3.水晶都市ローズクォーツ
「――おお!」
いつの間にか私が立っていた場所――このゲームの始まりの場所にして、メインコンテンツである『追憶のクリスタルタワー』が存在する『水晶都市ローズクォーツ』の風景に圧倒される。
その名前に恥じない水晶で出来た煌びやかな街並みは、今の時刻が夕方なのも相まってか茜色に光り輝いていた。
背後を振り返ってみれば天を衝くと言わんばかりの巨大な塔――あれが追憶のクリスタルタワーとやらなのだろう、縦だけでなく横にも大きくて遠近感が狂う。
あのクリスタルタワーは近くに在るように感じられるが、実際には数キロは街の中心に向かって歩かないと辿り着けなさそうだ。
「す、すごい……」
思わず漏れ出た呟き……というより、視界に入ってくる情報に頭がフリーズしてそれしか言えない。気の利いた言葉が思い浮かばない。
こんな現実離れした風景でありながら、私の捏造された五感はきちんとこれらを本物だと錯覚しているのだからもう訳が分からない。
「ハルカの弟くんが熱中するのも分かるかも……」
SNSに写真とか上げたらめっちゃいいね貰えそう。
「てか撮るか、その方がギャルっぽい」
って事で巨大なクリスタルタワーを背景にギャルピースで自撮りする。後でSNSに載っけよう。
「おや、お嬢ちゃん見ない顔だね? どうかしたのかな?」
と、そんな風にキョロ充してたら兵士さん? みたいな格好をしたおじいさんが話し掛けてきた。
「そうなんすよ〜! 自分さっき来たばかりでぇ」
「あー、なるほど……君みたいな新しい攻略者は今日も何人か来たけど、みんなあのクリスタルタワーの方に向かって行ったねぇ」
「ほ?」
あー、そういえばあの『追憶のクリスタルタワー』とやらを攻略するのがこのゲームのメインコンテンツなんだっけ。
「その攻略者ってみんなここに現れるんですか?」
「んいや、街の決まった場所……全部で八箇所ある広場になんの法則もなく現れるね」
「ほ〜」
なんかめっちゃ流行ってるらしいし、人混み対策か何かだろうか。
「んじゃ、自分も向かってみますわ〜!」
「気を付けるんだよ」
「あーい! あざまる水さ〜ん!」
なんだか親切なおじさんだったなぁ……ってあれ? 普通に会話できてたけど、あのおじさんもプレイヤーなんだろうか?
いやでもアイちゃんの例もあるし……そういえばこのゲームのNPC? は自然な反応を返すって今朝のブログに書いてたっけ。
うわ、やばっ、この調子じゃ目の前の相手がプレイヤーなのかNPCなのか全然見分けがつかん。
「さーて、どのくらい歩けば着くのかなぁ〜っと……方角を間違えないのは良いけど」
にしてもマジでデカすぎっしょ……頂上が雲に隠れて見えないとか意味わからん。
どうするよ? プレイヤー同士で言語バラバラにされたら……翻訳アプリとか使えるかな?
「にしても」
いくらゲームとはいえ、全ての建物が水晶で出来てるとか凄い事を考える。めっちゃ幻想的な風景だわ。
この夕方の時間帯に街全体が茜色に染まるからローズクォーツって都市名なのかな? だとしたら考えた人マジでセンスある。私と違って。
そしてそんな街を往く人々も個性豊かで多種多様で、二足歩行してる猫や犬みたいな見た目の人はめっかわだし、肌が全て鱗で覆われてる人は厳つくてバリイケメンだった。
「もう少し攻めれば良かったかも?」
あんな感じが普通なら、私の今の見た目なんて没個性も良いところだ。
まぁ、現実と違い過ぎる見た目にしてもギャップで困るだけだとは思うけど、もう少し遊びがあっても良かったかも知れない。
「……やっと着いた」
街の中心からどんだけ離れた場所に居たのよ……いや、その間凄く綺麗な街並みを楽しめたから良いけどさ。
にしても本当にデカイなこれ。見上げようとしたら首を痛めそうだな。
「とりあえず入ってみるか」
じゃないと進まないし、って事で長い階段を登った先にあるクソデカい入口を潜る。扉とかは特にないっぽい。
「おわぁ……」
塔の内部に入ってすぐ視界に入るのは学校の体育館くらいはある巨大な緋色のクリスタルだった。
そのあまりの大きさと輝き、神秘的な光景にこれはゲームなんだという事も忘れて呆けてしまう。
――汝、滅びの運命に抗う者よ
「うぇっ?!」
突如として脳内に響く声に驚き飛び上がる。
完全に不意打ちだった事もあるけれど、それよりも男なのか女なのか、老人なのか幼子なのか、そのどれでもあってどれでもない様なよく分からない不思議な声に背筋がゾワゾワとしたのが大きい。
――力が欲しくば我に触れよ
「えっ、あ、はい……そういう感じ?」
そういえばこれチュートリアルだったなぁと思い出す。
もしかしなくても目の前のクリスタルが声の正体なんだろうなぁ、とか思いつつ近寄って手を伸ばす。
――そうか、汝が……
「?」
汝が、なに? 急に黙り込まれても困るんですけど。
――では汝に最初の追憶を授ける




