敵陣殴り込み
……シンニフォン王国から3000ベクトールほどの距離があるデスモスチルス城。
かつて悪魔の脱出不能ゲーム攻略のため最前線に築かれた城は、敵方の手に落ちて久しい。
その蔦にからまれた柱を束ねたような外観は、かろうじて王国所属時代の実戦的かつ優美な石造りの面影を残してはいたが……その実、白い悪魔・ヤマナン配下のネクロマンサー・ヘカテの本拠地となっているのだ。
やはり人ならざる者共の近寄り難い瘴気を発するのか、魂を汚染するような霞を漂わせ、一種の不可侵領域を形成していた。
――城の中庭に突如、灰色の竜巻が吹き荒れて、中心に光り輝く球塊が出現したかと思うと、眩く縮んだ。
「ぷはあああ〜っ!」
白煙が晴れて漸く、違法超過乗車したオレンジ色のフォークリフトが暗黒魔城の中庭に現れた。すると同時に羽根の形をしたアイテムが燃え尽きる。
「はい! 何とか正確にデスモスチルス城に瞬間移動できたようですよ!」
そう叫ぶ魔法使いアビシャグは、ダケヤマの座席の隣で片膝立ちのまま、光る魔法の杖を降ろした。リフトの屋根に取り付くライオンの騎士・アスカロンとハーフエルフ・のべ太は、まだ船酔いに罹ったように三半規管を麻痺させているようだ。
「う~ん、フラフラだ。激レア高額移動アイテムの『ヲネア水鳥の翼』を実際に使ったのは初めてだったが……」
「こうも、あっさり敵の本拠地に着いてしまうとは……さすがにちょっと拍子抜けだな」
屋根の二人と比べても、平衡感覚に優れるはずのバンパイア忍者カゲマルだったが、閉じた前部フォークの間に座っていたせいか、次第に気分が悪くなって近くの茂みに吐きに走った。
「おいおい、お前、凄腕の忍者なんやろ? しょっぱなから大丈夫か?」
ダケヤマの心配する声をよそに屈んだカゲマルは、奥の茂みから人影がぽつりぽつりと出現するのを見て、サッと身構えた。
「えっ? こんな化物の巣窟近くに、まだ住民が生き残っていたのか!」
農夫や商人の格好をした男達に混じって美しい姿をした乙女の姿も見える。それらは言葉を発する事もなく、ただただ微笑を浮かべたまま、フォークリフトに向かって歩み寄ってきた。
「おい、明らかに変やで……」
運転席のダケヤマが言うまでもなく、皆が緊張の度合いを高めて武器に手を掛けた。
すると、薄いスカートの踊り子のような衣装を着たそばかすの女性が、カゲマルに血色のよい首筋と胸の谷間を見せつけながら挨拶する。
「あら? 見かけない人達ね。ひょっとして旅の方?」
「……あ、ああ……まあ、そんなところです」
引き寄せられるような肉体美に魅了されたバンパイア忍者は、思わず朝っぱらから欲を満たしたくなってきた。遮光魔法を掛けられていなければ、活動を休止させている時間帯にも関わらずである。
「あちらの変わった馬車にお乗りの四人も、あなたの仲間なの?」
「そ、その通りだ。俺達みたいな、よそ者が勝手に入ってきちゃ、ダメなのかい?」
静かな異変に、いち早く気付いたアスカロンが叫ぶ。
「カゲマル! そいつから、すぐに離れろ!」




