1.ゲームとの出会い
――私、鷹司雛美はパリピギャルである。
地元を離れ、高校に入学したのを契機としてこれまでの鬱々とした自分からの脱却を目指してはっちゃけてみたのだ。
慣れないインターネットとやらを使い、頑張って『同年代の言葉遣い』で検索して出て来たサイトに載っていた言葉を片っ端から使ってみている。
ついでにそのサイトに載っていた『パリピギャルは友達が多い』との文言に惹かれ、じゃあ自分も成ってみるかと思った結果がこれだった。
「イェーイ! 今日もウチは羽ばたいてるー!」
朝の早いとも遅いとも言えない時間に自分のクラスへと到着し、扉を開けては即座に元気よく声を出す。
それだけでクラスメイト達はコチラへと顔を向けて各々挨拶を返してくれる。以前と比べれば雲泥の差だ。
「よぉ、ヒナミは今日も元気だな」
「朝から煩い」
「なにおぅ? 人生も一日も等しく短いんだぜぇ?」
この春から友人となってくれた東条春香と冬木奈々の声掛けに明るく元気に返しながら机に鞄を置く。
「それで? 二人でなに話してたの?」
向かい合って座る彼女達の間にある机にはタブレットPCが置かれ、何かサイトを開いている様だった。
パッと見た感じはゲームっぽいけど、この二人はどらちもゲームとかあんまりしないタイプだと思ったんだけどな。
「ハルカの弟がゲーム中毒を拗らせたみたい」
「言い方」
「事実じゃん」
「えっと、どういう事?」
ハルカの弟くんがゲーム中毒を拗らせたとはいったい?
「いやぁ、弟の圭吾がね? さっき電話したら『今ゲームのミーティングで忙しいから後で』とか言ってくんの……家に帰っても『俺は世界を救わなきゃいけない』とか言ってずっとゲームばかりしてて構ってくれないのにさぁ」
「で、愚痴が煩いから『そもそもどんなゲームよ』って訊ねたら――」
「そういや私も詳しくは知らなかったなって!」
「んで、ふざけなコノヤロウって事で調べてた」
「……な〜るほどね☆」
とりあえず適当にバチコーンとウィンクと指パッチンで誤魔化しておいた。
それよりもゲームかぁ……ハルカの弟くんと以前に初めて会った時はそんな印象は無かったんだけどな。
どちらかと言うと活動的で、ゲームよりも外に遊びに行く様なタイプだったはず。
何故かは知らないけど、私にひたすらリフティングを見せてくれてたくらいにはサッカーとか好きだったはずだ。
「だってぇ〜」
「そっかそっか、ハルカはゲームに弟くんを取られてぴえんヶ丘どすこい之助な訳だ」
とりあえずハルカは弟くんに構って貰えなくて寂しいと……なるほどね。
「しかしゲームかぁ……」
「ヒナミはど? やった事ある?」
「……ヒナミ、ゲームとかしたっけ?」
「うーん、あるにはるけど」
音ゲーなら結構やる。たまにゲーセンに行ってはダンスを踊ったりする。クレーンゲームもする。諸事情からちょっと前までゲーセンやスポッチャ、コンビニに入り浸っていたので全く馴染みが無い訳ではない。
逆に言えばその程度しかゲームとの関わりはないけど、まぁ友人が誘うなら別に断る程でもないかな。
「で? どんなゲームなん?」
「ブログだけど、これが一番分かりやすい」
まぁとりあえずはどんなゲームなのかと訊ねてみれば、ハルカがスマホで検索したらしい画面を私とナナへと向ける。
「Role Playing Life……?」
見慣れないタイトルに思わず声が出る。
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――それは、もう一つの人生の追体験。
そんなキャッチコピーから始まる“Role Playing Life”……通称『RPL』とプレイヤー達の間で呼ばれるそのゲームは今現在社会現象に成りかけている。
中には道路のド真ん中で自キャラのコスプレをして警察に補導された人も居るというのだから、その盛り上がり様は推して知るべしだろう。
もう一つの人生を追体験するとのキャッチコピーでサービスを開始したそのゲームは開発元どころか運営会社も、何もかもが不明でありながら今までにない革新的な技術とストーリーが受けてジワジワと口コミで人気を広げていった。
まるで本当に生きている人間の様に自然な反応を返すNPC達に、現実と変わらない法則で動く物理。
正に第二の人生をロールプレイしていると言えるそのクオリティに、メインストーリーそっちのけでプレイヤーでありながらNPCの様に振る舞う人も居ると言うのだから凄い。
そんなこのゲームのメインコンテンツは『追憶のクリスタルタワー』と呼ばれる、全部で何階層あるかも分からない巨大な塔を攻略すること。
