ザ・ラスト・メッセンジャー ~イノシシ~
王国歴651年!
その年は天候もよく、災害に悩まされることもなく!
農民達の努力もあって、豊作が見込まれていたのである!!
ゆえに!
主だった村人達が集まっての定例報告会という名の酒盛りは、和やかな雰囲気の中で進められていた!!!
「聞いたか? 隣国との国境沿いで、また武力衝突だってよ」
「らしいな。なんでも、今回はスポーツチャンバラでの対決だったって話だろ?」
「怖いよなぁ。俺なんて絶対近づけねぇよ」
「それでいいんだ、俺らは畑耕すことしかできねぇからな」
「おうよ。それにかけちゃぁ、だれにも負けねぇさ!」
しかし!
血相を変えて飛び込んできた伝令の言葉により!
そんな雰囲気は一瞬にして消し飛んだのである!!!
「害獣警報! 偵察部隊が、警戒ライン近くで畑を狙う害獣を多数発見! 種類、頭数ともに複数! 害獣ハザードと推定!!」
害獣ハザードとは!!
通常個々別々に畑を狙う害獣が、大挙して襲撃を企てる現象のことである!!!
それが起こる理由は状況によってさまざまではあるものの!
ド辺境の農村に暮らすものにとっては、珍しくない現象であった!!
何しろド辺境というのは、人間にとっても魔獣にとっても暮らしにくい土地である!
少しでもいいものを食べたい!
いい暮らしがしたいという思いは、人獣ともに同じ!!
目の前にうまそうなものがあるとなれば、食らいつきたくなるのが生物の性!なのである!
したがって!!
こういう時の対処は、農民達にとっては慣れたものなのであった!!!
「第一種警戒体制! 総員対害獣戦闘配備!」
「「「おうっ!!!」」」
村長の掛け声一番!!
農民達は普段の訓練通り、素早く行動を開始したのである!
畑を含む村全体に、サイレンが響き渡る!!
子供達は一斉にそれぞれの家!
あるいは避難所へと駆け込んでいった!!
害獣駆除に参加する大人達はあわただしく動き回り!
年寄り達は手押し車で村中を駆け巡り、警戒網を築いていく!!!
「呪いによって害獣被害は抑えられると思っていたんだがな」
シャーチク村農業倉庫に設置された対害獣作戦司令本部会議室!!
そこでは、対害獣戦を前に、作戦会議が開かれていたのである!
「むしろ、呪いがあったからこそ、今までは無事だったと考えるべきだろう」
「その通りだろうな。なにしろ、今期はこれが初めてだ」
「繰り返すが、それならなぜ今回に限って? と、言っても、まぁ、理由は限られるだろうな。おそらくは、スキルだ」
忌々しそうに吐き捨てる一人の言葉に、居合わせた農民達は苦い表情を浮かべた!!
そう、スキルである!
人間がスキルを持ち合わせるように!!
害獣達もまたスキルを持ち合わせるのである!!!
スキルによって構築した害獣除けも!
同じくスキルを用いて対応されれば、もろくも崩れ去ることがあるのだ!!
ゆえに!
シャーチク村の住民達は、村長の犠牲による防御だけを過信することなく!!
防衛網を崩すことなく維持してきたのである!!!
実際!!!
ストフレッドの呪術による、害獣の心をへし折る呪いは、あのイノシシのスキルによって無効化されていたのだ!!
スキル「熱血指導」を用いての、暑苦しいまでの気の高まりにより!
心が折れそうになるイベントによるモチベーションの低下を、無効化したわけである!!!
無論!
これはたまたまではない!!
運命を司る神々の一柱は、そこまで考えてあのイノシシにスキルを添付していたのだ!!!
「スキル持ちがあの一団を率いているのか、あるいは、スキル持ちの一団なのか。どちらかはわからないが、恐らく呪いによる副作用での防衛は望めないだろうな」
「ならば、いつも通り迎撃するだけだ。俺たちの畑を狙ったことを、後悔させてやる」
部屋の中央には、村とその周囲を象った立体映像が浮かんでいる!!
これは農協で売られている、対害獣用戦術立体地図であった!
お値段は張るものの、あるとないとでは大違いという、ド辺境農民のマストアイテムだ!!!
