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イノシシ 捻じ曲げられた本能

 シャーチク村周辺の山は、肥沃な土地であった!

 縦横無尽に伸びまくる草木!!

 暴走する魔物や魔獣!!!

 天下に覇を唱えては消えゆくオークやらオーガやら!!!

 世はまさに、大魔獣時代!

 己の力でのし上がろうと、ありとあらゆる魔物魔獣達が、しのぎを削りまくっていたのである!!

 もっとも!

 その競争はあまりにも激しすぎるため!!

 今に至るまで、決定的な勢力が生まれることはなかった!

 何しろ魔物魔獣で勢力を拡大しようなどという連中の性根は、鎌倉武士のそれに近い!!

 敵は全部殺す!

 目があったから殺す!!

 調子乗ってるらしいから殺す!!!

 そんな連中ばっかりなので!

 集団それ自体が発生しにくく!!

 できたとしても維持できないのである!!!

 そんな蛮族モンスター達の園であるド辺境で生きていくのが、いかに過酷なことなのか!

 シャーチク村の連中のスペックを見れば、お分かりいただけるだろう!!

 ちなみに!

 王都とか都会とかの人が多い領域は割とそういうのに襲われることが無いので!!

 良識的で節度あるスペックの人間ばかりになっていた!

 ぶっちゃけ王都の軍隊とかより、ド辺境の農村が2、3村合同で戦った方が強いのだが!!

 双方そんなことはつゆほども知らなかったりするのである!!!

 これぞ!

 情報断絶の恐ろしさといえるだろう!!

 今のように、気軽に「うんこなう」とか呟ける世界ではないのである!!!


 そんなド辺境の森の中を!

 力強く生き抜くモノ達が居た!!

 イノシシである!!!

 もちろん、イノシシといっても皆さんご存知のイノシシとは少々違う存在であった!

 魔物魔獣の類であり、地球のそれとは外見的には似ていても非なるものであるとご承知いただきたい!!

 そんなイノシシの一匹が、森の中で食事を楽しんでいた!

 彼が食べていたものとは!!

 どんぐりだったのである!!!

 もちろん、ただのどんぐりではない!!

 植物の方も食われないために気合を入れて作った、毒とかがもっさり入っているヤツだ!

 絶対に食われないという固い決意を込めた、ドクドングリ!!

 略して、ドクドングリである!!!

 しかし!!

 ド辺境を生き抜くイノシシは、そんな毒をものともしない!

 腸内細菌!!

 肝臓の解毒能力!!!

 それらをフルに生かして、モリモリ食べていくスタイル!

 圧倒的な力技を前に、毒もノックダウンなのである!!


「はぁ、きょうもドクドングリは美味しいなぁ」


 なんかそんなことを言いそうなほどのほほんとした顔でどんぐりをむさぼるイノシシ!!

 基本的に競争相手があまりいない種族であるイノシシは、ド辺境でものほほんと生きているのだ!

 何しろ、強靭な足腰!

 アホみたいに硬い毛皮!!

 ドクドングリばっか食ってるからクソ不味い肉!!!

 戦うメリットも食うメリットも全くない!!

 それこそが、このイノシシの生存戦略であったのだ!

 この戦力がばっちりハマり!

 イノシシは森でかなりの繁栄を見せていた!

 ある意味、最も覇権を握っている種族であるともいえるだろう!!

 だが!

 彼らは今日ものんきにドクドングリを貪るのみであった!!

 それこそが!

 彼らが築き上げてきた、戦い方であるのだから!!!


「ドングリ食ってんじゃねぇええええええ!!! この腐れブタ野郎がぁあああ!!!」


 突然浴びせかけられる暴言!!

 いきなりかけられたその言葉に、イノシシはおどろ

 かない!!!

 欠片も意に介さず、不動!!

 否!

 ドングリを貪る口だけは、変わらず動き続けていた!!

 己の肉体的優位性を知るが故の外敵への無関心!

 鉄壁を誇る毛皮への信頼!!

 己の肉がクソ不味いことへの理解!!!

 それが、イノシシを泰然自若な態度へといざなっているのだ!!

 しかし!!!


「聞けよこのボケカス!! これでどうだ!!!」


 次の瞬間!

 イノシシの口の中から、ドクドングリが消え去った!!

 それどころか、周囲の空間から色が消え去り、ただ真っ白いだけの空間にとってかわったのである!!!


「なっ! そ、そんな!」


「ようやく聞く気になったかゴラ」


「どんぐりが消えた!!!」


「そこじゃねぇだろ! 周りをよく見ろ!!」


 突っ込みまくる謎の声!!

 ちなみに、イノシシは人間が理解できるタイプの声を発してはいない!

 あくまで仲間であるイノシシ間でしか通じない、鳴き声タイプの声を発するのみである!

 だが、それだとメチャクチャわかりにくいので!!

 作中の都合上、同時翻訳でお楽しみいただきたい!


「え? なにここ。メッチャ怖い。略してメチャコワ。メチャコワ委員長」


「しらねぇだろ今の若いやつそのネタよぉ! 怒られても知らねぇからな!!」


 ちなみに!

 イノシシは案外知能指数はそれなりの生物であった!

 具体的に言うと!!


