5-2.同。~先の予定を話し合う~
~~~~二人旅になった。なって、しまった。
ファイアの街を出て、北西に向かって緩く環状の街道を、低速で走る。
いい道だ。王国の街道はよく整備されている。
神器車は半分浮いてるから影響は少ないが、荒れ地はそれなりに揺れる。
迷うようなところもない。まだ午前だから、かなり飛ばせば今日中にシャドウまでつくかな?
でも今のところ急ぐとも言われていないし、街道を馬車並みの速度で走っている。
飛ばす必要がある場合は、街道が見えるくらいの距離で、それに沿って平地を行く。
シャドウというのは、王国西端の街だ。モンストン領の西の端。
ここファイア領からは、間のシルバ領を抜けて、モンストン領まで行き、その後国境を目指せばいい。
ドーンはその先の魔境にあるが、入りたければ確かシャドウの街で手続きがいるはずだ。
いずれにせよ、豊かな王国内を抜けていくだけの旅だ。終点ドーンまで、気楽に行けるかな。
この国の領は、八つに切ったピザのような形だ。ど真ん中が王都。
丸いピザを縦横斜めに切り、15度ほど回転させるイメージをしてほしい。
我々が今いるのは、南方領ファイア。コンクパールから降りてきたのは、南東領のニキス。
そこから、南西領のシルバ、西方領のモンストンへ行くわけだ。
エングレイブ王国には、大きな街道が全部で11ある。
環状の内・中・外環道で3つ。中央から領の真ん中を国境まで抜ける、各領中央放射道が8つ。計11だ。
モンストン領まではここ内環道を通っていき、そこからモンストン領中央放射道でシャドウまで行く。
検めは街の出入り口にしかないし、ファイアからモンストンの間はシルバ領だが……内環道沿いだと街はない。
あそこは領主してた貴族家が全滅した関係で、王家の直轄領地になっている。
そのせいか、街が少ない。モンストンに抜けるだけなら、本当に素通りだ。時間のかかる場所はない。
次の街はモンストン領に入ってから。領都モンストンだ。
間に宿場はない。
その後どうするかは……領に入ってから、相談すればいいかな。
適当に来いって言われたし、急ぐならストックがそう言うしな。
後で彼女の意見を聞いて、決めるとしようか。
「…………神器車はほとんど乗ったことがないが、快適だな」
窓を開けて、枠に頬杖ついてる令嬢がおる。
助手席側面の窓は扉の上半分なので、我々が普通に座るとちょっと肘は届かない。
なので、座席の方を浮かせているようだ。地味なところが高機能だよな、このクルマ。
しかし様になりすぎだろう、四歳児。
あと、ほとんど乗らないにしちゃ手慣れすぎだろう。
いつの間に窓開けて、座席浮かせたんだよ。
というか、外は割と暑いし、窓開けても気持ちよくはなかろ?