「御覧のように、すでに村の周囲は多くの害獣に囲まれた状態です。複数種の害獣による混成部隊であり、何らかの意図によって分散されていることは明らかです」
「こちらの定点警戒装置の探知範囲の、ギリギリ外に集結してるのか。よく現段階で気が付いたな」
「警戒に当たっていたのがマッチュンでしたから。まったく、アイツの能力には驚かされますよ」
「流石、新婚家庭にこっそり侵入して、ワインと花束を置いてくるだけのことはあるぜ」
「そのマッチュンから上がってきた、害獣各部隊毎の、構成魔獣一覧です」
「これは。食性がかぶっている魔獣が同じ部隊に配置されていないな」
「おそらく、襲撃の時に同じものを食い合うのを避けるためだろう。こんなことを考えるとなると……」
「やはり害獣ハザードだな。人間ならわざわざこんな非効率な配備にはしない。害獣の中に、先導している奴、あるいは奴らがいるんだ」
「くそっ! バカにしやがって!!」
農民以外には少々理解しづらいかもしれないが!!
結託して農作物を狙うような害獣野郎は、農民にとって許すことができない存在なのである!!!
勘違いするものも多いのだが、農作物というのは一年二年で作られるものではないのだ!
長年かけて畑を守り、土を作り、作物が元気に育つよう労力と努力を惜しまず!!
時に理不尽な天災により、収穫を無為にされる悲しみにも耐え!
文字通り必死の思いで、やっとのことで漕ぎつけるのが、収穫なのである!!!
無論、無事に収穫が終わっても、それで終わりではない!
次の収穫のため!
次の次の収穫のため!!
畑を継いでいく、子孫たちのため!!!
一つ一つ積み上げてきた、積み上げていかなければならないものを!
横合いから突然現れて喰らいつくしていくのが、害獣なのだ!
そんなものに掛ける慈悲などあるだろうか!!
無論、皆無なのである!!!
「状況はわかった。こうなった以上、襲われるのを待つ必要はない。アクヤクレイジョウ・プロトコルを発動する」
アクヤクレイジョウ・プロトコルとは!!
代々シャーチク村で引き継がれてきた、対害獣戦術の一つである!
集まっている害獣に攻撃を仕掛け刺激することにより、暴走を促す!!
然る後、その群れを最も攻撃力が高い地点におびき寄せ、一気に叩くというものである!!!
言ってしまえば、おびき出しの類であり、ごく単純な作戦であった!
BUT!!
単純がゆえに効果は絶大!
上手くハマれば、害獣共を根こそぎころりとヤれる、ステキ戦術であった!!
ちなみにこのネーミングは五代前の村長が付けたものであり!
「前任もそれでやってたし。自分の代で変えるのもなぁ」
といった理由から、いまだに受け継がれているものなのである!!
これは言うまでもないことなのだが!
プロトコルの意味は!!
誰もわかっていないのである!!!
こうして!
シャーチク村 VS 害獣連合 の戦いの火蓋に、大樽爆弾がたたき込まれたのである!!!
シャーチク村農作物共同倉庫 対害獣作戦司令本部 中央作戦司令室(HGP明朝E)
作戦会議を終えた村長は、司令本部の司令室に入った!
当直であったヨスィーオッカに代わり、村長が指揮を執るためだ!!
ヨスィーオッカから、指揮権を持つことを示す胸章を受け取り、自らの服に取り付けた!
「では、村長。私も突撃班に合流します」
「頼む。だが、あまり派手にやらんようにな。お前の炎魔法LV3は強力すぎるからな」
「なに、調理するのは私ですからね。ほどほどにしますよ」
ヨスィーオッカは、村唯一の宿屋の主人にして、食事処兼居酒屋の店主である!
害獣を倒した後、それの調理を任されることも多いのだ!!
ヨスィーオッカが部屋を出ていくのを確認した村長は、自分の頭を撫でた!
髪の毛を犠牲にしてでも、守りたいものがある!!
村長のスキンヘッドは、覚悟の証なのだ!
「状況確認」
「突撃各班、出撃準備よし」
「各砲台、装填よし。砲撃要員は指示が出次第、砲撃に移れます」
「レーダー、未だ感無し」
「偵察班から連絡。害獣、未だ移動無し。このまま監視を続ける」
「村内、非戦闘員避難完了しました」
「よし。では、作戦開始」
村長の落ち着き払った言葉!
威厳と風格を漂わせたその合図により!!
シャーチク村の先制攻撃が、始まったのである!!!
