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農村大決戦 ~序曲~

 シャーチク村とカローシ村の、領都農業祭屋台売り上げ決戦!

 領都中の村が集まった中で行われるお隣の村同士でのガチンコ対決の結果はっ!!


 完全なる引き分けに終わったのである!!!


 一体何が起こったのか!

 当日の様子をダイジェストでご覧いただきたい!!




 領都農業祭当日!

 ホテルで一泊し、バイキングや大浴場、遊戯コーナーなどで楽しんだシャーチク村の面々は!!

 意気揚々と屋台村内へと乗り込んだのである!!!


「店を出せるのは今日一日だけだからな! 皆気合を入れてくれ!」


 村長の掛け声一番!

 シャーチク村の面々は屋台の設営に取り掛かった!

 領都で行われる農業祭は、領地内の全ての村が屋台を出すことになっている!

 そのため、各村が屋台を出せる期間は僅か一日!

 たった一日に、すべてを賭けるしかないのである!!

 割り振られた設営場所へ急ぐシャーチク村の面々であったが!

 そこで、驚愕に表情をゆがめることとなったのである!!


「お前らはっ! カローシ村!?」


「シャーチク村の連中かっ!!」


 なんとビックリ!

 シャーチク村の隣に屋台を設営するのは、カローシ村だったのであるっ!!


「ここであったが百年目!」


「目にもの見せてやるから覚悟しろよ!」


 メンチを切り合う村人達!!

 ちなみに!

 あたかもこの時までこの配置になることを全然知らなかったようなリアクションをしている村人達だが!

 屋台の配置は毎年全くいっしょなのである!!

 何しろ、領地の端っこから順番に屋台の配置をしているのだ!

 隣村同士であるシャーチク村とカローシ村の屋台が隣り合うのは、むしろ必然!!

 なのに何故このリアクションなのかといえばっ!!

 そっちの方がドラマチックで盛り上がるからなのである!!!


 毎年同じようなことやって飽きないの?


 そう思うものもいることだろう!

 確かに、この手のネタをコスリまくると飽きが来ることもある!

 しかしっ!!

 むしろお約束な空気を感じて楽しくなっちゃうのが、シャーチク村とカローシ村の村民なのである!!!


 試合前のルーティーンを済ませ、いい感じにあったまってきた両村民達!!

 フルスロットルで屋台を設営し終え、後は開始の合図を待つばかり!


「えー、本日はお日柄もよく、各村の代表者も頑張ってくれまして。今年も無事に農業祭を開催することができました……」


 ご領主様の有り難いお話が終わり!

 いざ!!

 戦いのゴングが鳴り響くのである!!!


「いらっしゃい、いらっしゃい! あっつあつの焼きトウモロコシだよ!!」


「ほかほかに蒸かしたジャガイモー! バターとの相性抜群!」


「祭りといえば焼きトウモロコシ! 食べ歩きに最適!」


「酒のお供といえばイモ! 美味しいじゃがバタだよー!!」


 開幕から飛ばしていく両陣営!

 ペース配分なんて知ったこっちゃねぇ!!

 いつでも全力全開で飛ばしていくのがド辺境農村魂なのである!!!


 結果!!


「えーと、売れた数がこれで、売れた金額がこれで、っと。あ、シャーチク村さんとカローシ村さん、売り上げ数同数で、売上金額も同じですね」


 審査員から告げられたのは、まさかの事実であった!!

 両村とも、商品は完売!

 そのうえで売り上げ数、売上金額とも!!

 全く同じだったのである!!!

 そうっ!!

 シャーチク村とカローシ村が用意した商品の数は、同数!!

 設定金額も同じであったのだ!!

 無論!

 事前の打ち合わせなど全くしていない!

 むしろ、相手の裏をかこうと必死になっていたほどである!!

 にもかかわらずこの状況!

 常軌を逸した気の合い方であるといわざるを得ない!!

 二つの村はノリだけではなく!

 やることなすこと大体似通った感じだったのである!!!

 それだけではない!!


「くそっ! 今年も引き分けかよ!!」


「絶対勝てると思ってたのに!」


「これで何年連続だ!?」


「わからんけど。俺が初めて参加した時からずっと引き分けだし、その前からも引き分けだって聞いてる」


 そうっ!!

 シャーチク村とカローシ村は!

 永い農業祭の歴史において!

 ずっと引き分けっぱなしなのである!!!

