8-6.同。~聞かせてもらおう。君の望む関係を~
~~~~ストックは笑うと、その。本当にかわいい。見惚れる……。
おや、なんかストックの表情が暗い。どうした。
せっかくの笑顔だったのに。
「それがとてもありがたくて……だから敵対したときは、心がかき乱された。
私の憩いが、私に刃を向けるのが信じられなかった」
「そりゃボクもだよ。毎度全力で来るしさ。
君と戦うのはしんどかったよ」
「私は毎回負けていた気がするが?」
「気持ちの問題だよ。絶対殺したくなかったから、神経が参りそうだった」
「……いつも殺す気で行って、本当にすまなかった」
うそつけ。
君はいつだって手は抜かなかったけど、殺気を感じたことは一度もない。
ずっと泣きそうな目をしていた。けれども、ボクと言葉を交わすことを諦めなかった。
ま、後ろに自分を信じてついて来てくれた人たちがいたら、そりゃ戦うしかないもんな。
「そこはいいよ。最後にちゃんと止まってくれて、ボクはうれしかったんだから。
ボクは誰も彼も助けられなかったけど、君だけは救えたんじゃないかって、勝手ながらそう思えたしね」
彼らラリーアラウンドを止めたこと自体は……実際には意味はなかった。
止めても止めなくても、鉄砲玉にされた彼らには破滅しか待っていなかった。
でも、死にに行こうとする人たちの命を、僅かながらでも繋ぎとめられたのは、ボクの数少ない誇りだ。
「救われたさ。
墓になり、共に人生をやり直すくらいには、私の心はお前の虜になったよ」
またそういうこと言う……。
風呂上がりに薄着で頭にタオル撒いて、ボトル片手に言うセリフじゃないけど。
でも、ボクはこれがいいや。
君はかっこいいよ。とても。
……そういやちょっと、気になること言われたな。
ボク、たまにおせっかいだって言われるし。
「ストック」
「何だ」
「ボクって君のこと、そんなに甘やかしてる?」
「ん?私はそう感じ……誰にでもやってないだろうな?」
そういう反応すんのかよ!
やっぱりこやつ、服の色のことといい、地味に独占欲強いだろう!?
「前にも、そこまで世話を焼くんじゃなかったと言っていたし……」
「ああ……それとは違うよ」
「どう違うんだ?」
「彼らには仕事の一環で気を遣ってたんだよ。その方が円滑になるし」
「私に対してはそうじゃないのか?」
やけに前のめりだな。
よーし、覚悟しろよ?
ボトルから飲み物を一口飲み下して。
ストックの目を、真っ直ぐに見た。
彼女がボクの奥を覗き込む。
「君に嫌われたくない」
「…………」
好きだとは、言ってやんない。
よく考えたら、ストックからも何も言われてない。
奥ゆかしいのはボク好みだが、それとこれとは話が別だ。
「髪が荒れないように丁寧に拭くのも、クルマにボトルを準備しておくのも。
しわにならないようにきちんと畳んで、カバンに服をいれておくのも。
ついでに、君があまり乗ったことないっていうから、揺れないように運転するのも。
そのためだよ」
「…………嫌いになんて、なるわけないだろう」
「知ってる。じゃあ……喜んでほしいって言い換えようか?
仕事で気を遣うのなんて、別に誰かのためにならなくてもいいんだよ。
不快になる人がいなければいい。
でもボクは君に、気持ちよく過ごしてほしい。
もちろん、やってることに気づかなくていいからな?」
「それは……どうなんだ」
顔赤いし。珍しい反応だな?ういやつめ。
「いいんだよ。ただ健やかであってほしい。
濡れた髪で過ごして、風邪ひいたりするなよ?
一日中、涙目でべったり看病するぞ?」
「わかったよ。頼めるか?」
ストックが髪からタオルを外す。
「ん。ちょっと待ってて」
ボクは脱衣所に温風器を取りに行こうとして――
「ハイディ、その……」
ん?なんだねそのお顔と、言いづらそうな感じは。
「嫌だという話では、ないんだが。
一緒にいて、そうやって喜ばれたいと気を回す。
そこまでするのは、どうしてだ。
お前にとって、私は」
そういう話か。
「ああ。友達、ではないね」
「…………じゃあ、なんだ」
戻って、少し顔を寄せる。
「何て呼んでほしい?
言っとくけど、恋人っつったらぶん殴るからな?
貴族令嬢」
「そのくらいは、弁えている」
この流れで差す釘じゃないかもしれないが、でもそれはダメ。
王国の侯爵令嬢なんて、自由に恋愛できる身分じゃない。
その気があるならぬるいこと言ってないで、婚約者にし、とっとと自分のものにするしかないだろう。
さて、何て応える?ストック。
親友かな?無難なところで。
ボクだったらそう答える。そのくらいには、仲良しだもんな。
まぁ別に意地悪したいわけじゃないし、何ならボクからちょっと良い感じのをこう――――
「……相棒で」
…………。
ボクは無言で脱衣所へ行き。
温風器をとって、戻ってきた。
「…………ハイディ?」
「髪を出せ、相棒。さらっさらにしてやる」
正直、ボクの頭には全然なかった単語だ。
ロマンティック路線じゃなかったのは、なぜかボクの中で高評価だ。
褒美をくれてやろう。
「ああ。よろしく相棒」
クールにさっと背中を向けたけど。
君、部屋の隅の鏡に、にっこにこのお顔が映ってるからな?
ご清覧ありがとうございます!
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