シャーチク村の畑を狙うアニマルソルジャー達!!
そんな彼らは今、出撃の合図を待っていたのである!!!
「なぁ、上手くいくかなぁ、この作戦」
「そりゃぁ、上手くいくさ。同志熱血イノシシが言ってたんだ、大丈夫さ。なんだお前、えらく不安そうだな?」
「実は俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」
「ホントかよ! そりゃ目出たいな!」
「エサをたっぷり食って体を大きくしたら、生まれ故郷に帰るんだ。ドクドングリがたくさんあるところでさ。そこで静かにくr」
その時である!!!
空から飛来した赤熱した火球が、アニマル達を強襲!
地面に激突した瞬間!!
すさまじい衝撃波を放ち、害獣共を吹き飛ばしたのである!
「な、なんだっ!? 何が起きた!!」
「敵襲だ!! 人間が襲ってきたぞ!」
「馬鹿なっ! なんでここがばれたんだっ!」
混乱のナイトプールでパシャパシャし始める害獣連合!!
彼らを恐怖に陥れた火球の正体!
多くの方がお気づきだろうそれは、やっぱりヨスィーオッカであった!
炎で形作られた矢の群れが、ヨスィーオッカの手から放たれる!!
矢は自ら意思を持つもののように軌道を変えながら、害獣達を強襲!
体に突き刺さったその刹那!
害獣の身体が、爆発したのである!!
体に突き刺さった火で作られた矢の先端が、一瞬にして体内に広がり!
高温による体内水分の膨張による、水蒸気爆発を引き起こしたのである!!
その爆発力は驚くべき威力を持っていた!
矢による被害を免れた周りの害獣にも、被害をもたらしたのである!!
「ば、ばかなっ! どうなってるんだチクショウ!」
「コックが無敵なのは、キッチンだけじゃねぇーってのかよぉ!」
ヨスィーオッカは、普段からコックの服装で動き回っているのである!!
オフの日も遊びに行くのにも寝るときも!!
何なら風呂に入るときさえコック服なのだ!!!
曰く!
コックは常在戦場!
戦場に赴くのに戦闘服であるコック服を着用するは、至極当然!!
常在戦場とか戦闘服ってそういう意味じゃねぇぞという至極まっとうなツッコミは!
ガン無視なんである!!!
同刻 害獣連合集結場所 別地点(HGP明朝E)
この場所に集まった害獣達も、シャーチク村の村民による襲撃を受けていたのである!!
「なんなんだあいつらっ! 魔獣である俺たちを、紙切れみてぇに吹き飛ばしやがってっ!」
「このままじゃあ、ぜんめつだぁ!」
「落ち着けっ! 人間の全部がああじゃない! あいつらは特別な人間なんだ!」
実際、その通りであった!
この場所に襲撃をかけているのは、シャーチク村最強の狩人!
ストフレッドのオトンだったのである!!
いかなド辺境の農村とはいえ、魔獣相手に無双をかませる人員は限られていた!
すなわち!!
「畑はがら空き状態ということ! 今この時襲撃をかければ、畑の作物は食い放題だ!!」
「おお!! なるほど、考えてみればその通り!」
あながち間違った理屈ではない!!
害獣連合の獣達は、すぐさまその考えに賛同!
ここで戦うは愚行とばかりに、村に向かって突撃を開始したのである!!
がら空きの畑に突っ込めば、あとは食い放題!
食うだけ食ったらバラバラに逃げるのみ!!
そんな考えの害獣達は、しかし!!
自分達が手のひらの上で踊っているとは、思いもしなかったのである!!!
森のお花畑 害獣連合総本部(HGP明朝E)
思惑通りに流れる事態に、スキルイノシシはほくそ笑んでいたのである!!!
「くっくっく! 農民共がつり出し作戦に出ることはわかっていた! それに魔獣達がのっかってしまうことも想定内だっ!!」
多少なりともものを考える頭があるとはいえ、獣は獣なのである!!
目の前にニンジンがぶら下がっていたら、食いつこうとするのは当然!
無論、罠があるだろうことも承知で、突撃をかけるのだ!
なにしろ、害獣といえど彼らは魔獣!!
数がそろってその気になれば、多少の罠ごとき食い破ることは可能!!!
魔獣の襲撃にあい、消えていった村は数知れず!
魔獣と人間の力関係とは、本来!
