光の坊さん
王都近くに建てられた、国教神殿!!
国教の総本山であるその場所は、途轍もなくデカかったのである!!!
どのぐらいデカいのかわかりやすく言うとするならば!!
東京ドーム一個分のデカさであった!!!
その中の一角!
祈りの間と呼ばれる場所に、老人が一人佇んでいる!!
現在八人いる最高幹部の一人!
“光の”ヴィッフェンドルフ、その人である!!!
スキル「光魔法」を持つ彼は、純粋な戦闘能力であれば国教最強!
国内でも指折りの使い手であった!!
いうて、ド辺境の農村の連中にはかなわないんじゃねぇの?
そんな風に思っちゃう人もいるかもしれない!!
だが、ヴィッフェンドルフの強さはモノホン!
どのぐらい強いかといえば、シャーチク村の村長とためを張れるレベル、といえば、お分かりいただけるだろうか!!!
そんな超物騒なおじいちゃんは、静かに祈りを捧げていた!!
日付が変わる時刻である!
一日が終わることに感謝し!!
新たな一日が平穏無事に過ぎるように祈る!!
それは、ヴィッフェンドルフが数十年一日も欠かしたことのないものであった!
この時!
祈りの間周辺には、誰一人として近づくことが許されていなかった!!
生きながらにして既に聖人認定も受けたヴィッフェンドルフの祈りは、それだけ神聖視されているのである!!!
その、祈りの最中であった!
突如ヴィッフェンドルフの目の前が、真っ白に染まる!!
染み出すように現れたのは、背後に巨大なガラス製の歯車のようなモノを浮かべた、青年の姿であった!!!
その姿を見たヴィッフェンドルフは、すぐにその正体を悟る!!
「運命を司る神の一柱」
それは、人間には名も教えられていない、貴い神の一柱!!
読者の皆様はご存知!
あのスキルイノシシにひどいことをした神である!!!
「“光の”ヴィッフェンドルフよ。お前に伝えねばならぬことが起きたゆえ、こうしてやってきた。我が声を聴き、なすべきことをなせ。良いな?」
「仰せのままに」
落ち着き払ったヴィッフェンドルフの様子を見て!!
運命を司る神の一柱は!
大いにビビっていた!!!
相手はかなりの上位聖職者!!
これまでの功績もかんがみれば、天界に上った後はかなり権威ある神となることは必定!
将来の上司候補に対し大上段から行くには、運命を司る神の一柱は小物過ぎたのである!!!
しかし!!
ここはバシッとやらなければならない場面!
運命を司る神の一柱は、自分に気合を入れなおした!!
ちなみに!
この場所は大神の一柱が祝福をした場所であり!
神聖な領域であった!!
相応の対価を払わなければ神であろうと干渉できず!
悪魔などは近づいた瞬間に消滅するような場所なのである!!
それもあって!
ヴィッフェンドルフは現れた運命を司る神の一柱を、それに擬態した悪魔などとは疑わず、一発で信じたのである!!
もっとも!
それがなくとも、ヴィッフェンドルフぐらいになれば、見ただけで相手の正体を正確に見抜くことは、難しくない!
信用を得ようと、大枚叩いてこの場所に干渉した運命を司る神の一柱ではあったが!!
ある意味無駄な出費だったのである!!!
「呪術王。あの忌まわしいスキルを持つものが現れた。辺境にある、シャーチクという名の村だ。だが、村の者達はその者を庇い、隠している」
「そのような恐ろしいことが」
言葉とは裏腹!!
ヴィッフェンドルフは非常に落ち着いて見えていた!
常に冷静沈着!!
永年に渡り、神敵を情け容赦なく屠ってきた男である!!!
たとえ伝説に語られるものが現れたと聞いたとしても!
揺るがず!
動じず!!
その様を見て、運命を司る神の一柱は頼もしさを感じたのである!!!
この男ならば!!
きっとかの村を地獄のどん底に叩き落してくれるだろう!
惜しむらくは!!
運命を司る神の一柱自身が、それを指示できないことである!
聖人認定もされたような大物に指示を出す権利を得るには、手持ちのポイントが少々足りなかったのだ!!
とはいえ!
相手は異端者との戦いでその名を鳴らし、運命を司る神の一柱でも若干引くぐらいの武闘派である“光の”ヴィッフェンドルフ!!
こちらが何も言わずとも、進んで呪術王を焼き払ってくれるはず!!!
運命を司る神の一柱は、そう睨んだのである!!
「うむ。恐ろしいことよ。念のため、彼奴が今持っている力を見せよう」
そういって手を振ると、半透明の画面が空中に浮かび上がる!
記されているのは、ストフレッドが現在使える呪いのリストであった!!
「今はまだこれだけしか、彼奴の力はない。だが、これより力を増していけば、必ず脅威となろう」
ヴィッフェンドルフは、静かに顔を上げ、それを確認した!!
瞬間!!!
「こっ! れ、わっ!」
それまで小動もしなかったヴィッフェンドルフが、表情を変えた!!
