18-2.同。~君の視線がたまらない~
~~~~ボクなんかの何がいいんだろうなぁ、君は。そこ悩まんの?ボクは悩んどるけど。
「すまない。嫌だったろう」
「そうだったら見せるわけないでしょ?」
「は?え?」
いいリアクションだこと。
もっと見てほしいとかいったら、ひっくり返りそうだが……。
「下も見る?」
「…………やめよう。我々はまだ5つだ」
「落ち着けストック。誕生日まだ来てねぇよ。
で、どうなのさ。性趣向の話は大事だよ?」
こっちが振っといて吹いちゃ悪いので、矛先を少し変える。
しかしこう……こないだそんな話をしたせいか、ボクちょっと思考がドピンクかもしれん。
いや、それを言うならそもそも、押し倒しそうだから二人っきりにするなとか言った、あの冒険女が悪いのでは?
「…………よくわからん」
「今まで経験もなかったからか?」
「そうだ。もちろん、人と違うという自覚はあるぞ。
男にさっぱり興味が持てない。男性すべてが苦手なわけではないが。
恋愛事で絡まれるとダメだ。怖気が走る。
私が亀を殺したのは、縁談を持ってきたのがきっかけだよ」
ストックが「亀」って呼ぶのは、帝国のタトル公爵ね。
前の時間で聖域ドーンを滅ぼし、ヴァイオレット様を害し。
そしてストックを浚い、養女にした奴だ。
最期はストックに反逆され、処刑されたわけだが。
こんな理由だったとは。
「ほーん。高等部に上がる前か?」
「そうだな。お前に出会う前だった。
当時は薄ぼんやりと、人と趣向が違う程度の認識だったが。
縁談を契機に、はっきり男性がダメだとわかってな」
自認としては、男性はダメ、と。
となると、性対象が女性なのは、ほぼほぼ決まりか。
あとは。
「君、性自認……自分のことは女だと思ってるので、間違いないよね?」
「ああ。この喋り方は性に合ってるが、男になりたいとも、それに近しいと思ったこともないな」
「だよね。リボン、よく似合うよ。その結び方は初めて見るね?」
「む……ありがとう」
照れながらも、そこですごーく嬉しそうなあたり、そうだよなぁ。
ストックは、とてもおしゃれだ。着飾ることに非常に高い興味があり、いつも身綺麗にしている。
今、我々は平民服だが……この子の用意するのは、ベースの色は同じでも、色味もデザインも全部違うんだよな。
それを毎朝丁寧に組み合わせている。最近は、リボンで髪の結び方を毎日のように変えている。
着飾りが女のすべてではないが、「他人の視線に敏感」なあたり、ストックはボクと同性だと感じる。
よくボクはストックが美人だと思うが、実際には元がいいというより、こういう努力が美しいからじゃないかな。
なお、ボクはその辺が割と適当なので、毎朝ストックの着せ替え人形にされている。
前に数枚をハードローテすればよかろ?と言ったら、無言の笑顔のまま整えられた。
以来、服を選ぶのは彼女に頼んでいる。
……ボクだって着飾るのは好きだが、さすがに元女公爵にはいろいろと敵わん。
「男がダメだとわかってすぐ……お前に会ってしまった。
だから、異性に拒否感があるとは確かに言えるが。
同性を好むかと言われると、はっきり答えられない」
なるほどな。ほかに例を知らないってことか。
…………へー。
最初っから、そうだったのかぁ。
平民に対して、ずいぶん丁寧に接するなぁと思ったけど。そういう?
にやけんぞちくしょう。
まぁ、ちっさい子好きってことじゃないのは、決まりか。
それはちょっとほっとしたよ。いろんな意味で。
「ありがとう。
ボクから見ると、君は女性であり、かつ女性に興味を示す同性愛者だよ。
君の自認と、特に相違ないと思う」
「そうか」
「せっかくだから、逆も聞いてみようか。
ボクの方はどうだと思う?君から見て。
女で、かつ異性を好むように見える?」
「自分でストレートだと言っていただろう。
だがそうだな。ハイディはとても淑やかで艶やかだ。
幼い体になっても、それはまったく変わっていないよ。
お前は私から見て、女性らしい女性だ。
その上で、やはり男性といるときは似合いだなとは思ったぞ?
女といるときのほうが、ずいぶんと楽しそうだったがな。
だから……お前が女性を好まないという話、特に疑ったことはない」
めっちゃ早口なのに丁寧に言うやん……。
そんなに女らしいかねぇ?ボク。
そうあろうとはしているが、一方で適当だったと自覚している。
その余裕がなかった、ともいえるが。
でもそんなに寂しそうに言うのは、減点だなストック。
ボクが他の誰かといたところを、思い出しちゃったからか。
あるいはボクが君をどう思うか、不安になってきたか?
こっちは最初に、全面降伏済みじゃないか。もう忘れたのか?
なら、ちゃんと現実を見せてやろう。
ストックに向き合うというのなら。
それを言葉にして、本人に、示すんだ。
「そ。でも信じてるんだね?ボクのこと」
「もちろん。違うのか?」
「違わないよ。
そして君の言う通り、ボクは貴族ではなくとも、淑女としては育てられてる」
ボクも、助手席側に寄って座りなおす。
手を伸ばし、所在無げにリボンを触っていた彼女の右手を、とる。
運転しながらだから、そっちは見ずに。
ゆっくりと、丁寧に、指を絡めていく。
長年神器を振ったわけでもない互いの手は。
まだとても、滑らかだ。
「だからこれからも、口づけは待たせてもらうよ?
ボクからするわけにはいかない。
君のすぐそばで。
君の最高の女でいながら。
何年でも、待ってる」
ほら、ボクを見ろ。ストック。
……よし、いい子だ。
そのまま、ボクがいつ振り向いてもいいように。
ボクの大好きな、その炎のような瞳で。
じっとボクだけを、見ているといい。
次の投稿に続きます。