前者が圧倒的にであるものなのだ!!
しかし!!!
それでもド辺境に農村が作られるのは!!
本来の力関係を覆す、屈強なる農民達がいるなればこそ!!!
とはいえ!
魔獣の突撃を正面から受ければ、農村側とて無事では済まない!!
「突撃を受ければ、相当な被害が出るのは間違いないっ! そこに、さらなる連中にとって予想外の攻撃を仕掛けることで、さらなる被害を引き起こすのだっ!!」
その被害は、間違いなくストフレッドの心にトラウマとなって残るであろう!
「トラウマがトラウマを呼び、ストフレッドは暗黒面に堕ちる! さすれば運命を司る神々の一柱様の思惑通り、超シリアス展開まっしぐら!」
すべてはスキルイノシシの思惑通り!!
ここまでは全く予想通りの展開に、笑いが止まらないのである!!!
シャーチク村畑地帯 辺境境界線付近(HGP明朝E)
村民達の襲撃を潜り抜け!
害獣達が、畑近くへ到着したのである!!
「ひゃっはー! 畑だぁー!」
「片っ端から食い荒らして、地面も凸凹にしてやるぜぇー!!」
世紀末のモヒカンよろしく殺到する害獣集団!
しかし!
奴らの思惑通りには、行かないのである!!!
「目標確認!」
畑の土の中に隠れていた村民が、指令本部へ念話を飛ばす!
すると、畑外縁から突如地鳴りのような音が響き始めた!
起こった変化は、驚くべきもの!!
畑わきにあったあぜ道が、突如せり上がり始めたのである!!!
起きた変化は、それだけではない!!
あぜ道がせり上がってできた壁の向こう側の地面は、一気に陥没!
空堀のように変化したのだ!!!
無論、これはシャーチク村が仕掛けた罠!!
司令本部からの指示一つで発動する、防御機構!
村に暮らす「土魔法」系統のスキル持ちすべてを動員して構築された、鉄壁の守りなのだ!!!
「うわぁああああ!!!」
「突然壁が、とまれぶべりっ!!!」
次々に壁に激突し、穴に落ちていく害獣達!
たくさんの害獣が落ちれば、空堀は埋まってしまいそうなものだが、そうはならなかった!!
壁周辺に隠れている農民達が、それぞれのスキルを駆使し、そうならないようにコントロールしているのだ!
「堀に落ちて動けない害獣なら、いくらでも放り投げられるぜ!」
スキル「サイコキネシス」の使い手!!
「どんどんほっちゃおうねぇー」
スキル「農民」を持つ、穴掘り好きの村民!
「おらぁ! おらぁ!! おらぁあああ!!!」
スキル「モグラたたきとか得意」の使い手!!!
様々な特技を持つ農民達が、自分の持ち味を生かし力を合わせているのだ!
たとえ一人一人はトリッキーで「それ使いどころあるのあるのか」というスキルであったとしても!!
力を合わせれば、可能性は無限大なのである!!!
「クソ、思ったより抵抗が激しいぞ!」
「俺たちに任せろ! 焼き払ってやる!!」
その時前に出てきたのは、魔法攻撃能力を持つ魔獣達である!!
魔獣の魔法攻撃は、人間のそれをはるかに上回るのが常識であった!
ブレスなどの攻撃手段を持つ魔獣に対抗するには、最低でも国軍一個小隊が必要だといわれているのだ!!
しかし!!!
「魔法攻撃の予兆を確認。砲撃、開始!」
現場指揮官による指示で、シャーチク村村民による砲撃が開始されたのである!!!
農業用投擲型肥料 バーブーン(HGP明朝E)
金属製の哺乳瓶みたいなビジュアルのそれは、内部にゲル状の肥料を詰め込まれた、投擲型の特殊肥料である!!
だだっ広い辺境の畑で効率よく肥料をまくため農協が開発したそれは、人や魔獣に当たれば甚大な被害を及ぼす凶器にもなっていた!
これを投げるのは、スキル「農民」持ちの村民である!!
突き刺さると傘を開き、音速に迫る勢いで周囲にゲル状の肥料をまき散らすという物騒な物体であっても、農業器具は農業器具!!!
スキル「農民」による補正がかかれば、その威力は一気に跳ね上がるのだ!!!