「これは、真に? いえ、運命を司る神の一柱がお示しになられたこと、真に違いありますまい。失礼を、平に」
「よい。信じられずとも無理はない。ことが事だけにな」
そうは言った運命を司る神の一柱だった、が!!!
ヴィッフェンドルフが何に反応したのかが、めちゃめちゃ気になっていた!!
さっきまで冷静だったのに、一体何に反応したというのだろうか!
そこまで危険な呪いは無かった様な気がするのだ、が!!
やる気になってくれたならオールOKである!!!
「よいな、ヴィッフェンドルフ。己の、なすべきことをなすのだ」
そう言った運命を司る神の一柱の身体が、徐々に消えていく!!
制限時間が来ちゃったのである!
だが!!
運命を司る神の一柱の内心は、晴れやかであった!
これで今度こそ、村の連中をぼっこぼこにすることができだろう!!
ざまぁみやがれ!
俺の思い通りにならなかった罰だ!!
超シリアス展開に巻き込まれて、悲鳴を上げやがれ!!!
そんな内心は全く見せず!
運命を司る神の一柱は、穏やかな表情で消えていくのであった!!
運命を司る神の一柱が完全に消えるのを見届けたヴィッフェンドルフは、すぐさま行動を開始した!
既に夜半!!
誰もが寝静まり、一部の寝ず番のものが起きているのみ!
それでもかまわずヴィッフェンドルフは、ある場所に向かった!!
異端審問局である!!!
ラノベとかマンガとか好きな人なら、大体どんなところか御分かりであろう!
悪魔信仰や邪悪な儀式などを取り締まる組織である!!
ヴィッフェンドルフは、元々その局長であった!
現在は身を引いたものの、現局長は子飼いの部下!!
他の局員の多くもヴィッフェンドルフの弟子筋のもの達であり!
未だに強い影響力を持っているのだ!!
異端審問局局長室!!
たまたま起きていたということで、ヴィッフェンドルフは現局長に凸ったのである!
「“光の”ヴィッフェンドルフ様。何かございましたか」
「今は、聖人としてここに来たのではない。一人の、ヴィッフェンドルフとしてきたのだ。畏まる必要はない」
「師父、それは、一体?」
ヴィッフェンドルフの弟子でもある現局長は、驚愕に目を見開いた!!
いつ、いかなる時も国教の守護者として行動してきたヴィッフェンドルフが、こんなことを言っているのだ!!
よほどの異常事態であると、気が付いたのである!!!
「まこと、世の分からぬことよ。先ほど神託を受けた」
「それは、いかなる?」
現局長は疑うそぶりもなく訊ねた!!
この神殿では、神様がひょっこり現れることがよくあったのである!
どこぞの神を見てお分かりのことと思われるが!!
ヒマな神様は割といたりするのだ!!!
「呪術王が、現れた。と」
「彼のスキルを持つものが、ですか。報告は上がっておりませんが、一体」
「辺境にある、シャーチク村という場所だそうだ」
「辺境の。早速、審問官を送ります」
「必要ない。私が行く」
現局長は、息を飲んだ!!
ヴィッフェンドルフは、立場上簡単に神殿を離れることができないはずなのだ!
「しかし、師父。あまりに時間がかかってしまうのでは。やはり、調査だけでも我々で」
「必要ない。確かに、聖人指定をされて以降、私が外へ出るのは難しくなった。なれば、お返しすればよいのだ」
あまりのことに、絶句する現局長!!!
対して、ヴィッフェンドルフの声は、あくまで穏やかである!!
「元々、分不相応ゆえ、何時かはお返しせねばならぬと思っていた。良い機会だ。私の本質はやはり、あの頃から変わらんのだ。冒険者として旅をしておったあの頃から」
国教の修行には、冒険者や兵士として活動するというものがあった!
魔物との戦いに身を投じることで、多くの苦しみに身を晒し、多くの苦しむ人々を救おうというものである!!
ヴィッフェンドルフは若かりし頃、冒険者としても名を馳せていたのだ!!!
「お待ちください! いや、なぜ、なぜ、そのような!」
そんなことはおやめくださいとは、言えなかった!
ヴィッフェンドルフがこれほどのことを言い出すからには、よほどの事情があるに違いないのである!!
「神託を頂いた際、呪術王が今どのような呪いの力を持っているのかもお示しになられた。その中に、あったのだ」
「あった? 一体、何が。まさかっ? そんな、もしや、もしや、師父!」
ハッとした表情の現局長に、ヴィッフェンドルフは静かに頷いて見せる!!
「呪いの中に、あの力があった」
「まさか、そんな、いや。いや。わかりました、師父よ。諸々のことは、全てお任せを。師父はこのことに注力なさってください」
「すまん。苦労を掛ける」
「なんのこともありません。ご存分に、なすべきことをなさってください。遅れてにはなりましょうが、私も必ず、後に続きましょう」
意味深な会話をする師弟!!
一体、何が起ころうというのか!
それは次回以降の!!
お楽しみなのである!!!
なんだかシリアスなまま終わるのもあれなので!!
どうでもいいオマケが付くのである!!!!
