2.キャラメイク
「――ん、今日も疲れた……」
自室に入ると同時に通学鞄を机へと無造作に置きつつ、思いっ切り伸びをする。
人生初めての一人暮らしは色々と大変だけれど、それでも我が家に帰ってくると安心するものがあった。
「さぁて、せっかく貰ったしやってみるかな」
シリアルナンバーをVR機器に入力すれば後はDLされるのを待つだけだ。
それまでの間に暇だし着替えておこうか。
「よいしょ」
まだまだ新品同然の制服を脱ぎ、下着姿のまま丁寧にハンガーに掛けながら消臭・除菌スプレーを吹き掛ける。
軽くシャワーを浴びてゼリー飲料で食事を済ませ、部屋着用のドルフィンパンツを履いて緩めのTシャツを一枚着た頃にはDLが終わっていた。
「割と容量あった気がするけど速いな」
まぁ、コチラとしては何も不都合はないので良いけれど。
「早速ログインしてみますか――」
「――ようこそ、Role Playing Lifeの世界へ」
暗転した意識が浮上すると同時に聞こえてくる優しげな女性の声……それに振り向いてみれば池で金と銀の斧を差し出して来そうな、そんな女神様みたいな恰好をした女性が立っていた。
いや、立っているっていうか、若干浮いてる。なんなら私も少し浮いてる。フワフワしてる。ヤバい。ちょっと楽しい。
「私は貴女がゲームの世界へと降り立つ手助けをするサポートAIです。……お気軽にアイちゃんとでもお呼び下さい」
「アイちゃんね、オッケー! 私は鷹司雛実です! 気軽にヒナミって呼んでね! ヨロシク!」
釈迦のポーズをしつつクルクルと回りながら同意を示せば、アイちゃんは苦笑しながらも説明を開始してくれた。
凄い、AIだっていうのに生きた人間みたいに細かい表情の変化で感情を表現する事が出来るのは本当なんだ。
「まずは新しい自分でもあるキャラを作成して下さい。一応各項目に説明が書かれておりますが、分からないところがあれば遠慮なくどうぞ」
「りょ!」
目の前に現れた半透明のディスプレイを覗き見て、早速ポチポチと説明書を読みながら操作していく。
えっーと、まずは誕生日の入力からか……
「ん? 職業?」
今のところ『無職』となっている項目に首を傾げる。
横の▼を押したら色んな名称がズラっと出て来てちょっと面食らっちゃった。
えーと、戦士、武闘家、魔法使い、聖職者、盗賊、商人、遊び人――
「……きゃぱい」
馴染みのない単語が多すぎて頭から煙が出る。マジ無理。
しかも戦士だけでも軽戦士とか重戦士とか何かいっぱい種類ある。マジ無理。
「そもそも盗賊と遊び人は職業なのかな……?」
戦士はまぁ、軍人さんでしょ? 武闘家は道場の師範とかジムのトレーナーとも言える。
聖職者や商人は立派な仕事だし、魔法使いは……分からないけど、多分専門職だと思う。
けど盗賊と遊び人はどうなの? どっちかって言うと犯罪者と無職じゃない?
馴染みが無いからよく分からないなぁ……どうしよう。
「適当に決めようかな――あ、サイコロとかあります?」
「多面ダイスがございます」
「やったー! ありがとー!」
ゲームの世界とはいえ、何もない空間からポンと出してくれるのは有り難いなぁ。
アイちゃんには感謝しつつも、さっそく転がしてみよう。
「とう――魔法使いか」
現実にない職業だから先入観とか無いし、せっかくのファンタジーだから丁度いいかもね。
RPGと言えば剣と魔法のファンタジー世界とかだし、別に両方やれば問題ないよね?