「ぎゃぁあああ!!!」
「な、なんなんだ! なんなんだよぉおおお!!!」
「ひでぶっ!!」
金属製哺乳瓶の爆発で、華麗に吹き飛んでいく害獣達!!!
同じような惨状が、村の別場所でも繰り広げられていた!
同刻 別地点(HGP明朝E)
「闇、切り裂くもの。敵、打ち払うもの。轟、叫び狂うもの。我が、内なるものを、開けたる門より解き放つ。そを、我が眼前で前言のものへと転ずる」
身の丈ほどの杖を持った老人が、朗々と言葉を紡ぐ!!
晴れていたはずの上空には雲が垂れ込め、稲光が光り始めた!
「爆ぜ、砕き、滅せよ。ライジング・ストライク!!!」
刹那響き渡った轟音とともに、まばゆい閃光の塊が害獣の群れへと突き刺さる!!!
発生した落雷は、一瞬にして殺到していた害獣達の前衛大半を消し飛ばす!!
「うふぉっふぉっふぉっふぉ。まだまだ、こんなものではないぞい」
いかにも歴戦の魔法使いといったことを言っているが、この爺さんは工務店の隠居であった!!
手持ちのスキルは「氷雪魔法」!
今引き起こした落雷は、氷の粒をこすり合わせることによって静電気を起こしたものである!
何故直接氷で攻撃しないのか!
疑問に思う方もいらっしゃることだろう!!
無論、理由があった!!
「だって氷雪系って噛ませ犬っぽいじゃろ」
ごく個人的な印象の問題だったのである!!!
ついでにいうと!
魔法は特に呪文とか必要なく発動するものであった!
つまり、先ほどの呪文は!!
ただ単に言いたいから言っていただけの、完全なる趣味なのである!!!
同刻 別地点(HGP明朝E)
「さようなら! さようなら!! さようならっ!!!」
ひたすら声を張り上げる農民!
ただ別れを告げる言葉をかけているだけなのだが、起こる変化は劇的!!!
声をかけられた魔獣が、突如として進路を変えて逆方向へと走りだすのである!!
そんだけ?
と思う方もいらっしゃるかもしれない!
だが、突撃攻撃中に反転すれば、その影響は甚大!!
追突に次ぐ追突の連鎖反応!
玉突き事故の連鎖が引き起り、大惨事と化すのだ!!!
いったい、どうしてそんなことに!
無論、原因は農民の声にあった!!
スキル「あいさつの魔法」!!!
挨拶に込められた意味を強化するというその魔法は、上手く使えば効果はばつ牛ン!(誤字にあらず)
どんな時でも「さようなら」と言われれば、「あ、帰ろっと」と回れ右してしまうのだ!!
それぞれ体格の異なる害獣連合の中から、一際大きなものを選んで声をかけるから、なおさら惨事は大きくなる!!!
通常であればなされないであろう魔法の応用!!
こんなある意味姑息な使い方をしているのは、農家の次女であった!!
普段から小説とかを読み漁っている彼女の夢は、いつかハクバノ王子サマに迎えに来てもらうこと!
あるいは男性同士のカップルの部屋に置かれた、観葉植物になることである!!
彼女のことが気になっている幼馴染がいるのだが、そんな思いにはビタ一気が付かない!!!
ドンカン系主人公属性まで身に着けているのである!!
同刻 別地点(HGP明朝E)
爆発!
爆発!!
爆発!!!
次々に起こる爆発が、害獣を吹き飛ばしていく!
無論、この爆発も村民が引き起こしたものであった!!
白い煙のようなものが、壁の向こうから伸びる!
それが複数の魔獣を包み込んだかに見えた、次の瞬間!!
爆音と衝撃波が走る!!!
この白い煙のようなものの正体は、なんとビックリ!!
小麦粉なのである!!!
この場を守る村民は、スキル「小麦粉使い」を持つ女!!
パン屋の一人娘であった!!!
生まれる前から母親のお腹の中で小麦粉に親しんできた彼女は、小麦粉が大好きっ娘に成長!
自由自在に小麦粉を操ることができるようになったのだ!!
彼女がドッカンドッカンやっているアレの正体は、みんな大好き粉塵爆発!
「この†白き悪魔†の腕に抱かれ逝きなさい……。ちがうな。なんだろう、もっとこう、闇に落ちた感じが欲しいんだけど。語彙力がない。語彙力が来い」
将来の夢は国王直下抹殺騎士団の失われた席次十三番!