「ぐぬぁあああああああ!!!」
「タっつぁんもうむりだよ! もうやめようって! こんなのよくないよっ!」
タップを助け起こそうとするストフレッド!
しかし!!
タップはその手を、やんわりと拒絶するのである!
「ふふ。いつもと、たちばがぎゃくだね。でも、やらなくちゃいけないことがあるんだ。いつものスーさんは、こんなきもちなのかな」
「じゃあ、もうやめなよっ! こんなことしたって、だれもよろこばないって! きっと、おとなだってやめろっていうよ!」
「そうかもしれない。でも、だめなんだ。ぼくは、ぼくは、やらなきゃいけない。やりきらなきゃいけない。じゃないと・・・みんなにえっちまんとかいわれちゃうんだ!!」
説明しよう!!!
タップのスキル「領域支配」は、空間そのものを自分の一部として支配するという能力である!
その空間は強力な力場であり、サイコキネシスの様に物を浮かせたり破壊したりすることができるだけではなく!!
空間そのものに五感まで備えているという、優れものであった!!!
実はこの能力!!
タップは未だうまく制御することができていなかった!!
使いこなすことが出来れば、五感の感度や入り切りまで自分の意思で切り替えることができるのだ、が!
タップはそれがうまくできなかったのである!!
つまり!!!
「のうりょくつかってるあいだじゅう、すかーとのぞいたり、おっぱいさわったりしてるとおもわれるんだ!」
「そんなことないよ。タっつぁんがそんなことしないって、みんなしってるよ」
「そりゃうたがうさ! じっさいやってみたいもん!」
「そういうのをみとめられる、いさぎよさも、それをおさえられる、せいしんりょくもふくめて、タっつぁんはすごいよ」
「でもやってないのに、うたがわれるのは、いやだ! だから、せいぎょできるように、ならなきゃいけないんだ!」
自分でやったならともかく!!
ぬれぎぬを着せられるのはごめんなのだ!!!
「だからって、こんなことしなくても」
ストフレッドの視線の先!!
そこにあったのは、毒々しいまでにやばい感じの真っ赤なヤツ!
激辛トウガラシ!
その名も「ヤリガ=イコソヨロ・コ・ビ」!!
カプサイシンを抽出するために作られた、工業用作物である!!!
あまりにも威力がありすぎるため、基本的にそのまま食べることは禁止されているブツだ!!
以前、とあるフードファイターが「おおげさすぎwww 俺生で食ってやりますよwww」といって実際に食った結果!
未だに王都にある病院のベッドの上で意識不明になっているというのは、有名な話である!!!
タップはその「ヤリガ=イコソヨロ・コ・ビ」を!
スキルを使って移動させるという訓練を行っていたのだ!!
辛さを感じるのは、味覚ではなく触覚である!
すなわち!
触覚の制御を誤れば地獄を見る、恐ろしい行為なのだ!!
だが!
用意しているのはそれだけではない!!
超酸っぱいレモン汁!
パン屋の一人娘(中二ぐらい)から借りてきた超怖いマンガ本!
怖い話が流れてる、魔道ラジカセ(パン屋の一人娘から借りたやつ)!
ストフレッド父の靴下!
どれもこれも負けず劣らずなシャーチク村最強五感破壊兵器なのである!!!
「これだけのもの、あつめたんだし。てつだってくれたハヤトにいちゃんのためにも、がんばるんだ!!」
ハヤトにいちゃんとは!!
スキル「専用強化外骨格生成」を持つ、農家の次男坊である!
その名の通り自分の身体能力を強化する装甲を生成するスキルを持っており!!
農業で大活躍をしている、期待の若者なのだが!
ガキの頃から悪戯好きであり!!
16歳になった今でも、子供達の兄貴分として遊んでくれたりしている、好人物なのだ!!!
「これをあつめるために、ハヤトにいちゃんはぎせいになったんだ」
「パンやのねえちゃんに、けられてたよね」
「あのふたり、いつになったらつきあうのかな」
「どうみても、りょうおもいなのに、どっちもきがついてないんだよなぁ」
「まんがかよ。りょうかたおもいって。まんがかよ」
「スーさん、のろいがもれてるよ。おちつきなよ」
「しんさくのぱんができたとき、まっさきにハヤトにいちゃんにもっていったりさ。なんなんだよ、もう。はよつきあえや。ちょっといって、いやらしいふんいきにしてきますね」
「スーさんってじれったいのきらいだよね」
「はやくらぶらぶになればいいとおもう。ボク、そういうののほうがすきなんだ。ほほえましくて」
「ぼくは、じれじれもすきかなぁ」
ド辺境に生きる子供は、早熟なのである!!!
「とにかく! ぼくは、やらなくちゃいけないんだ! ぜったいに、えっちまんなんてあだなを、つけられないために!!」
「おちつきなよ、タっつぁん! そんなせんすないあだな、さすがにだれもつけないよ! せめてスケベニンゲンとかだよ!」
「ぜったいに!! せいぎょしてみせ、うわぁああああああああああああ!!!」
「タっつぁーーーん!!!」
激しい修行の末!
ついに!!
タップは己のスキルを、制御するすべを身に着けたのである!!!