そしたら次は初期スキル? ってやつか。
「うわー、スキルもいっぱいある……アイちゃん何かオススメとかある?」
「はい、適性スキルを必ず一つは取る事を推奨しております」
「適性スキル?」
読んで字のごとくだろうけど、一応ちゃんと説明は聞いておこうかな。
「詳しく説明します。職業にはそれぞれ適性スキルという物があり、魔法使いであるならば魔術系、学術系、杖術などがそれに含まれます。
職業レベルはこの適性スキルの合計スキルレベルが一定値に達する事で上がり、セット出来るスキルの数が増えます。
スキルレベルを上げると対応したステータスが上がって行きますが、同系統の、同じ職業の適性スキルばかり取得すると職業レベルの上がりは早くなりますが、その分ステータスが偏ってしまいます。
ステータスが偏った場合の弊害ですが、例えば筋力や魔力だけ伸びて技量や知力が疎かになっていますと、上手く武器や魔術が扱えなくなってしまう事があります。
武器や防具の中には装備するのに特定のステータスを一定以上要求する物もあります。
基本職業Lv.1の場合セットできるスキルは4つまでですが、必ず1つは適性スキルを入れておかないとそれ以外のスキルでは職業レベルは上がりません」
「ほほう、なるほど……」
一通り説明を聞いて抱いた感想は『よく出来てるな』って事だった。
ただバランスとか考えてもどれとどれを取れば良くなるのか分からないし、もうこうなったら最後まで突き抜けるか。
「全部ダイスで決めたろ」
「……」
とりあえず適性スキル? を一つは絶対に取らないといけないから、一回は適性スキル限定でダイスを振るか。
ていうか適性スキルだけでもいっぱい種類があるからどのみち迷うんだよね――
「――ううむ、見事に……」
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PN:HINAMI・L
性別:女性
種族:鬼人
職業:魔法使いLv.1(1/30)
筋力:119
耐久:104/104
知力:100
魔力:106/106
技量:103
敏捷:100
幸運:100
状態:通常
スキルスロット
◇格闘術Lv.1
◇怪力Lv.1
◇強撃Lv.1
◆魔力放出Lv.1
ユニークスキル
なし
称号
なし
運命
未定
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【鬼人】
種族効果 :属性攻撃に微補正
【魔法使い】
職業効果 :魔力攻撃に微補正
【格闘術】
会得条件 :なし
レベルアップ時:筋力+5 耐久+2 技量+1
解説 :レベルに応じて格闘技術にプラス微補正
【怪力】
会得条件 :なし
レベルアップ時:筋力+8
解説 :レベルに応じて物理攻撃にプラス微補正
【強撃】
会得条件 :なし
レベルアップ時:筋力+6 耐久+2
解説 :レベルに応じて物理攻撃にプラス微補正 スキルとして使用すると通常攻撃×スキルレベルの1.1倍のダメージを相手に与える
【魔力放出】
会得条件 :なし
レベルアップ時:魔力+6 技量+2
解説 :レベルに応じて魔力攻撃と魔力出力にプラス微補正 スキルとして使用すると通常攻撃や通常防御、移動などに魔力を上乗せ出来る
ダイスの結果とはいえ適性スキルが一つだけになっちゃったけど、それはまぁ職業レベルを上げてからまた取れば良いか。
それよりもスキルのラインナップが物の見事に脳筋スタイルなのは何故なのじゃ。
【拳術】はまぁ良いとしても、【怪力】と【強撃】はもう思っ切り殴って戦えって事じゃないの? 唯一の適性スキルである【魔力放出】も現状だと拳を強化するくらいか使い道がない。
「まぁ、皆と同じ事しても詰まらないから別にいっか」
そもそもこのゲームで一番に成りたい訳じゃないし、強くならないと困るような事も早々ないだろうし。
「クラスとスキルの選択が終わりましたらお次は見た目の設定です」
「見た目かぁ〜」
私こういうキャラクタークリエイト? 機能って苦手なんだよねぇ〜……以前にゲーセンでオリジナルキャラに色んな服を着せてファッションを楽しむゲームをやった事があるけど、どう頑張っても化け物しか作れなかったんだよね。
むしろ後輩(男子)の三郎の方がめっちゃ上手にコーディネート出来てて、周囲の後輩達から何とも言えない気遣うような目線を向けられてしまったレベルでセンスが無い。
「うーん、もう今の自分ベースで良くない? どうせバレないっしょ」
人間って髪を染めるだけで大分印象が変わるし、髪型や目の色も変えればもう分からないでしょ。
とりあえず長めのツーサイドアップにして、どうせなら現実感が無い物にした方が良いよねって事で髪の毛は薄い紫にして目の色は真っ赤にしちゃえ!
「おぉ凄い、カラコン要らずだ」
どうせならついでに耳を尖らせて八重歯にしちゃお! ……よし、最高に映えるのが出来た!
現実ではそう簡単に出来ないお洒落が出来てちょっと楽しい。
「これにてキャラクター作成は終了です」
満足のいく出来栄えに満足していると、アイちゃんが声を掛けて来た。
「基本的な情報はヘルプに載っておりますので、何か分からない事がございましたらそちらを参照ください」
「りょ!」
それでも分からなかった場合は……お兄ちゃんにでも聞けば良いか、私にこのゲームを渡した張本人だし。
「最後に一つだけ」
「お?」
今度こそもう終わりかなって思ってたのになんだろう?
「……どうか、これからの出会いの全てを大事に、また困っている人が居たら救ってあげて下さいね」
何やら神妙な顔と重い雰囲気で語るアイちゃんに面食らいながらも、確かRPGって旅立ちの時に仰々しくするのがお決まりなんだっけ? とか雑に調べた情報を頭に思い浮かべる。
まぁ、とりあえずコチラの返答を待っているアイちゃんに掛ける言葉なんて一つしかないよね――
「――よきまるざえもん!」
そう、逆さまに浮いたまま私は親指を突き立てた。