あるいは実家のパン屋を継いで、チョココロネとか甘い系お菓子も売り出したいと目論む彼女は、多感な十四歳!!
非常にわかりやすい感じに仕上がっているものの、その破壊力は折り紙付きなのである!!!
害獣連合がぼっこぼこにされている中!!
一部の精鋭を連れたスキルイノシシが、シャーチク村近くの山腹で様子をうかがっていた!
戦いの激化を見て取るや、不気味な笑い声をあげる!!!
「ここだっ! 外への攻撃に、外壁の守り! 今あの村は、攻撃力のほとんどを外へ向けているっ! 内部はがらすきっ! 今、内部に直接攻撃を仕掛ければ、あんな村一撃だっ!!」
それが出来れば苦労はしねぇ!!
当然の思いが溢れ出そうになる所ではある、がっ!!!
スキルイノシシには、腹案があったのである!!
「頼むぞ、飛行可能魔物達よっ!!」
飛行可能魔獣部隊!!
地べたからいけないなら、空から行けばいいじゃないという発想!
空を飛ぶことができる魔獣に抱えてもらい、高高度から投下!!
いきなり村のど真ん中を直撃することで、大損害を与えようという作戦なのである!!!
飛行可能な魔獣は、スキルイノシシにとって虎の子!!
ほかの部隊には一切配備せず、温存していたのである!
その飛行可能な魔獣に運んでもらうのは、強固な防御力を有する魔獣達であった!
高い位置からの落下にも耐えうる、防御力を有したものばかりである!
「モテたい魔獣連合軍、強行落下部隊!! 圧倒的質量を持って、村をハチャメチャにぶち壊してやるっ! はーっはっはっはっは!!!」
そんなスキルイノシシの目論見は、しかし!!
村長によって見破られていたのである!
「高高度からの魔獣投下による強襲、ですか。まるで人間の戦争みたいな手段ですね。魔獣がそんなことしますか?」
司令部に詰めていた衛生要員、神父の質問に、長老は当然と言わんばかりに頷いた!!
「シャーチク村の野菜を狙ってるんだぞ。うちの野菜にはそれだけの価値がある」
「なるほど」
自分達が育てた作物への絶対の信頼!
揺るがない信頼が、スキルイノシシの手の内を読み切るカギとなったのだ!!
「しかし、どうするんですか村長。どうやって止めるんです?」
「止める必要なんかないだろ。上空で迎撃する」
「いや、上空でって。そんな器用なことできる人、村の中に残ってませんよ」
「問題ない。空の玄関口で出迎えてやるさ」
「空の? ああ、なるほど。そういうことですか」
害獣連合 強行落下部隊(HGP明朝E)
「はーっはっはっは!! これでお前達はおしまいだぁー!!」
地上数百メートル!!
空高くから落下していく魔獣達は、勝利を確信していた!
落下による衝撃に耐えうる!
あるいは緩和することができる魔獣のみで構成されたこの部隊の一撃により、村内部を混乱のズンドコへ叩き落す!!
しかるのち、外から攻撃を続けている複数の部隊と合同で村民を挟み撃ちに!
そうなってしまえば、あとはこちらのもの!
勢い任せに暴れまクリスティー!!
OMOTENASIするつもりがあろうがなかろうが、おいしくお野菜をいただいてしまえばいいのである!!!
眼下に村を見下ろしたスキルイノシシは、勝利を確信していた!!
しかし!!
そうは問屋が卸さないのである!!!
「ん? 何だあれは」
スキルイノシシが見つけたのは、一際高い建物の上に立つ老人の姿!!
肩にホウキを担いだその姿は、強者の佇まい!
眼光鋭く見上げられ、一瞬怯みそうになるスキルイノシシである、が!!!
既に勝利を確信していたがゆえに、スキルイノシシは余裕の笑顔!!
「はっはー!!! ジジィ一人に何ができるっ! この俺の完璧な計画の犠牲となれぇ!!!」
その声が聞こえたか聞こえないか!
老人、村長はやおらホウキを握りなおすと、それを逆手にもって体をひねる!!
「全く、村の玄関先を汚しおってからに」
刹那!!
横なぎに振りぬかれたホウキが、疾風を巻き起こす!!!
巻き起こるは竜巻!!
いや、それを超える暴力的な風は、さながらARASI!!
「な、なにぃいいいいい!?」
暴風!
爆風!!