 34歳独身一人暮らし男性。

 都心部のブラック企業に勤め、通勤時間は一時間程度。

 趣味は特になく、ソシャゲ程度。

 毎日寝る前に飲むストロング系酒類が欠かせず、仕事場ではしょっちゅうエナジー系ドリンクを飲んでいる。

 辞めたい辞めたいなんて言いつつも、実際はそんな度胸も甲斐性もなく。

 本当に辞めたところで、自分の実力ではもっといい就職先なんてないってことがよくわかっている。

 実際、自分と同期入社で同じようなスペックの奴は、辞めたのはいいものの就職先が見つからず、バイトを転々としている。

 このままじゃどうしようもない、なんてことが分かりつつも、すべてを人のせいにして日々を生きるだけ。

 正直なところ、それ以外のことができる能力が無いなんてことはわかっている。

 でも、それでも何かきっかけがあれば。

 そんな風に思っていたある日、道を歩いていると、走行中のトラックの前に飛び出していく、猫の姿が……


 てな感じの人と同じぐらいであった!

 高いと見るか低いとみるかは、あなた次第である!!!


「ていうか、あの、どなた様でしょう?」


「うん、そうな! 当然の疑問だろうな! よかろう。教えてやろう。私は運命を司る神々の一柱。今日はお前に、力を授けてやるために来たのだ」


「ええ……どっどういう、っていうか。口調変わってませんか」


「うるさい! 何もうるさい。こういうのは雰囲気が大事なんだよ。分かれ。察しろ。そういうのがお前、アレだぞ。モテるモテないに大きくかかわってくるんだからな、マジで」


「はぁ」


「とにかく! なぜ、私がお前に力を授けるのか! その目的について話してやろう」


「え、断るパターンは」


「あるわけねぇだろ、イノシシ! ブタッ鼻コラ! 俺とお前! 神とイノシシ! どっちが偉いと思ってんだ!」


「神様?」


「神様? じゃねぇわ! 疑問形で聞くなコノヤロウ! どう考えても神様だわ! だろ!?」


「まあ、はい。そうですね」


「よし! まあ、あれだ。あのー、何だっけ」


「力を授ける目的の下りでした」


「そう! 力を授ける目的について話してやろう。私はつい先日、先日っつっても六年ぐらい前で、まぁ、神様的感覚で言うと先日ぐらいのあれなんだけど。まあ、いいやその辺はややこしくなるから」


「はぁ」


「とにかく、六年ぐらい前にある人間が、とあるスキルを手にしたのだ」


「すきるをてにした」


「そのスキルの名は、呪術王。ありとあらゆる呪いを習得し、自在に操ることができるという、強力なスキルである」


「それってスーパースペシャル大魔王様が持っていたっていうスキルじゃないですか」


「よく知ってるなお前。イノシシなのに」


「まあ、イノシシなんで」


「しってるなら話が早いわ。その! 危険なスキルを持った少年を、何とか止めなければならない! わけよ!」


「はぁ」


「そこで、白羽の矢が立ったのがお前だ」


「僕の毛皮硬いんで、弓矢刺さらないと思うんですけど」


「モノの例えだろうが! ああ!? わかってて言ってんだろお前! とにかくお前! な! お前、アレだ! 選ばれたんだよ! その危険な少年を! 止める、役に! な!!」


「僕には荷が重すぎると思うんですが」


「安心しなさい。その任に堪えられるよう、お前にスキルを授けましょう。無事、役目を終えたそののちは。そのスキルを使い、好きに生きることを許しましょう」


「なるほど。謹んでお断ります」


「だから断るとかじゃねぇえええんだわぁあああああ!!! 言われた通りやりゃーいんだよぉ! やりゃぁ!!」


「だって嫌な予感するんですもん! 絶対これあれでしょ! 罠があるでしょう! 罠が!」


「ねぇよ罠なんてよぉ! ちょっとスキルの影響で人格、じゃねぇや、猪格がかわるぐらいでよぉ!!!」


「とびっきりの地雷キタコレ。いやだぁ! 僕は森の中でドクドングリをポリポリしてれば幸せなんだ! 人は何か新しいものを手に入れた時に幸せになるんじゃない! 自分の手の中にあるものの大切さを知った時、初めて幸せの意味を知るんだ!」


「はい、ブー! お前人じゃありませーん! イノシシでーす!」


「それは言葉の綾というか、イノシシは~っていうのじゃ語呂が悪いし、言語的な理由であって」


「ごちゃごちゃうるせぇ!!! 屁理屈を並べてる間に喰らえ! 神技・スキル付与!!!」


「うわぁああああああああああああ!!!」




 現実世界では!

 ドングリを貪っていたイノシシが、突然動きを止め!

 数秒後に倒れたようにしか、見えなかった!

 その後!!

 イノシシはゆらりと立ち上がるが!

 その時には!!

 既に元のイノシシとは、別物になっていたのである!!!


「情熱的にイノベーションを創出していくアクションをトライ&エラーしていこうぜ!!!」


 なんかよくわからん言語を使い始めるイノシシ!!

 その瞳には、知性と本猪が信じて疑わないものの光が宿っている!!!


「まずはイシューをアジェンダしていくためのメンバーを探さないとなっ! メンバー、仲間を! そう、仲間ってやつをよぉ! うしゃしゃしゃしゃしゃしゃ!!」


 白目を剥いて異質な笑い声をあげるイノシシ!

 もうあの牧歌的なイノシシは、いなくなってしまったのだ!!

 一体、イノシシは何をしようというのか!

 それは次回以降を!!

 乞うご期待なのである!!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] イノシシさんに救いはあるのか!? [一言] 運命神()がロクデモない真似を始めてしまいました。 しかもっ、善良なイノシシさんを巻き込んで!! なんて酷い神なのでしょう。 イノシシさんに…
[良い点] >良識的で節度あるスペックの人間ばかりになっていた! >ぶっちゃけ王都の軍隊とかより、ド辺境の農村が2、3村合同で戦った方が強いのだが!! うん知ってた(前回頂いた感想返しで確信してた)…
[一言] うんこなう 哲学隠者猪が自称意識高い系バカに!
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