名前、ですか?」
「彼らの村は、ブルーフォレスト地方のワイドヒューチャー村です」
ブルーフォレスト地方のワイドヒューチャー村!!
それが、エルフ達の村の名前だったのである!
割と北の方にある地方で、豪雪地帯!!
リンゴとかが名産で、すごく盛り上がる祭りがあることでも知られている!!!
「ああ。あのー、あれだ。リンゴの有名なところ」
「うん。すげぇリンゴの産地になってるところな」
「リンゴと、あとー、なんだ。リンゴ畑をネズミから守るのに、フクロウとか呼び寄せてる」
「それからー、んー、リンゴの有名なところだ」
残念ながらシャーチク村の村民的に、リンゴ以外イメージが無かったのである!!!
「でも、同じ農村だぞ」
「なんか勝てそうな気がしてきた」
「そうだな。うちの村のジャガイモ喰らわせてやろうぜ」
「おうよ! 同じ農村相手なら、やってやれねぇことはねぇ!!」
同じ農村には負けねぇ!!
ド辺境農村に生きる者達の、心意気である!!!
「貴方方なら、きっとどうにかできるでしょう。何とかして彼らをノシて、簀巻きにしてください。彼らをそそのかした神の方は、私がばっちりジャーマン決めておきましょう」
スキルを司る神の一柱の言葉に、村人達も思わずにっこり!!
神父は青くなったりしているのである!!!
「ああ、もう時間のようです。私はこれで去らねばなりません。あとは、あとのことは、貴方方にお任せします」
「なんだかよくわかりませんが、とりあえずワイルドヒューチャー村には負けませんとも」
「頼もしい言葉です。貴方方の前途に、幸多からんことを」
言い終えるや否や!
スキルを司る神の一柱は、現れた時と同じ光量を発し、消えていったのである!!!
村人達は、拝んだ姿勢のまましばし呆然としていた!!
「神様、いっちゃったな」
「このあと、どうすればいいんだ」
「とりあえず、ワイルドヒューチャー村に矢文ぶち込もうぜ」
「そうだな。文面は誰が考えるんだ? 140文字だぞ」
「村長に任せればいいだろ。なんかいい感じに考えてくれるって」
「よし、他の連中は戦いの準備だ!」
「でもさぁ。どうやって戦えばいいんだ?」
「まあ、対害獣訓練だと思えばいいさ」
「あのぬいぐるみに入ってやるやつな。それなら何とかなるか」
「そうと決まったら、急げ! シャーチク村の全戦力を集めろ!!」
「よっしゃ! 全員出撃だおらぁ!!」
こうして!
シャーチク村の行動方針は決まった!!
しかし、相手はなうての戦闘民族エルフである!
果たして、シャーチク村のごく普通な感じのド辺境農民達で、打ち勝つことができるのだろうか!!
シャーチク村の全戦力といっても、いるのは高が知れているのだ!
粉塵爆発から粘土状になったものを自在に操るところまで!
あらゆる状態の小麦粉を自在に操る変幻自在の小麦粉使い!!
全身を覆う外骨格は、守りではなく叩き込むための武器!
四つのフォームを駆使して戦う、変身能力者!!
影よりも、人の吐息よりも薄く、気が付けば傍に忍び立つ!
たとえ相手がどんな感知能力を持とうともけして捉えられぬ、見えざる者!!
近所の川どころか、湖を丸ごと凍りつかせる凍結能力!
氷雪系は噛ませといったやつごと凍りつかせる、圧倒的力量を持つ氷使い!!
あいさつするたびなかまがふえるね!
言葉にすれば、笑顔が増える言霊使い!!
シャーチク村最強の呼び声高き、もう一人の狩人!
振るわば勝利の拳を持った、村で最も靴下のくさい男!!
そして!
村に入った敵はすべて掃き清める!!
いわずとしれたシャーチク村の守護神!!!
他にも、まだまだ登場していない村人は盛りだくさん!!
果たして、シャーチク村の運命は!!
次回!!
いよいよ、決戦なのである!!!
本編に出てきますブルーフォレスト地方のワイドヒューチャー村は、青森県弘前市とは何のかかわりもない村でございます
さて、なんやかんや回数が多くなっているエルフ編も、いよいよ残すところあとわずか
「うちの村~」も、あとわずかということでございます
最後までお付き合いいただければ、幸いでございます
記・2020年 10月 25日




