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第6話

 マランギ王国王都マランギの中央にそびえる王城内は殺気立っていた。

 王国政府に公然と楯突いたフィリオン伯爵ジーリーコとマダカスが条約を手にやって参内したのだった。

 条約は王国が存在すら確認していない日本帝国とマランギ王国の名を使って結ばれ、内容も謀反人に等しい西部貴族連合を承認して、マダカスを正式に王国の司祭に認めたものだった。

 マダカスと西部貴族は王国が手を打ってくる前に先手を打ってきたのだった。持ってきた条約も外国からの支援を得ていると言外に伝えるためだった。

 この時には王国も複数の情報源からウェストフォーレンに現れたのが異世界でも常識外れの巨船であることの確証を得て、空飛ぶ鉄箱や帆も無く動く船など王国を遥かに凌ぐ大国であると認識していた。

 もしかしたら異世界最強の種族候補である竜族や天翼族、魔族すらも圧倒しかねない存在だとも考えていた。

 そんな未知の超大国がマランギ王国を承認した条約を拒否するわけにはいかないが、受け入れたら謀反人として処罰する予定だったフィリオン伯爵や西部貴族、マダカスに手を出せなくなる。そんな選択肢があるようで無い選択を迫ってきたのだった。

 この時の王国も日本と同じように自分たちの常識や思い込みに囚われて、判断ミスをしたのだった。

 この時、王国がマダカスや西部貴族を処罰して、日本と改めて該当部分だけを手直しした条約を結んでも問題なかった。日本は王国内の内紛にかかわるつもりは一切なかったのだが、王国は自分たちの常識で判断を下したのだった。

 翻訳魔術は交渉では使わないという当たり前の常識を知らないとは思いもよらず、騙されて盛り込まれた条文ではなく日本は王国に楔を打ち込むために受け入れたと考えたのだった。


「以上の通り、日本帝国とマランギ王国、マランギ王国西部貴族連合、至高教正統派との間の友好条約締結のための協定書が無事成立いたしました。これが王国が保管する原本となります。どうぞお納めください」

 西部貴族を代表してジーリーコが謁見の間で協定書を読み上げ、2部制作された協定書の原本の内マランギ王国が保管する一部を侍従に渡し、ドラガン王に献上した。

「陛下からの御言葉である。心して聞け。ジーリーコ・フィリオン伯爵、王国を代表した外交、大儀であった」

 ドラガン王の言葉をそのまま伝えることが使命である侍従でさえ、苦々しい思いを隠し切れないでいた。

 しかし、ドラガン王が事後承諾であっても公式の場で認めた以上はウェストフォーレンで行われた協議は王国による正式な外交行為となり、その結果も受け入れることとなった。

「陛下、大任を勤め上げたジーリーコ・フィリオンに恩賞を送られるべきかと具申いたします」

 宰相ルハインツがドラガン王に進言したが、これは慣習であった。

 臣下は王の道具であり、道具が主のために尽くしたからと褒章を求めるべきでは無いという考えがあり、宰相が褒章を送るべきと汚れ役を演じ、王が寛大な心で宰相の行為を許し受け入れるというのが一連の流れであった。

「陛下からの御言葉である。宰相ルハインツの進言を受け入れ、ジーリーコ・フィリオンに褒美として金貨1万枚と疲れた心身を休ませるための休息を与える」

 慣習であったがためにジーリーコは無意識に返事をしてしまった。

「ありがたき幸せでござい、恐れながら、お聞きしたく存じ上げますが、心身を休ませるための休息とはいかなる意味でございましょうか?」

 この問いを無視してドラガン王は言葉を続けた。

「陛下よりの御下命である。サラディオ・マランギ・ゴーベル王太子殿下を日本帝国への使節団団長に任命し、今後の交渉に関る全権を委任するものとする。サラディオ・マランギ・ゴーベル王太子殿下が王命を遂行に協力することを西部貴族と至高教に命じるものとする」

 この命令にジーリーコは慌てて宮廷作法を無視して口を開いた。

「お待ちください、陛下。日本帝国との交渉はこのジーリーコが団長となっております。殿下といえど、一方的に使節団を変更するのは相手との信義にもとる行為かと」

 ドラガン王はジーリーコの言には答えず、代わりにルハインツが答えた。

「陛下の御前で無礼であるぞ、ジーリーコ・フィリオン。これ以上は大役に心身が疲れたゆえの乱心では済まされぬぞ。陛下より休息を与えられ、貴公もそれを受け入れたであろう。陛下の御前で取り乱すほど疲れた者にこれ以上の重責を負わせない陛下の御厚意であるぞ。それに日本帝国との協定書のどこに日本帝国に派遣する使節団の団員が指定されておるのだ?」

 ウェストフォーレン協定書にはウェストフォーレンで交渉した外交団として署名してあっても、誰を日本国に派遣するかまでは明記していなかった。

 日本から武力ではなく外交で接してきたということは王国がある程度の要求を出したとしても受け入れ、外交使節団を西部貴族中心から王国政府中心のメンバーに変更するのはある程度の範囲内と考えたのだった。