建築物をも消し飛ばす衝撃波もかくやという破壊力が、魔獣たちを強襲したのである!!!
「いったい何が起きたというんだぁあああ!!!」
叫ぶスキルイノシシ!!
当然答えてくれるものは誰もいない!
だが!!
読者の皆さんには地の文による解説が入るのである!!!
村長の先ほどの技は、いわずもがなスキルによるものであった!!
そのスキルの名は!
「ホウキで玄関前のゴミを掃除する」
である!!!
第一話で名前だけ登場した「ホウキで玄関前の葉っぱを掃除する」の亜種系統スキルであり、割とよくあるスキルの一つだ!!
村長はそれを応用し!!
「空の玄関」前の「ゴミ」をきれいに掃除したのである!
拡大解釈もいいところなような気はするだろう!
だが!!
スキルというのは思い込みが大事であり、この場合心底「自分の玄関だ」と思っていなければ発動しない!!
つまり!
村長がシャーチク村を「自分の守るべき家」であると認識していればこそ、スキルは発動したのだ!
たとえ同じスキルを持っていようとも!!
村に対する強い責任感と愛着を持つ村長以外には、できない芸当であるといってよいだろう!!!
そう!!
村長こそは!
シャーチク村防衛の!!
最終兵器なのである!!!
スキルイノシシの最大の失策は!
村長の存在を知らなかったことといっても、過言ではないのである!!!
害獣連合による攻撃は、完全に失敗!!
襲い掛かってきた魔獣は大半が打ち取られるか、散り散りに逃げ去っていったのであった!
「がいじゅうくじょ、おわったの?」
「すっげぇーおとしてたもんねー」
村の公民館に集まっていた子供達が、広場に集まった大人達の元へやってきた!
今日は魔獣の肉を使った、炊き出しが行われるのだ!
寝かした方がおいしい肉は後日食べることにして、足の速い肉は、今日中に食べてしまう予定なのである!!
「おう、騒がしくて悪かったな」
「いい子にしてたのか、お前ら」
「うん。ずっとのうみんふぁいとやってた。あと、きめもんばとるも」
「めちゃくちゃ、はくねつしたよ。スーさんがとちゅうでオケラになって、ぼうぜんとしてた」
「ミッチュン、ようしゃなさすぎるんだよ」
どうやら、子供達は子供達で、楽しかったようである!!
「たくさん、どうぶつ、とれたんだねぇー」
「あ、このいのしし、どうするの?」
「まずいやつだぁー」
「これはな、二年から三年、塩漬けにするんだよ。それから、また一年から二年、味噌でつける。そうすると、結構うまくなるんだよ。手間はかかるけどな」
どんな手段を用いても食う!!
くそまずくても時間と手間をかければ食える!
ド辺境に生きる農民の食への探求心は、他の動物が見向きもしない「むしろ毒物」といわれるようなものですら、食ってしまうほどのものなのであった!!
もっとも!
マジで手間がかかりまくるので、積極的にはとりたくないところなのは、変わりないのだ!!
「えー、そんなにたったら、ぼくたちじゅっさいになっちゃうよ」
「そうだなぁ。今年スキルの鑑定をした連中が十歳になった時、記念に食うのもいいかもな」
「いいかもしれないな」
「なんだか、きのながいはなしだなぁ」
「じゅっさいかぁー。ねんれいふたけたになるってことは、おとなのなかまいりだね」
「その頃には、村長は死んでるんじゃないか?」
「もういい年だからなぁ」
「聞こえてるぞお前ら! サボってないで手伝いでもしろ!!」
「やべぇ! 怒られた!」
大人と子供!
みんなの声が、村に響き渡った!!
今回の襲撃による村への被害は、ほぼゼロ!
シャーチク村の平和は、無事に守られたのである!!
