美少女に美少年をぶつけることによって起こると推測される対消滅現象についての実験
今日も今日とて村の広場に集まったストフレット達!
話題は当然、領都で行われるという農業祭についてである!
六歳になったばかりである彼らにとって、初めての都会!
初めての大きな祭り!!
心ときめかぬわけがない!
と、単純にも!!
行かなかったのである!!!
「りょうとへのみちって、すごくアブないんでしょ?」
「そもそも、みちっていえるようなみち、ないしね」
「むらのそとにでるなんて、あぶないよ。いくのやだなぁ、ぼく」
基本的に!
村の少年達は!!
ビビりだったのである!!!
「だらしないな、きみらは。だいじょうぶだよ、のうきょうのトラックがあるんだから」
「えー、ミッチュン、くわしいことしってるの?」
「おしえて、おしえて」
子供達の注目を浴び、ミッシェルはドヤ顔で決めポーズをとった!
知識を頼りにされたりするのが!!
大好きなのである!!!
「のうきょうのトラックは、しってるでしょう」
「しってる。あの、そらとんでるふねでしょ」
農協のトラックとは!
ゴブリン農業協同組合が所有する、中型空中船舶のことである!!
この世界には、空中に浮遊する性質を持つゴイスーな樹木が存在していた!
それらを材料にすると、あら不思議!
空飛ぶ船が完成するのである!!
ただし!
浮遊性の植物は、大抵が人の二倍程度の小さなものばかり!
これらを大きく育てるには、特殊な栽培方法が必須!!
小さなものならいざ知らず!!
デカい空飛ぶ船はめちゃくちゃお高いアイテムなのである!!!
農協はそのお高い空飛ぶ中型船舶を、農村から農作物を運ぶために利用していた!
例え危険な領域でも、空さえ飛んでりゃ関係ない!
よしんば空のモンスターに襲われたとしても、戦闘準備万端な船上に陣取って迎え撃てば、怖くない!!!
農協が所有するトラックは、安全にド辺境の農村へ行くための、極少ない交通手段の一つなのだ!!
ちなみに!
トラックとは「とっても らっくちんで くーるにものが運べる」という言葉を短縮したスラングが語源となっている!
チョベリバとかJKとかその辺の言葉と同じようなものだと思って頂ければ!!
ほぼ間違いないのである!!!
「え、何その単語。しらん」
という君は、お父さんお母さんに聞いてみよう!!
「そのトラックにのっていくんだよ。おまつりのときだけ、とくべつに、のうきょうさんがトラックをだしてくれるのさ」
「へぇー! そーなのかぁー!」
「そっか、のうぎょうまつりだもんね」
農業祭りだけに、当然の如く農協も協賛しているのである!
野菜を持ち寄ってのお祭りは、農家を支える農協にとっても重要なイベントなのだ!
何しろ農協は農家の味方!!
多くの農家が力を入れる農業祭に協力するのは、当然なのである!!
「むらのひとと、こどもたちと、にもつなんかをのっけて、とんでくれるんだよ」
「すっげぇー。さすが、のうきょうさんだね」
「ってことは、そらをとんで、りょうとにいくってことかぁ」
普通の子供ならば、飛び跳ねて喜びそうな話である!
But!!
しかし!!
ド辺境の農村に暮らす子供のリアクションは、ちょっと違ったのである!!!
「ぼく、にがてなんだよなぁ。たかいところって」
「とかいかぁ。こわいよね、かみついてくるっていうし」
「ていうか、ぼくってそとにでるのまずくない? じゅじゅちゅ ぶふぁああああああ!!!」
「だから、もういうのあきらめなってば、スーさぁーん!!」
シャーチク村の子供達は!
基本的に!!
出不精 & ビビりだったのである!!!
タップを中心に、男女問わず子供達はビビり倒し!
ストフレッドなどは、自分のスキル的な理由から外に出たくないという始末!
例外は、ミッシェル位のものであった!!
「みんな、しょうきょくてきすぎだよ。もっとそとへ、めをむけないと」
「そんなこといっても、おれ、このむらにほねをうずめるつもりだし」
「わたしも。そとにでようなんて、これっぽっちもおもわないもんね」
「このむらで、せんぞだいだいのはたけをたがやして、まもっていくのがゆめなんだ」
「みんなやさしいし、ここよりいいとちなんて、そうそうないよ」
「うんだ、うんだ。ひとも、とちも、ぜんぶいい。こんなすばらしいむら、ほかにねぇだよ」
オラが村が一番!!
幸か不幸か、子供達はみんな村が大好きだったのである!
そして!!
都会にものっスゴイ苦手意識を抱えていたのだ!!!