 全く狙わずそれをやってのける!

 これはもはや、ある種の奇跡といってもよいだろう!!

 本人達には全く望まれていない奇跡である!


「まあ、今回はいいさ。次回は必ず勝つけどな!!」


「こっちだって負けやしねぇっつの! 首を洗ってまってやがれ!」


「言ってろ! 今回売り上げがよかったのは、トウモロコシに塗ってた自家製醤油のおかげだってこと忘れるなよ!」


「焼き加減の上手さもな!」


「お前らの村こそ、作りたてのバターの味がよかったからあれだけ売れたんだろうが!!」


「バターまで自前で用意してるのには感心したわ!」


 譲らないところは絶対に譲らないが、認めるところはきちんと褒める!

 そういうところも、両村に共通するスタイルなのだ!!


 かくして!

 ド辺境農村同士の団栗の背比べは!!

 引き分けに終わったのである!!!




 戦いは終わったものの!

 お祭りはまだまだ続くのである!!

 むしろ!

 農業祭初参加である子供達にとっては、ここからが本番といっても過言ではない!!

 お小遣いを握り締め、友達とお祭りへ繰り出すのである!!!


「やったー! あそびにいけるぞー!」


「おまつりにとびだせ!」


「ぼく、りんごあめたべるんだ! シナモンかかってるやつ!」


「ミッチュン、シナモンってなにかしってるの?」


「にっけい、っていうきのかわだよ」


「そうなの? ってことは、りんごあめに、けずったきのかわをかけてるのか」


「やめてよスーさん。しょくよくがうせるよ」


 ちなみに!

 領都の治安はすさまじく良いものであった!

 見渡せば必ず警備兵が目に入り!!

 法を犯した者は素早く、一切の容赦なく捕縛されるのである!

 ご領主様は徹底した治安維持過激派であり!!

 領都で悪さをするというのは、命がけの行為なのだ!

 それゆえ子供達だけで領都のお祭りを楽しんだとしても安全安心!!

 何なら村の中で初めての御使いをするより危険が少ないのである!

 村の子供達を領都の農業祭に連れてくるのも!

 実は子供達だけでのお買い物を経験させるためだったりするのだ!!!


「みんな、おこづかいどのぐらいもってきたの」


「あるだけもってきたよ」


「とかいは、ぶっかがたかいからね」


「ゆだんすると、もっていかれる。それがとかいなんだ」


「なにをもっていかれるの?」


「ひだりあしとか、みぎうでとか」


「こわすぎるよとかい。すぐかみついてくるんだもん」


「不可欠な場所であるような顔をして人々を寄せ集めて置いて、不意に気まぐれな獣の如く獰猛に牙を剥くんだ。そして、二度と立ち上がれなくなるような痛手を、あるいは命を奪っておきながら、何事もなかったかのようにそっぽを向く。都会の人間はそれに慣れきっていて、誰も気にも留めない。どころか、むしろ噛みつかれたヤツに原因があったんだと冷笑するんだ。やっぱり人間が生きるべき場所は農村なんだよ」


「スーさん、きょうはいつになくじょうぜつだね」


 楽しいおしゃべりをしながら、お祭りの中を歩く子供達!

 立ち並ぶ様々な屋台を冷かしたり、時に買い物してみたり!!

 気の合う仲間と歩くお祭りは、楽しさの塊である!!!


「タっつぁん、なにかったの?」


「なんだろう、これ。よくわかんない」


「よくわかんないのに、なんでかったのさ」


「たべてみなよ。そうすればわかるよ」


「そっか。ふむ。んん? これは・・・これは・・・! なんだろう。よくわかんない」


「たべたのにわかんないって、どういうことなのさ」


 わいわいがやがやと楽しんでいた子供達だったが!

 流石に騒ぎ歩き疲れてきていた!!

 基本的には子供なので、丸一日フルタイムで遊びまくるには少々体力が足りなかったのだ!

 このままでは、過労のために倒れてしまう!!

 それを避けるべく!

 子供達は屋台が立ち並ぶのとは別の一角で、一休みすることにした!!

 農業祭では、飲食物の取り扱いが多い!

 それらをゆっくり楽しむことができる場所も、用意されていたのである!

 イスやテーブルが並んでいたり、レジャーシートなどが敷ける芝生の広場など!!

 休憩するスペースには事欠かなかったのである!