「はっ!? ここは!!」
「名もなきイノシシよ。聞こえますか。私はスキルを司る神の一柱。あなたに無理やりスキルを押し付けたボケカスとは別の神です」
「別の。あの、僕はいったい、何をしていたのでしょう」
「あなたはあのアホに利用され、スキルと同時に別の思考プログラムを……あなたの地頭の良さを利用する、別の人格を受け付けられ、ド辺境の農村を襲わされたのです」
「そんな……どうやって……」
「覚えていないでしょう。あなたを乗っ取った人格は、他のイノシシや魔獣達を先導し、農村を攻撃しました」
「そんな!! そんなことをしたら、絶対に狩られてしまうはず! はっ! まさか、ここは死後の世界!?」
「その通り。あなたを乗っ取った人格は、多くの命を巻き込んで死んでしまったのです。あと、村でおいしく頂かれてしまいました」
「なんてことだ。関係ない命を無理矢理巻き込んでしまったということでしょうか」
「扇動された方にもまったく過失がないかと言われれば、0というわけではないのでアレなのですが。おおむねその通りといえるでしょう」
「そんな。神様、神様お願いです。その、僕に巻き込まれたという人たち、人? 魔獣達の罪を、何とか軽くして頂くことはできないでしょうか。僕は、どんな罰でも受けますので」
「いいでしょう。もっとも、彼らにもあなたにも、大した罪はありません。生命とは常に争い、競争することで強くなっていくもの。今回のことも、その一つにすぎません」
「そういうものでしょうか」
「ですが、それだけではあなたの罪の意識を雪ぐことはできないでしょうね。ですので、一つ、罰を与えます」
「どんなものでも、受ける覚悟です」
「私がかかわる世界の一つで、獣人が人族に不当な迫害を受けている世界があります。その世界へ行き、あなたのスキル、熱血指導を用いて、獣人達を窮状から救うのです」
「僕に、僕にそんな大それたことが、出来るでしょうか」
「それはわかりません。大きなことをなすには、努力、才能、時の運、様々なものを必要とします。私に与えられるのは、ほんの少しの才能だけ。ほかのものは、あなた自身が勝ち取るしかないでしょう。だからこそ、それを得るための苦行は、あなたにとっての罰足り得るのです」
「わかりました。なんとか、頑張ってみます。そして、少しでも、多くの獣人の方々を救って見せます」
「あのクソOFクソは、獣を見る目だけはあったようですね。さあ、旅立ちなさい。あなたの前途に、幸多からんことを」
その頃!!!
運命を司る神の一柱は、地団太を踏んでいた!!
「あー!! くそっ!! やっぱドクドングリばっかり食ってるやつはダメだな! マグロばっかり食ってるやつと一緒だチクショウめ!」
スキルとかを司る神が、イノシシをどうこうしたらしいが、知ったこっちゃなかった!
お互い極力不干渉が、神々同士のお約束!
どうせ害はないだろうから、どんどんエンジョイプレイしていくのだ!!
「あにもーはダメだな。もっとこう、スパルタンで直球どころ行くか。人間だ。宗教だ。教会のお偉方に接触してやる。で、あの村に呪術王がいるってちくってやるのさ」
直球!
あまりにもひねりのない手段!!
思うような成果が上がらなかったことがよほど悔しかったのだろう!
いきなり禁じ手に手を付けてきたのである!!!
「ポイント足りるかなぁ。前回のイノシシにスキルつけるのでもだいぶ使っちゃったから、結構ギリギリか? 最悪、またガチャ回すしかないかもな。いうて詫び石ごっそり残ってるからいけるか」
神々にもいろいろ事情があるのである!
それがいったいどんな内容なのかは、人間にはあずかり知らぬところなのだ!!!
「えー、えー、あのポイントがいくらだ。ウィケに乗ってたっけ。あ、これだ。えー、これとこれで、この額で、これに、こっちの。あ、行ける行ける。全然余裕だったわ、ウケる」
どうやら、なにがしかの折り合いが取れたようである!!
「待ってろよ平和ボケ村! 次回、急展開だわ!! はーっはっはっはっはっは!!!」
高笑いを響かせる、運命を司る神々の一柱!!
一体、彼は何をしようというのか!
村を待ち受ける運命とは!!
それは次回の、お楽しみなのである!!!
相変わらずサブタイトルにタイトルに深い意味はありません
作者は著しくネーミングセンスがないので、名づけは常に適当です
ついに次回は教会の誰かにチクられるようです
大きな事件に発展しそうですね
とりあえず、今回の危機は退けたのですが
頂いた感想を見るに、みんな心配してなさそうで「どうして」ってなりました
もっと心配しろよ
今回はいろいろなスキルを持つ村人が出てきましたが、皆さんはどれが好きでしたか
個人的にはパン屋の娘さんが、いかにもチューニーな感じで、書いてて笑ってました
では、次回をお楽しみにしてくれたらうれしいな、って思います




