11-4.同。~かつての重労働も、今や昔~
~~~~できたらいいなくらいに思って積んでいたが、真夏のピクニックができるとは。なんでも備えておくものだ。
……おっと話がそれた。
「だから魔物退治に一回出るのに、かなりの雑事をやらされるのよな……。
しかも、出る理由は一番緩いのが素材収集だ。それ以外ではまず出動許可が降りん」
メリアが言うのは、個人での話。プロジェクトチームの所要で出るなら、そこまで厳しくはない。
チームを立ち上げるのも、所属するのも、そこで仕事をするのも大変だというのに目を瞑れば。
なお。
「出られるけど帰れないやつじゃないか。狙いの素材が良い状態で持って帰れないと、やり直しになるし」
「もうちょっと緩くしてくれてもよかったろうに、ハイディ」
「ボクは十分緩めたよ。あれ、いったん任務完了にして再挑戦できるようにしたの、ボクだかんな?」
「は?前はどうなっておったんだ」
「まず持ち帰った素材検分。ダメだったらそのまま追い出されてやり直し」
以前はその場で追い返されたが、ボクが議決とって変更させてからは、帰って休めるようになった。
仕事自体はまた受けないといけないけど、予算もないまま追い出されるよりはずっと楽だ。
「なんだそれは。クレッセントは職員を退職させたかったのか……?」
「ボクも同感だよストック。だから帰ってこない職員が出てるって事実を整理して突きつけて、制度を変えた」
このあんまりな状況のせいで、結構な数の職員が、任務中にそのまま逃げていた。
低予算だし、素材収集は場合によっては現地費用を個人が自前でねん出することもあった。
もちろん後で清算できるんだけど、これは任務が完了しないとできない。
だからいったん完了させ、清算。そうすることで多少やりやすいようにした。
素材収集が簡単だと思ってる研究畑の奴らは、いろいろやって黙らせた。
収集自体の難易度評価も適当だったので、そこも改めた。
「あそこ、なんであんなだったんだハイディ。長くいたんだから、知ってるだろう」
メリアに言われて、思案する。
何が悪かったって言われれば全部なんだけど……。
一番大きいのは、領分を越えたことをやろうとしたこと、かな。
「そも、最初は魔都の小衛星都市の予定で建造された、航行しない中型神器船なんだよ。クレッセントは。
プリースト位やディーコン位の神職がいなかったし、動かすつもりがまったくなかった。
魔都周りでだけ活動するから、大して不都合はなかった。活動規模も小さかったしね。
それが神主が来て、魔境航行する組織になってから大変になった。
組織の事業規模が大きくなって、やることが膨大になってね。お金も大きく動くから、管理も大変になった。
で、大人たちが専門家もいないのに組織を急造でこしらえたもんだから、運用にしわ寄せが来てた。
オーナーはまともだったんだけど……魔境航行って勝手にやってると撃ち落とされるから、ある種の政治活動が必要でね。
それにずっとかかりっきりになってた。
ボクが高等部から学園に行ったのは、その人が亡くなって……後継がいなかったからなんだよね」
あの時は本当に大変だった。
オーナーは、外出中の事故で、急に亡くなった。
同行していた子が行方不明になったものだから、いろいろ憶測が飛び交ったが、事故で処理された。
怪しい状況ではあった。それは確かなんだけど。
ボクとしてはその子もとても優秀だったから、二人そろっていなくなられて大変な思いをした印象の方が強い。
派手な見た目な子で誤解はされやすかったんだけど、律儀で素直で、頼りになったんだよね。
もちろん、その子が犯人ではない。証拠はなかったが、状況は掴んでいた。
ただボクのほうも本当に、それどころではなくなってしまった。
撃ち落されるのは、比喩じゃない。その後は毎日、必死だった。
「勉強しに来てたんじゃなかったのか?」
「それもあるけど、あそこ各神器船の転送路があるでしょ?
先方との事前のやりとりは必要だけど、それを使ってお会いしに行けるんだよ。
魔境航行折衝は最低限、各国の聖域と話が通ってれば大丈夫だから、それでお話させてもらってたんだ」
「おぬし、それでいつも忙しそうだったのか……」
「それなのにいつも付き合わせて悪かったな……」
「メリアが紹介してくれた人らに会えなかったら、結構大変だったし。
ストックが礼法を矯正してくれなかったら、ボクは何度か失礼を働いていたと思う。
おかげで助かったよ。でも二度とやりたくない」
言って笑う。
君らのおかげで楽しかったんだから、そんな顔しなくてもええんやで。
次の投稿に続きます。