風は当たるから、気分はいいかもしれんが。
…………まぁいいか。
車内は冷風を流してあるが、多少外の風が入ったところで温度は変わらない。
好きなように、過ごしてもらおう。
「サンライトビリオンは、かなりいい方だよ」
「さすがといったところか?」
「んにゃ。実際のところ、機能は多少高級なくらいの普通の神器車だよ。
このサイズで、単純にもっといいクルマだってある。
でも、こいつは癖がなくて乗りやすい。
充実している機能は、どれも乗ってて過ごしやすくなる系統のものだ。
こういうのは、長旅に向いてる」
ビリオンは確かに高機能だが、デザインがよくてもっと高いやつなんかもある。
そういう高級車は、ちょっと乗ったことがない。
ボクは旅向きで頑丈な、手ごろなクルマを乗り回してたんだよね。
「そうなのか。ハイディは、かなりクルマには乗ったのか?」
「ん。君を王国の残存生存圏に送ってから、割とすぐに船を降りてね。
そのあとあの時までは、クルマで旅暮らしだったよ。
クルマ自体も、いくつか乗り換えてる」
「なんだそうだったのか。たまには旅に誘ってくれてもよかったんだぞ?」
「ストックは忙しそうだったもの。でも、誘えばよかったなとは、思ってるよ?」
「ほう」
……もしストックと二人なら。ボクは道を踏み外したりしなかっただろう。確信がある。
けどそれは言わない。さすがにそれは、自分のしでかしたことから目を逸らしすぎだ。
どっちかっていうと今ボクが気になっているのは、今後のことのほう。
「人を巫女にしてくれやがったので、当分好き勝手に一緒に旅ができない」
神職は、基本的にその職場の専属だ。異動などしない。
聖域なら、その稼働スケジュールが主眼で、所属の神職の予定はそれによってすべて決まる。
ちょっと自由に休んだり、旅に出たりはできないだろう。
退職はできたとは思うけど、さてどのくらい先になるかなぁ。
「成人までは聖域内の神学校だろう。長期休暇もあるんじゃなかったか?」
おっとそうだった。
素質のある子を神器に慣れさせ、結晶を大きくし、神職に育てる学校が各聖域にはある。
実力はともかく、年齢の関係でボクもまずそこにぶち込まれるはずだ。
「さすがに神学校の制度は知らないよ。ところでそれ、ボクが通う間、君は何してんの?」
「一緒に通う」
「……は?」
「私も巫女の推挙をもらった」
思わずブレーキを踏んで、少し道脇に寄せてゆっくり車を止める。
ストックが、左腕を見せる。ほんのりと青いような……気がする。
前の時の、彼女の姿が思い浮かぶ。
魔結晶は通常、緑か黒。青や赤は普通見るものではない。
ボクは以前の時は、様々な結晶を移植された。その中に、エリアル様の赤い結晶があったのだと思う。
ストックもおそらく同じ。帝国に浚われたときに、移植されていたのだろう。
そのうちの一つに青い結晶もあったんだろうな。
ボクの赤い結晶は、おそらく特別なものだった。
サンライトビリオンが動かせるようになる代物だ。普通じゃない。
同じような青い結晶がどこかにあった。それをストックは取り込んだということだろう。
「このッ、どこにあったんだよ青い結晶」
「うちにあった。一年くらい前に刺してな」
モンストン家はどうなっとるんじゃ。
いや、聖域抱えてるくらいだから、可能性はあるほうか。
乗った小型神器船に、たまたまあるよりずっとあり得るな。
というか、なんで刺したんだよこいつめ……。
「神器は使うなよ?君を墓にするのなんて、もう御免だ」
「そっちこそ。私は大人しく、武術を習っているよ」
お、神器自体を使うのは辞めたのか。
ん……それなら結晶化が進むこともあるまい。
「ならいいけど……習ってる?ヴァイオレット様に?」
「そうだ。お母さまは、エリアル様と同門らしいぞ?」
「まじかよ……」
息を吐き、またアクセルを踏む。
びっくりしたけど、納得したというか。
……正直、ちょっとうれしい。
結晶取り込みはまぁなんか違う事情だろうけど……一緒に巫女になってくれるのか。
一緒に、いてくれるんだな。
学校、二人で通えるのか。そうか。
あれ?でも。
「貴族が神職になるの、あんまよくないんじゃなかったか?」
貴族は魔導師。結晶は多少だが魔導使用を阻害する。
神職級の結晶だと、両立は難しかったはずだが。
「どのみち私は魔力なしだ。王国の家は継げん。
兄がいるから、モンストンは問題ない」
そうだった。ストックも魔力なしだっけ。
そういや魔導使えない子が行く、同じ学科に通ってたんだ。
そして魔力なしは、精霊と直接の契約ができないらしい。
だから、貴族の家は継承できないんだと。
これは、本で読んだ記憶がある。
んむ。その辺に問題ないと言うなら……つまり一緒に学校通って。
長期休みも一緒にいられる、のか。
「そっか。じゃあ――どこ行く?」
視界の端で、ストックがにやり、とした。
次の投稿に続きます。