「とかいでは、ぼくらみたいないなかものは、すぐにくいものにされるんだって」
「なんてぶっそうなんだ。なべてきなものに、されるってこと?」
「たぶん、そうだとおもう」
「あまりにもきけんすぎるよ。そんなところ、いくべきじゃないよ。きっとつかまって、ひどいことされるんだ」
「どんなことされるんだろう」
「わかんない。きっと、くつしたをおしつけられたり、ぷろれすわざをかけられたりするんだ」
「ひどい。とかいのれんちゅうには、ひとのこころがないのか」
「都会の闇に蝕まれて、人間性をすり減らすうちに、その一部になってしまうんだよ。辛く、先の見えない生活に疲れ果て、終いには嫌悪していたはずのものに自分自身がなっている。滑稽な話さ」
「しゅにまじわれば、あかくなるってやつだよね」
「どうでもいいけど、スーさんってときどき、じょうぜつになるよね」
「ちょっと、みんな、なさけなさすぎるよ」
ミッシェルが呆れるのももっともに見える!
しかし!
多くの農村民の感覚は、大体こんな感じなのだ!!
「かんがえてもみなよ。のうぎょうまつりなんだからさ。カローシむらのこどもたちだって、でてくるんだよ」
カローシ村の子供達!
その言葉を耳にした瞬間!!
子供達の表情が鋭く変化したのである!!!
「がんばって、おみせをてつだったりしてさ。そのときに、シャーチクむらのおみせは、こどもがひとりもてつだっていなかったら。どうなるとおもう?」
子供達の心に、ある光景が浮かんだ!
なんかいけ好かない感じのする屋台を手伝う、なんかいけ好かない感じのする子供達!!
その子供達が、超かっこいいシャーチク村の屋台を指さして笑っているのである!
「おーい、みてみろよぉ! シャーチク村の子供は、屋台のお手伝いもできないんだぜっ!」
「大人が一生懸命働いてくれてるのに、ビビってお手伝いもできないのかよっ!」
「これだから銘柄野菜もない村の子供ってやつわよぉ!」
「怖いから村の一大事に出てこないなんざ、心根が都会モンなんだろうなぁ!」
許しがたい罵詈雑言の羅列!
しかしながら若干の事実を含んでいる分!!
頭ごなしに否定することもできないのである!!!
「ちくしょうっ! いいたいほうだい、いいやがって!」
「いなかもののいじを、みせてやろうぜ!」
「となりむらなんかに、まけてたまるか!」
「ふだんおせわになってるんだ! たっぷりおてつだいして、おとなのひとたちによろこんでもらおうぜ!」
意気上がる子供達!
善良な大人が多いシャーチク村の子供達は!!
お手伝いがきちんとできる良い子ぞろいなのだ!!!
ただ!
そんな中にあって一人だけ、沈鬱な面持ちのままの男子が居た!
ストフレッドである!!
「みんな、がんばってきてね。ぼくは、おるすばんしてるよ」
「なにいってるんだよ、スーさんもいこうよ」
「でもさ。のろいがぼうはつしたりしたら、たいへんだし」
そう!
ストフレッドは自らのスキル「呪術王」のことを危惧していたのである!!
何しろストフレッドは、未だにスキルの全貌をつかみ切れていない!
いつ思わぬ形でスキルが暴発してしまわないとも限らないのだ!
そうなれば!!
シャーチク村に、多大な迷惑をかけてしまうことになる!
大人達が自分のことを守ってくれていることを、ストフレッドはよく理解していた!
だからこそ!!
自ら危険に身を晒すわけにはいかない!
無為に苦労をかけてはいけないと判断したのである!!
そんなストフレッドの考えを、周りの子供達はすぐに汲み取った!
重苦しい空気が、その場を支配する!!
「たしかに、そんなことになったら、たいへんだけどさ」
「スーさん、つかまっちゃうかもしれないもんね」
「じゅじゅつおうのこと、かくしてたわけだからさ。きっと、むらもたいへんなことになるよ」
「でもさぁ。やっぱり、いくならスーさんもいっしょがいいよ」
「だよなぁ。みんないっしょのほうが、たのしいし」
「みんな。ありがとう」
涙ぐむストフレッドの肩を、タップが力強く叩く!
ストフレッド自身、農業祭に行きたい気持ちはあるのだ!
皆と一緒に、大人のお手伝いをしたい!
お祭りを楽しみたい!!
そしてなにより!
隣村には絶対に負けられないのである!!!
「なくなよ、スーさん。それより、ほうほうをかんがえようよ」
「いまのところ、スーさんののろいって、ぼうはつするようなのないんでしょ?」
ストフレッドのスキルは、ほとんどが「任意発動」型であった!
発動させるぞ!!
と自分で思わない限り、発動しないのだ!
「なんだ。じゃあ、へいきじゃない」
「でもさ。スーさんののろいって、とつぜんついかされるでしょ? いつどんなのがでてくるか、わからないからさ」
そう!
ストフレッドの呪いは、割と頻繁に追加されるのだ!!
「でも、ついかされるのろいも、にんいはつどうばかりだから。だいじょうぶなきもするよね」
「けいかいするに、こしたことはないけど。しすぎるのも、もんだいだし」
「いっそのことさ。のろいをとくのろいがあればいいんだよ」
「のろいをとく、のろい?」
もし思わぬ事態で呪いをかけてしまったとしても!
