紅の騎士のつとめ2
テラスに舞い戻り、外の空気を吸って頭を冷やしたダケヤマに対し穴金は、ぼそっと告げた。
「……改めて、ありがとう。礼を言うのが遅くなってしまったな、ダケヤマ殿」
「……はぁ? 一体何が?」
「いや、ネクロマンサーとの戦いの最中、命懸けでリフトに跨がり、俺とダイナゴンを助けに来てくれたじゃないか」
「何や、そんな事か。気にすんなて、忘れてたぐらいや。当然の事をしたまでやな」
「ふふ、そうなのか……、そうなんだろうな」
二人の間には自然と緩い時間が流れては消える。これほど落ち着いて語り合った事は、今までになかった。
「ところで、アナキンさん。ここはゲーム内の世界で、アナキンもプレイヤーとしての名前なんやろ?」
「まあ、当然そうだな」
「じゃあ、日本人かどうか知らんけど、ほんまの世界での本名は何ていうねん?」
「いやいや、普通に考えてみろ。オンラインゲーム内で、本当の名前を名乗る奴がいるかよ」
「それもそうやな。あんましゲームはやった事ないけど、プライバシーとかセキュリティー保護のためやな」
「ゲームと聞いて、一気に白けて馬鹿らしくなってきたか?」
「でも抜け出す事もできひん、シビアな第二の現実なんやろ?」
「そうだ、よく分かってるじゃないか……」
穴金は照れ臭くなったのか、あるいは満足したのか、テラスから踵を返してダケヤマの前から立ち去ろうとした。
「……古河…………!」
「えぇ? 何やて?」
「俺の現実世界での名は古河だ」
「そうか日本人の……古河さんやったんか。 でも、何で俺にそんな大切な情報をばらしたんや?」
疑問に満ちたダケヤマの声に、古河は遠い目をして答えた。
「フッ! 何でだろうな……。まあ強いて言うなれば、命の恩人に対する最大級の敬意とでも思っておいてくれ」
「…………ああ!」
「ちなみに俺のオヤジは、このクソみたいなゲーム『ディアブルーン』の運営会社、電気ブランの重役なんだぜ」
「ありがとう。そんなに俺を信用してもろて」
「言いたい事はそれだけさ。さらばだ……ダケヤマ殿」
穴金のマントが影に吸い込まれるように消えてゆく。それをテラスで無言のまま、最後まで見送っていた。
『古河さん、俺からもアンタを同じように信用してええんやな? いや、ええと言うてくれ……』
その答えは、仄暗い闇の中に消えたままだ……。