「ここでやすもうか」


「そうだね。つちのにおいもするし」


「やっぱり、つちはおちつくよね」


「とかいのいしだたみはだめだよ。つめたくて、こころまでひえていくかんじがする」


「にんげんはやっぱり、ちにあしをつけてないとね」


「ちにあしをつけるって、つちにあしをつける、っていみじゃないとおもう」


 子供達が今まさに休憩しようとした、その時!!


「まってっ! あそこ!」


「あっ! あれ、いや! おまえたちはっ!!」


「「「かろーしむらのれんちゅう!!!」」」


 そう!

 今まさに一休みしようとしたその隣に!!

 カローシ村の子供達が居たのだ!!!

 向こうもシャーチク村の子供達に気が付いたのだろう!

 素早く間合いを取ると、なにがしかの構えをとってくる!!

 無論!!

 シャーチク村の子供達も、威嚇のポーズを決めて応戦するのである!!!


「でたな、かろーしむら! うりあげはひきわけだったけど、うちのむらはまけてないぞ!」


「そうだそうだ! おまえんとこのジャガバタうまかったけどな!」


「うちのむらのイモのほうが、うまいんだぞ!」


 すかさず牽制をかけていくシャーチク村の子供達!

 ド辺境の農村で鍛えられた子供達は、先手必勝常在戦場の心得を身に着けているのだ!!

 とはいえ、カローシ村の子供達も負けてはいない!!!


「こっちだってなっとくしてないぞ、しゃーちくむら!」


「あまみのなかにも、ふうみゆたかなとうもろこしに、てづくりしょうゆのえんみがぜつみょうだったけどな!」


「うちのとうもろこしなら、やいただけでうまいんだからな!!」


 お互いに、相手の農産物や商品を褒めつつも!

 こちらはその更に上を行くことを示していくスタイル!!

 村のことはディスるが、作物のことは褒める!!!

 悪口を言うにしても、バランスは大事なのだ!


「くそっ! おまえんとこみたいなとかいに、うちのむらはまけないんだからなっ!」


「なっ! なんてこといいやがるっ!」


「そうだっ! いっていいことと、わるいことがあるぞ!!」


 カローシ村の子供達の口から飛び出したあまりの暴言に、シャーチク村の子供達は顔色を変えた!!

 ド辺境の農村に住む者にとって、自分の村が引くほど田舎であることはアイデンティティの一部といってよい!

 それを否定する「都会扱い」は!

 決して許されざる暴言なのである!!!


「だいたい、かろーしむらのほうがとかいじゃないかっ!!」


「きっさまぁー! うちのどこが、とかいだっていうんだっ!」


「こえだめとか、みちのとなりにふつうにあるんだぞ!!」


 売り言葉に買い言葉!

 過激な舌戦は、ヒートアップしていくのである!!


「しらないとおもってるのか、シャーチクむら!」


「おまえんとこのむら、しょうてんがふたつもあるだろっ!!」


「にちようざっかとか、しょくひんとかうってるじゃないか!」


 この言葉に、シャーチク村の子供達はさっと顔を背けた!!

 痛いところを突かれたからである!!!

 ド辺境の農村では、自給自足が基本であった!

 ないものは自分達で作るしかないというのが基本スタンスなのだ!

 とはいえ、農業に必要なものには、素人では手の出せないものもある!!

 調味料とか調理器具といった生活必需品にしても、専門的な技術が必要なものも多い!

 ゆえに!

 どんな農村にも、商店!

 あるいは一定周期でやってくる行商人などは、必ずいるものであった!

 なので、村に商店があること自体は、ある種当たり前のことなのである!

 しかし!!

 それが二つとなると、話は変わってくるのだ!

 商店の数は繁栄の印!!

 それだけ村に人が多く、活気づいているという証なのである!!!

 活気づいている場所といえば、それすなわち都会!!

 ド辺境農村としての立場を揺るがしかねない、致命的な弱点といえるのだ!!!


「しょせきとかも、たくさんうってるそうじゃないか!」


「しなぞろえも、いいんだってね!」


「ちっがうよ。そういうんじゃないよ」


「そうだよ。てんちょうのトゥテクワァにいちゃんのしゅみだよ」


「ほんとにそうおもうなら、こっちみてはなせよ!」


 後ろ暗いところがあるので、素直におしゃべりできないのである!!!

 劣勢の中にあるものの!

