18.PvP
「ごめん、無理」
黒ずくめファッションの男の誘いを速攻で断る。第一、こんなところで加盟したら周囲の殆どが敵に回るじゃん。
「見たところ初心者だろう? 俺に勝てるとは思えん……」
闇の焔くんは前髪を掻き上げながら呟いた。
「いや、君も周囲を見てみたら?」
ここにはPKギルドのお仲間なんて居ないよ?
「ふっ、多勢に無勢だからといって怖気付く理由にはならんな……」
額に手を添えて、薄く笑う。先ほどから芝居がかった仕草とか、小さい声とか、コチラと真面目に会話する気があるとは思えない。
「ごめん、さっきからボソボソ喋ってて聞き取りづらい」
「……ふふっ、事実を突き付けられて耳が遠くなるのは人間によく見られる現象だ」
「うーん」
何が言いたいのかさっぱり分からないぜ。
「あれでしょ、厨二病ってやつじゃないかしら」
「あー、弟の圭吾も一時変な言動してたなぁ」
「へぇ」
じゃあ中の子は中学生だったりするのだろうか。
「もしくはロールプレイなのかもね」
「ロールプレイ?」
私たちの話を聞いていたオーガスタスが別の可能性を提示する。
このゲームはNPCも普通の人間のように会話するし、身体の動きだって現実の物理法則とそう変わらない。
その為全く新しい自分という事で、何かの役を演じながら遊ぶ人達も多いらしい。
「どちらにせよコミュニケーションが難しい人だね」
まぁ、とりあえずギルド加入はNoで。
「ほう? 断るか……それが何を意味するのか分かっていような?」
「PvP? ってやつか、襲われるかの二択なんでしょ」
「そうだ、そして俺は既に魔法使いレベル4に到達しているスーパールーキーだ」
「お、私も魔法使いだよ。レベルは3だけど」
「はっ! 勝敗は既に決したな――Re:LIFE」
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†闇の焔†から宣戦布告されました
ルール
勝敗:耐久値が全損するまで
制約:なし
ドロップアイテム:あり
以上のルールで同意しますか?
Yes/No
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「ヒナミ、受けるのか?」
「え? いやぁ……受ける理由はないかな?」
「まぁ、そうね」
ここにはオーガスタスをはじめとして数多くの善良プレイヤーが待機しているし、今だって何人かが意識を向けているのが分かる。
ここで私が断って襲われたとしても、彼らが介入して来るのは目に見えている。だったらなんで闇の焔くんはこんな所で仕掛けて来たんだっていう疑問は残るけど。
「なんだ、逃げるのか? ……チキンの友はチキンだと相場は決まっている。そこの二人も俺から逃げるのであろうな」
Noを押そうとした指が止まる。
「ふふふ、今ここで俺が彼女達を無理やり襲えば……オーガスタス、お前は介入せざるを得ない」
「まさかそれが狙いかい?」
「そうだ! 俺と勝負しろオーガスタス! お前を倒して俺は幹部に――」
「――Re:LIFE」
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†闇の焔†からの挑戦を受け付けました
ルール
勝敗:耐久値が全損するまで
制約:なし
ドロップアイテム:あり
PvP開始まで後30秒
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「は?」
会話の途中で現れた画面に、闇の焔くんが呆けた顔をした。
「ちょっとヒナミ!」
「受けるのかよ」
「いいのかい?」
慌てたように友人達と先輩プレイヤーが声を掛けてくる。
「ちょっと、ね……」
私には昔から遵守している自分ルールがある。
「は、ハハハハ! 血迷ったか小娘! この闇の焔に挑もうとは!」
それは、ダチを侮辱されたら必ず報復するというもの。
相手が男だろうが、歳上だろうが、自分よりも遥かに体格が良かろうが関係がない。
相手が音を上げるまで、自分の愚かな言動を反省するまで、例えその場で敗北しようとも何度でも奇襲をする。
謝罪の一言を引き出すまでお礼参りは止まらない。
私はこの自分ルールのため、小学五年生の時に男子高校生をノイローゼにした事がある。
ゲームだとステータスという絶対的な差がある。現実の年齢や体格とは比べ物にならない力の差があるだろう。でも関係ない。
「杖を出す時間はくれてやる! その時間で自らの完全上位互換に挑んだ事を後悔――」
「――〝猛撃〟」
PvPが開始されるや即座に私は少年の顔面に拳をぶち込んだ。
