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16-6.同。~永い時の経て、二人の重たい女は向き合う~

~~~~やっぱり酔って聞くべきだったよ。君の永い旅路が……見えるかのようだ。


 皇女としての地位も失って、西方の辺境に押し込められた。


 神器車もない当時なら、そんなメリアに会いに来る者などいなかっただろう。


 でもミスティだけは、待ってさえいれば、必ず会いに来てくれた。



 おそらくそれまでの人生でも、そうだったのだろう。


 ミスティいつだって、メリアが耐えて待っているとき、彼女の元へやってきてくれたのだ。



「まぁ本当は、一緒に居たかったんだろうけどね。


 ボクの知るあの子はね。君の任務に必ず同行したがったんだ。


 いつも帰ってくると車が揺れるだの、戦闘で死にそうになるだの愚痴るのに。


 ミスティに遠方に行ってもらうってときは、頭を下げてでもついていく勢いだった


 だから君と初めて会った時間でも、ほんとなら一緒に行きたかったはずだよ?


 冒険が好きな君のことは、よくわかっているようだったからね」



 そして前回のことを踏まえるに。


 本当はミスティと、ずっと一緒にいたかったのだろう。



 ただその当時のメリアは。


 楽しそうに冒険してまわるミスティについていくことも。


 彼女を帝国の辺境に押しとどめておくことも、できなかったのだ。



「なら、どうしてあの時は……」


「旅なんて、君が再会したときにはもう、出られなかったんだよ。


 遺体からあの大きさの結晶が残る状態は、尋常じゃない。


 神器もない時代なのに、そんな結晶化進行はあり得ない。


 ずっと、内魔結症を患ってたんだよ。


 おそらく、消化器系の臓器にできていたんだろう。


 細い見た目だと思ってたんでしょ?


 それ、ほとんど食べられなかったんだ」


「そん、な」



 見たことのある症例だ。


 結晶は、体表だけではなく、内臓にできてしまうこともある。


 稀だが、一度できると徐々に育つ。外からだと診断が難しい。



 消化器官系に結晶ができてしまった場合、いろいろ異常を来す。


 その中に、食が細り、満足に食べられなくなる症状がある。


 もしそれで亡くなったなら、餓死と勘違いするような遺体の状態になる。



 食べ物がなかったのは本当だろうけど、それは因果が逆。


 症状が進行し、食べられなくなってしまったから、補充しなかっただけ。



 現代なら、わかっていれば結晶化している場所を確認する検査を行い、摘出すれば治る。


 そう難しい手術ではない。精霊魔法や法術、回復魔術の助けを借りれば、失敗などしない。



 でも神器すらない時代には、発見が難しかったろうな。


 魔導だけでは治らないから、原因不明の不調として、片づけられていたのだろう。



 ボクの知る前回のメリアには、そんな症状はなかった。


 最低でも20前後から、患う可能性が出てくるんじゃないかな。



 ミスティについていけなかったのは、体がもう弱っていたから。


 ミスティをとどめられなかったのは、そんな自分に気づかれてしまうから。


 あれで彼女も貴族だ。張れる意地は、張り通したんだろう。



「そんな状態で、何も言わずに君のことを楽しみに待ってたんだ。


 重かろう?その命と、期待が。待つ女の想いが。


 それを背負う覚悟があるなら――――泣くなよ、ミスティ」


「泣き、ません」



 よろしい。目の端のものは、見なかったことにしておいてやろう。



 一人で生きていくのに慣れているのも。


 せめて持て成すために、極めただろうお茶の手腕も。


 耐えて忍んで信じて待つ、そのしぶとさも。



 全部ミスティとの間で、培われたものならば。


 涙でそれと向き合えないなど、女が廃るというものだ。



 ミスティ、その目を曇らせるな。しかと見て――ボクの友を選べ。



「エールを頼むから。もう一杯飲んでしまえよ。ミスティ」


「どうして、ですか?」


「彼女と一緒だと寝れないんだろう?


 でも今の話を聞いて、君を友の元に帰さないなど、ボクの沽券にかかわる。


 だから飲んで寝てしまえ。ちゃんと隣に運んでやるよ」


「……わかりました。今夜だけ、お願いします」


「明日からは大丈夫なの?」


「怖い、だけなので。あの子の側で過ごすと、どうにかなってしまいそうで。


 だから……背中だけ、押してください」



 そばに寄るのが怖い、ね。


 似たもの同士め。



「わかった。じゃあもう一押ししてやろう。


 今の時間で出会ってすぐ。メリアに、君がモンストンにいるという話をしたらね。


 嬉しそうにしたあと……真っ青になったんだ。


 そのあと、君の運転が嫌だと言っていたが……変でね。


 前の時間の時は、どんな目に遭っても必ず一緒に行こうとしてたから」


「どういうことです?」


「これも想像に過ぎないがね。怖かったんだよ。


 ――――やっと会えたミスティが、自分の知っている<ミスティ>か、分からないから。


 この気持ち、君ならよくわかるだろう?」



 ミスティが、立ち上がった。



 まばらな人しかいない食堂で、少し椅子を押した音が響く。


 少し暗めの店内で、僅かに上を向く彼女の姿は。


 手折れた花がまた天を向くようで、美しかった。



「行くんだね?」


「はい。お酒なんて、飲んでいられません。あ、でも……」


「ボクのおごりだ。おやすみ、ミスティ」


「はい。ありがとうございました。おやすみなさい、ハイディ」



 さて。


 ボクはマッシュを片付けて、少し涼んでから戻ろうかな。


 何せ、ボクの問題は何も解決していない。



 ……当てられた。


 ボクもストックのところに帰るために、どうやってか自分の背中を押さなくてはならない。


 左手で、所在無げにロザリオを弄ぶ。



 どうしろって言うんだ、これ。

ご清覧ありがとうございます!


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