各階層で封じられた自らの記憶を思い出し、破滅の未来を回避する……要は追憶という名目で与えられる情報を元に過去や現在に飛んでクエストをクリアしたりしなかったりというのが基本的な流れになる――
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誰かのブログらしいそれをざっと流し見する限り、どうやらRPGの類いである事分かった。タイトルにもロールプレイングってあるし当然か。
公式サイトから引用された1分30秒程度のPV動画にも現実とほぼ変わらない、しかし明らかに地球では有り得ない場所で剣とか鎧とか装備した人物が駆け回ってはなんか凄い機械へと斬りかかっている。
なんていうか、そういう設定のハリウッド映画を観ているみたいだ。
「……ふぅ〜ん」
「映像は凄かったね」
馴染みが無さすぎてそれくらいしか分からないとも言う。
「ハルカの弟くんはこのゲームにハマってる訳ね」
「そうみたい」
まぁ、パッと見で面白そうではある。
「って事でヒナミもやらん?」
「私も?」
「そそ、ウチとナナも始めるからさぁ」
「半ば無理やりね」
ハルカは必死だけど、ナナはあまり乗り気ではないっぽい。
「まぁ、別にオッケだぜ」
この手のゲームには疎いが、友達に誘われて断るほど避けている訳でもないし。
「よっしゃ! じゃあ各々チュートリアルが終わったら合流って事で! 目指すは圭吾に追い付く事だ!」
「おぉー!」
「……はぁ、遅くなっても文句は言わないでよ」
弟くんの進み具合に追い付くのが目標って訳だね、分かりやすくて良い。
「席に着け〜」
と、そんなタイミングで教室の扉が開けられ、担任の坂本先生が入って来た。
「はーい」
帰ったらどうやってはじめられるか調べてみよう。
「おい不良娘」
放課後、担任の坂本先生から頼まれた用事を片付けて誰も居ない校舎を歩いていると、背後から不躾にそんな言葉が投げ掛けられる。
言葉の内容はさておき、その聞き慣れた声にピキリながら振り向けば案の定知っている人物が視界に入る。
「お兄ちゃ〜ん? それは誰の事かな〜?」
なるべく平静に、さも怒ってないですよという体を装いながら幼馴染と言って差し支えない養護教諭の月嶋浩孝にキレ気味に問いを投げ掛ける。
私が小さい頃から祖父の付き人みたいな事をしていた謎多き人ではあるが、そのせいか歳は離れているけどそれなりに交流はあった人物だ。
せっかく地元を離れた高校を受験したのに、まさか私の過去を知るコイツが配属されていたなんて予想外だった。
「誰のこと? それは数多くの人間を歯医者送りにした伝説の『鷹姫』こと――」
「はよ用件を言えや差し歯にするぞ」
ここでは元ヤンって事は隠してるんだから、近くに誰も居ないとはいえその事に触れないでよね。
「ほらよ」
「! ……なにこれ?」
投げ渡された紙袋を思わずキャッチしたけども、いったい何が入ってるんだ――
「……これ」
「流行ってるらしいからやるよ」
「……教室覗いてた?」
「は?」
「いや、何でもない」
紙袋の中には今朝友人達と話してたゲーム――Role Playing Lifeが入っていた。
「どうして急に?」
「お前がまた孤立しない様にっていう、お兄様からの有り難い配慮だ」
「……それはドーモ」
「何で高校デビューのキャラ付けにパリピギャルとやらを選んだのかは知らんが、流行り物の一つや二つは知っておいた方がボロが出なくて良いだろ」
癪ではるけども、有り難い事に変わりはないので唇を尖らせつつも頷く。
今のところノリと勢いで何とかなってるけど、たまに話が噛み合わなかったり、話題にちょっと付いて行けてない時があるのも事実。
「……亡くなる前のおじいちゃんに私の世話でも頼まれた?」
「否定はしない」
「あっそう」
まぁ丁度いいし、今回は許してやろう。
「じゃ、私はもう帰るから」
「あぁ、気を付けて帰ろよ」
「はいはい」
本当にお兄ちゃんは世話焼きなんだから。
「なぁ」
「ん?」
背を向け歩き出そうとしたタイミングで再度声を掛けられ、首だけ回してお兄ちゃんを視界に収める。
「今幸せか?」
「何その宗教勧誘みたいな質問」
突然の質問にそう返せば露骨に目を逸らしやがる。
「で、どうなんだ?」
どうしても幸せかどうか知りたいらしいけど、急にそんな事を聞かれてもな……けど、自信を持って「幸せです」と答えられないのもまた事実。
「……どうだろうね」
視線を足下に落として、曖昧にそう返す事が精一杯だった。
「そうか、分かった」
質問して来た癖に、お兄ちゃんはそれだけ言って踵を返して去って行く。
「心配、してくれてるのかな?」
そう思う事にしておこう。