「ぷぎゃっ――!?」
情けない悲鳴を上げ、闇の焔と名乗った少年は吹き飛ぶ。
血の様な赤いエフェクトを撒き散らしながら放物線を描いて落下し、そして何度もバウンドして停止した。
一応手加減として他のスキルは全く使わなかったけど、地面に蹲ったまま一向に起き上がる気配がない。
「魔法使い……?」
「完全に詐欺ね」
「ウケる」
後ろの会話が耳に入る頃、ヨロヨロと闇の焔くんが立ち上がってきた。
「お、お、お前! お前嘘吐いたな!? 魔法使いっていうのは嘘だったんだな!!??」
よく分からないが、凄い怒っているし、何やら冤罪を掛けられている。
「正真正銘、私は魔法使いだよ」
「魔法使いレベル3が拳でここまでの威力を出せるかァ!!」
「そう言われてもなぁ」
一応手加減はしたんだよ? 魔力も魔術も使ってないし、拳だって適当に大振りの一撃を放っただけだし。
「魔法使いなら魔法で勝負しろ!!」
「仕方ないなぁ」
まぁ、本人が望んでるだから本気を出しちゃっても良いよね。
「死ね! 俺の闇の炎に抱かれて――」
疾走スキルで一気に距離を詰める。
「ひっ――!」
慌てたように放たれた炎を跳躍スキルで回避する。
「歯ァ、食いしばれよ――」
構えた拳から冷気が漏れ出し、放電する。
細かな制御は出来ないが、出力だけはデカイ私が今出せる最大の一撃を食らわせてやろうじゃないか。
「ま、待っ――」
上空へと魔力を放射する事で猛スピードで落下しながら、最大出力の氷と雷の魔術を拳に纏わせる。
攻撃する直前、肘から魔力を放出して加速させながら全力で打ち抜く。
「――〝猛撃〟ッ!!」
拳骨を落とすように、その一撃は脳天をぶち抜いた。
踏み潰された空き缶のように人体がひしゃげ、勢いそのままに肉塊を押し込まれた地面が放射状に割れる。
大地の亀裂に沿って氷晶が乱造され、のたうち回る蛇のように稲光が走った。
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†闇の焔†に勝利しました
ドロップアイテム:暗闇の外套
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地面からぐちゃぐちゃになった右腕を引き抜くのと同時に、私の勝利を知らせる画面が現れた。
「……あっ、消えちゃったら謝罪させられないじゃん」
確かワールドクエスト中にプレイヤーが死んじゃうと、そのまま追憶のクリスタルタワーに戻されるんだっけ。
友達を侮辱した事を謝らせるつもりだったのに、これじゃあ意味ないじゃんか。
「ヒナミ! 大丈夫か!?」
「右腕ぶっ壊れたけど大丈夫だし、勝ったよ」
「それは大丈夫とは言わないのよ」
ナナの癒術によってジワジワと腕が治っていく。
その速度はお世辞にも早いとは言えないけど、何もしなければこのまま私も耐久値が無くなってクエスト失敗になりそうだったから助かる。
「いやぁ、驚いたね……本当に魔法使いかい?」
「魔法使いですよ」
「スキル構成がアホみたいな魔法使いよ」
オーガスタスの疑問に答えたのだけど、ナナに無慈悲な訂正をされてしまった。
「にしてもなんで急に勝負受ける気になったん?」
「二人をチキン呼ばわりしたから」
「……それだけ?」
「それだけ」
「……呆れたわね」
良いじゃん良いじゃん! 私がムカついたから殴った! それだけで良いじゃん!
「友達思いなんだね」
「はっはっはっ」
自分がムカついたから殴っただけなので、そう言われるとちょっと恥ずかしいけども。
「君たちに益々興味が湧いたよ、もしギルドに加入しなかったとしても協力関係を築ければ幸いだ」
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Augustusからフレンド申請が届きました
承認しますか?
Yes/No
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「おけまる」
これは別に特に悩む事でもないので即座にYesを選択する。
「ありがとう。それじゃあ何かあったら連絡してくれ、すぐに駆け付ける」
オーガスタスがそう言った直後、彼は仲間に呼ばれて、私たちに断りを入れてから奥の天幕へと去って行った。
「じゃあ先に進もうか」
「回復は?」
「まだインベントリに在庫があるから、それを吸収するよ」
「あぁ、あれね」
さーて、帝国ってどんな場所なのかなぁー?
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