 フィリオン伯爵家は取り潰さないでやるから、ここから先は領地に引っ込んで口出しするな、というオブラートに包んだ命令だった。

 しかし、ドラガン王は王国貴族であるフィリオン伯爵を交渉の場から追い出すくらいは出来ても、至高教の代表者と協定書で名指しされているマダカスを排除することは出来なかった。

 マダカスは一か八かの賭けに勝ち、ジーリーコは一か八かの賭けに負けたのだった。




 『いずも』はウェストフォーレンを離れて日本への帰路に就いた。

 周辺海域の調査も行いつつ、日本へと船を走らせた。

 SH-60Kが空から周辺の哨戒を行っていると地平線に島影が見え、上陸調査が行われた。

 島内には人は住んでおらず、異世界特有の生物や植物の存在が確認されただけの無人島だと思われた。大きさも小笠原諸島の父島とほぼ同サイズと大きくもなかった。

 外界から隔絶した無人島で独自の進化を遂げた生態系は生物学者や植物学者の知的好奇心を大いにくすぐるだろうが、上陸調査でも有望な天然資源は見つからず、島の大きさ的にも居住には向かないと判断された。

 『いずも』に乗船していた水陸機動団第一連隊、かつての西部方面普通科連隊、から派遣されたレンジャー小隊による上陸調査では石油や天然ガスなどの戦略資源が埋蔵している痕跡は見つからず、渡り鳥だと思われる巣が大量に見つかったくらいだった。そこそこの大きさの無人島で使い道は無いと結論付けられ、島内の写真や地質サンプルを回収して引き上げた。

 米軍もDDG-87 USSメイソンからの上陸チームは同様の結論に達したが、星条旗を島内に立ててから帰還した。この島は遠洋を航海する交易船の中には見つけたり、上陸した例もあったが、異世界の地図には一切載っていない誰のものでも無い島だった。後の交渉でも異世界はこの無人島を領有していた証拠は見つからず、国旗を立てたことが領有権を最初に主張した証拠となり、異世界における最初の米国領土となった。

 星条旗を立てたロニー・ローガンからローガン島と名付けられ、後にローガン準州となり、異世界での米国再興の第一歩となった。


 太平洋にナウルという島国がある。

 かつて世界で最も豊かな国と言われ、一人当たりのGDPは世界一だった国である。

 父島くらいの大きさしかない小さな島国が世界一豊かな国になれたのはたった一つの天然資源のお陰だった。

 ナウルは渡り鳥のすみかであり、渡り鳥はナウルで糞を出した。排泄された糞は長い年月をかけて堆積してリン鉱石に変化し、島全体がリン鉱石で覆われていたのだった。

 リン鉱石は主に化学肥料に使われるリン酸の原料であり、その輸出だけでナウルは成り立っていたのだった。


 リン鉱山を持たない日本は輸入に頼っているのだった。

 ローガン島で見つかった渡り鳥の巣と島内の写真からローガン島がリンの有力な産出先であると推測され、地質サンプルからもその推測が裏付けられた。

 日本はあと少しのところでリンという重要資源を見逃し、米国は米軍の存在以外で日本との強力な外交カードを得て、米国再興に繋げたのだった。

 そして、このことが日本、米国、ロシア間で国旗掲揚競争と言われることになる領土獲得競争の引き金となった。

 地球でも地球全体が隅々まで探索されて、各国の領土が確定したのは近代になってからである。

 それまでは辺境の領土は領有権の主張こそしていても調査もまともにされておらず、簡単に取引されていたのだった。全米最大の州で日本の4倍以上の面積を持つアラスカを僅か720万ドル、現在の価値で1億2千万ドル程度で売却して、それを無駄遣いだと非難していた時代もあったのだ。

 中世程度の文明の異世界でも領土が確定して、調査も行われているのは大陸の一部に限られ、大陸から離れた島となると調査され、領有権が主張されている方が稀であった。

 そこに日米露は付け込んで、見つかった島を海図に書き加え、上陸して国旗を立てて自国の領土に組み入れていった。

 国旗を立てて領有権を主張することを優先する余り、島の片側には日本の日の丸が、反対側にはロシアの三色旗が、中央には米国の星条旗が掲げられている島すら出てくる有様だった。

 日米露以外も加わり、加熱する領土獲得競争に領有権の主張に制限を設けた条約が東京で締結されたことで国旗掲揚競争は終わりを迎えた。

リンで生計を立てていたナウルですけど、今のナウルはリンが枯渇して90%以上という高い失業率で知られています。

国の産業がリン頼りで、国民はリンの収入で遊んで暮らせていたため、リン以外の産業が無く、国民の労働意欲も非常に低いものとなっています。


次の話から一気に時間は飛んで、舞台も日本に移ります。

まだ書いていませんが、今年の5月くらいには考えていた場面になります。

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