素早くそれを解除してしまえば、ばれないかもしれない!!
そんな発想から出た言葉である!
「そんちょうの、はげのときにも、にたようなはなししたよね」
「あれは、まるくおさまったからなぁ」
半端で無残な感じのハゲになっていた村長は、ツルッパゲになっていた!!
ゴブリンの件以降、村ではすっかり
「スキンヘッドもかっこいいじゃん?」
みたいな風潮になっている!
村長は「悲惨な髪形」という扱いから一転!!
流行の最先端を走るファッションリーダーと化していたのだ!!!
「ていうか、たんじゅんにさ。かけたのろいをかいじょする、みたいなことできないの?」
「んー。いまのところは、むりかなぁ」
「ってことは、やっぱりあたらしいのうりょくに、めざめるしかないのかぁ」
「あたらしいちからに、めざめる!」
とはいったモノの!
どうやれば目覚めるのか、ほとんどわからないのだ!!
「なんとなく、けいこうはわかるけどね」
「しっているのか、ミッチュン!」
「たぶんだけど、ぐたいてきなのろいをれいにあげて、いいかんじだとさいようされるんだとおもう」
「いいかんじ? って、なににとって?」
「それは、わかんないけど」
「そっかぁ。でも、そりゃそうだよね」
「うん。もともと、よくわかんないんだし」
「でも、ほうこうせいは、みえたきがする」
実際!
「TS! TS!(対象を美少女にする)」という呪いも!!
なんか美少女になるとかそんな感じの呪いの話をしてるときに追加されたのである!!!
「つまり、かうんたーになるのろいのはなしをして、それがいいかんじならついかされるんだよ」
「かうんたーって、なに? しょうとりひきのゆるきゃらみたいな?」
漢字で書くと「買うん太」といった感じである!!!
「ちがうよ。ぎゃくとか、はんたいっていみだよ。はんたいのこうかのあるのろいをかけて、のろいをそうさいするのさ」
「たとえば、どんなの?」
「びしょうじょになるのろいに、びしょうねんになるのろいを、ぶつけるとか」
悪霊には悪霊をぶつける理論に近いなにかであった!!
と!
その時!!
不思議なことが起こったのである!!!
新規追加呪い
ショタデー・ナイト・フィーバー(対象を美ショタにする)
「ほらでたぁー!」
「そういうこというからぁー!!」
「しょたってなに?」
「ぼくらぐらいの、おとこのこのことらしいよ」
「じゃあ、びしょうじょののろい、とけるじゃん!」
「かんがえてみなよ。びしょたになるんであって、もとにもどるわけじゃないよ」
「あ。ほんとだ。いみないね、これ」
「ていうか、れすぽんす、はやくない?」
「このスキルって、そういうところあるよね」
「もっとシンプルにさ。のろいをとくのろい、っていうのでいいんだってば」
「のろいが、きえてなくなるイメージでいこう」
「わかった。やってみるよ」
ストフレッドは両の眼を閉じ!
精神を集中させた!
心を一つの波紋もなき水面のように静まらせ!
至る極地は明鏡止水!!
もちろん修業も積んでいない六歳児であるストフレッドに、そんな領域まで行くことができるわけもない!
なんとなくそんな感じの気分になりつつ、一生懸命に念じているというのが実際のところである!
「むむむ。のろいを、とくのろい」
「そのちょうし!」
「のろいを、とくのろい」
「がんばれ!」
「のろいをとくのろい!」
「もっと!」
「のろいをとくのろい!」
「みんなで!」
「「「のろいをとくのろい!! のろいをとくのろい!!」」」
呪いを解く呪いの!
大合唱である!!
なんか言っているうちに、楽しくなっちゃったのだ!
「こんなにいってるのに、ぜんぜんスキルついかされないね!」
「いきおいがたりないんだよ!」
「もっとリズミカルに!!」
呪いを解く呪いを求める声は、さらにリズミカルに!
いつしか振りをつけて!!
爆上げしたテンションのまま、子供達は小一時間も踊り続けたのである!!!
そして!
ついに!!
「解呪の呪い(ストフレッドのスキルによって掛けられた任意の呪いを、掛けられたものの了解を得た場合に限り解除することができる)」という呪いを勝ち取ったのである!!!
恐らく、スキル側としては今の段階でこのスキルを出すつもりはなかったのであろう!
なんか()内がやたら長ったらしいのも、そのあおりだと思われる!
それでもなんだかんだでスキルを追加したのは!!
子供達のテンションと迫力に気おされてのことであろう!!!
スキルも存外!
押しに弱い質だったのである!!!
こうして!
子供達は無事に!!
街に行く算段が、整ったのである!!!
もちろん!
みんなで一緒に!!
お祭りに行くつもりなのである!!!




