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32話

「ってことがあったんだって」


 学校に着くなり涼香は晴翔にそのことを話してしまったのだ。


「……なあ渚。それ本当か?」


「本当だよ」


「絶対に嘘だろ」


 疑いながらも信じてくれた涼香と違い、晴翔は完全に俺が嘘をついていると確信しているらしい。


「どうしてだよ」


「渚が酒で寝てしまった隣に住んでいるお姉さんを無理やり家に戻すなんて真似をするとは思えない」


「はい?」


 本当に痛い所をつきやがるな。そうだよ。眠いなら寝かせてあげるのが俺だよ。


「渚なら起きた時にすぐ帰れる支度だけしてやって地べたで寝るだろ」


「晴翔、そうなの?」


「ああ、これだけは断言できる。渚の睡眠にかける思いは割と強いからな」


「そうなんだ。……渚?」


 どうやら俺が話した内容ではなく、晴翔の言葉の方を信じてしまったらしい。姉なら弟の言うことを信じてほしいが、正直嘘に無理があったので仕方がない。


「実はね……」


 料理のお礼という部分を掃除に変えた以外は土日の出来事も含めて真実を語った。


「ふーん、そうなんだ。随分とお楽しみだったんだね」


「いや、別にそんなことは……」


「別に否定しなくても大丈夫だよ。漫画のアシスタントに関しては私が漫画に詳しくないからよく分からないけど、志田先輩に夏目先輩との買い物が楽しいのは男の子として当然の話だし、ゆかりさんもタイプは違うけど超絶美人だもんね。楽しくないって言う方が嘘だよ」


「まあ、楽しかったよ」


 その分疲れましたけどね。


「だよね、でもまあ別に私が言うことはないよ。全員悪い人ってわけじゃないんだし」


「うん。全員良い人だよ」


 良かった。怒ってないみたいだ。


「だけど一つだけお願いがあるんだ、聞いてもらっても良い?」


「お願い事?」


「うん。その人たちと私をちゃんと会わせてくれないかな?」


「そっか。ちゃんと話したことって無いんだっけ」


 涼香はゆかりさん、志田先輩、夏目先輩の顔は知っているが、一度も話していることは見たことないな。


「うん。ゆかりさんは渚のお隣さんなだけだから私が話しかけに行くのは変だし、志田先輩と夏目先輩は学校で割と有名だから私は知っているけどあっちは私のこと知らないからね」


「そうだったね」


「渚のお姉ちゃんとしては渚と仲良くしてくれる方たちとは仲良くしておきたいからね」


「分かった。じゃあ伝えておくよ」


「あ、そうだ。その時は全員一緒に揃えてね?バラバラじゃダメだよ?」


「え?」


「ダメなの?」


「夏目先輩と志田先輩がちょっと仲悪くてね……」


 どちらかさえいなければほぼ確実に平和に終わるんだけど、両方が揃っていた場合確実に喧嘩しっぱなしになるので滅茶苦茶面倒なのだ。


「そっか。でも全員で仲良くしたいから全員集めてくれるかな?」


「……善処します」


 色々と危険な気配はするものの、お姉さんのお願いである。さきほどの忠告を聞いてもなお集めたいと言うのであれば集めるほか無いだろう。


「じゃあよろしくね!部室行ってくる!」


 涼香はそう言い残し、教室から出ていった。バドミントン部で少ししなければいけないことがあるらしい。


「なあ、晴翔。どうしてあそこで俺に合わせなかったんだよ」


「どうしてだろうな」


「晴翔はロリコンだから別に嫉妬とかじゃないだろ」


「そうだな。でも、涼香は一応大切な幼馴染だからな。悪い男に騙されないようにしてやらないといけないよな」


「悪い男?どうみても健全な高校生だろうが」


 お姉さんに徹底的に尽くす男が悪い男なわけが無いだろ。


「どこがだよ。お姉さん狂いがよ。まあ、一つ言えることは涼香に適当な嘘ついて誤魔化すのだけはやめろよ。料理以外は」


「分かってるよ。だから今回は適当な嘘をついたんだよ」


「そういうことだったのか。本当に悪かった」


 どうやら晴翔は俺が涼香に嘘をついたことの制裁が目的で俺を追いこもうとしたらしい。


「先に言っておくべきだった。まあ今回はどうにかなったし別に良いよ」


 俺が涼香に嘘をつくことを許さない癖に、何故か料理の腕前を隠している事だけは容認どころか推奨している。


 涼香が料理好きだからというのが一番それっぽい理由だが、晴翔の真意は良く分からない。そして聞いても教えてくれない。


「だな。ゆかりさんって人にちゃんと口裏合わせるのだけは忘れるなよ」


「分かってるって」


 ここでそんなヘマをするような男が弟としてここまでやって来られているわけが無いだろ。


「なら良いけど」


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