5-5.同。~君の希望の光~
~~~~ストック、魔界化のことよくわかったな?与太話資料しかないぞ?どうやって調べたし。
とはいえ。
「じゃあ今の君は何をしたいの?」
「ハイディといられるなら、それだけでいい」
……君もかよ。幸せそうに言うなし。
「何か月も早速ほっといて、よく言うね?」
「それについてはまことに反省しているので、埋め合わせする所存だ」
「本当?じゃあまず。手、握って」
左手を、差し出す。
「ん」
最初はそっととられて。
だんだんと、絡めとられて。
……ん。あんま指をすりすりすんなし。運転中やぞ。
「ん。よろしい」
「お気に召したようで何よりだ」
こいつはこういうところで、下手に気障な真似をしないからいい。
手の甲に口づけとかしやがったら、怖気が走っていたかもしれない。
…………我ながらボク、めんどくさい女だな。
あるいは、そういうところを絶妙に回避してくるこいつがすごいのか。
ストックといるのは前から居心地がよかったけど、そのあたりがボクに効いてるんだろうか?
いや、そういう心地のよさだけなら、別にストックだけってわけじゃない。何が違うんだろう……。
しばらくいない間に、君を受け入れる踏ん切りくらいはついたけどさ。
まだ自分の気の持ちようには、正直納得できてないんだよなぁ。
相変わらず、君の何がそんなによかったのか。よくわかんねぇ。
でも……ストックの手、いい、な。
ずっと握っていたい。
手の方をそっと見て……シフトレバーの側のボトル置きが目についた。
二本ほど飲料の入ったボトルを置いて、冷やしてある。
そういやこの樹脂製のボトル、王国では当たり前に手に入るけど、よそではないんだよな。
地球?にもあるみたいだけど、あっちでは加工品なんだっけ?
ここではまんま、プラの木ってのがある。樹脂が花や実を形成する。
実はこういう形のボトルになる。ヘタがそのまま蓋だ。洗って何度でも使える。
花びらは形状加工して、様々なものに使われるらしい。
そして一定以下の温度なら、腐敗もしない。夏場は日差しの下においとくと、腐って溶けちゃうけど。
だから、クルマのボトル置きは底の方に冷蔵機能がついてる。よく冷える。
ボトルには一応、暖かいものも入れられるけど……冬場以外はやっぱり腐って溶ける。
「一本、開けてとってくれる?」
「ん」
ストックは手を離さずに、左手でボトルを一本とって、蓋を……あれ、今どうやってあけたの?
こいつたまに器用なとこ見せるよな……。
そして。
「少しもらうぞ」
そこで、飲むのかよ。
…………いい、けど。
「どうぞ」
一口飲んでから、ボクの左手に渡してくれた。よく冷えてる。
…………。
ええい、ままよ。
周囲に気を付け、少し速度を落としながら口をつけて中の液体を飲む。
果汁と炭酸がちょっと入ったやつで、少し甘い。炭酸は簡単に作れる魔道具があるんだよね。
味はよくわからん。脳がちょっとそれどころではない。
二口飲んでから戻そうとしたら、横から手が伸びてきた。
渡すと、蓋を閉めてボトル置きに戻してくれた。
…………。
「学園では明らかに気を遣われる方だったのに、えらい気が回るようになったね?ストック」
「王国跡地の村で過ごしてるうちにな。できることは、できる限り何でもやらねばならなかった。
それでも、ハイディほど気が付かんが」
「年季が違う。あの船の大人たちは、自分の研究や信念には前向きだけど、雑事に疎かったから。
……あんなに世話を焼くんじゃなかったよ」
「ふむ。なら今度は私がお前の世話を焼いてやるよ。
ゆっくりするといい」
「何言ってるんだ侯爵令嬢。
大人しくボクに世話を焼かれろ」
「私を貴族扱いするなら、その口の利き方でいいのか?」
「だめなの?」
「いや。その方が似合ってる」
「なんだ。子どもっぽいからか?」
四歳児だしな。
と思ったら、なんかストックがもう一度ボトルを手に取って、ぐびりと飲んだ。
なんだその神妙なお顔は。
「お前の生き方は、いつだって閃光のようで、苛烈だった。
不敵で、出鱈目で、最高に眩しくて。
それを見たから、私は救われて――止まることができたんだ。
今のお前と話していると、あの瞬間が常に間近にあるようだ。
私の光よ、どうかそのままでいておくれ」
……なんだそのかっこいいセリフは。そんな目で見るなばか。
運転中なのに、視線が離せなくなっちゃうだろ。
運転してないときにしてよ……。クルマ、止めてやろうかしら。
顔を逸らし、無言で手を伸ばす。ボトルを渡してくれた。
口をつけ、ごくごく飲む。
こんなん、やってられっか。
飲料は冷たいけど、顔の熱が全然引いてくれない。
「分かったよ。一生続けてやるから、不敬だって言うなよ」
「……最高だな。ぜひそうしてくれ」
くそっ、絶好調じゃないかストック。
勝てる気がしねぇ。
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