 シャーチク村の子供達、このままやられてばかりではない!!


「そういうカローシむらには、ぼうけんしゃぎるどがあるだろ!」


「ぼうけんしゃが、たくさんくるんだってねぇ!」


 カローシ村の子供達は、素早く明後日の方を向いた!!

 痛いところを突かれたからである!!!

 冒険者ギルトというのは、ファンタジーもののゲームやマンガ、小説などでおなじみのアレのことであった!

 機能的にも、冒険者のたまり場と仕事斡旋、素材買取などを兼ねた、よくある感じのヤツだと思って間違いない!!


 どこにでもあるのでは?


 などと思われがちな冒険者ギルドではあるが、実際はそうでもない!

 常に命がけで動き続ける冒険者達にとって、命の洗濯は大変に重要なことであった!

 すなわち!!

 飲む打つ買うである!!!

 気晴らしが出来なければ、死ぬより先に気が狂う!!

 そんな風に言われることもある冒険者達の生活にとって、その手の娯楽は命の次に大切なものといっても過言ではない!

 ゆえに!!

 冒険者ギルドというのは、そういった「遊び」が確保できる場所にしか作られないのが通例であったのだ!!

 つまり!

 カローシ村にはそれらの娯楽が、ある程度ではあるが存在しているということ!!

 ド辺境の農村から見れば、それはまさに都会のありようなのである!!!


「しーずんになると、けっこうぼうけんしゃくるらしいねぇ!」


「にぎやかそうだなぁー!!」


「ちっがうよ。そんなんじゃないよ」


「そうだよ。どうしてもへんきょうにひつようだから、たまたまうちのむらにあるだけだよ」


「よくいうよ! ぼうけんしゃぎるどが、てきとうにしぶたてるわけないだろ!」


 ド辺境と言えど、冒険者ギルドの必要性が全くないわけではない!!

 どこかしらに設置しなければ立ち行かないのである!

 ゆえに、ド辺境の農村の中でも、比較的マシな村を選んで設置した、というのが本当のところなのだ!!

 とはいえ!

 都会モノ基準で言う「比較的マシ」というのは!!

 ド辺境の農村基準で言えば、都会以外の何物でもないのである!!!

 もっとも!

 ご存知の通り、シャーチク村とカローシ村はどんぐりの背比べ!!

 差異こそあるにしても、ほとんど違いはない!

 カローシ村の子供達が言うように、「たまたま選ばれた」だけであり!!

 シャーチク村の方へギルドが設置される可能性も十二分にあったのである!


「もう、あれだ。このはなしはやめよう」


「そうだね。おたがい、やけどしかしないしね」


「つつかないほうがいいことも、よのなかにはあるよ」


 お互い致命傷になりかねない武器を突き合わせあうが故に起こる拮抗!!

 ある意味、平和的解決な状況ではある!

 しかし!!

 これでは決着が付かないのもまた事実!!!


「ええい、こうなったら、ちょくせつけっちゃくをつけるしかない!!」


「のぞむところだっ!」


「このままじゃぁ、おたがいきもちがおさまらないしね!」


「やってやろうじゃないの!」


「いくぞっ!!」


「「「キメモンバトルだっ!!!」」」


 キメモンバトルとは!!

 今、ナウなヤングの間で大流行りなゲームのことである!

 頭部・胴体・右腕・左腕・下半身!

 五つの部位、それぞれ数十種類ある中から好きなパーツを選び、自分だけの「キメェモンスター」略してキメモンを製作!!

 それを、サイコロを使って戦わせる!

 キメモン制作のセンスと!!

 サイコロの目に左右される運の要素を兼ね備えた知的遊戯である!!!


 今まさに!

 シャーチク村とカローシ村の戦い・こどもたちの部が!!

 始まろうとしていたのである!!!

キメモンバトル、実物作って見たさある

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― 新着の感想 ―
[一言] 長町がつかない、は絶妙ですね。直前までの内容と関係ありそうな、でもすこし考えたらわかる難易度。
[一言] キメモンバトル!? この外出自粛のご時世、流行るかも知れません!! でも暑がれ労災の盛り、略して暑もりも宜しくお願いします!!
[一言] >トウモロコシに塗ってた自家製醤油のおかげだってこと忘れるなよ! >作りたてのバターの味がよかったからあれだけ売れたんだろうが!! お互いの売り上げに貢献してますよねおまえら・・・
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