ゾンビ軍団一過
シビアな生存競争と想像力を超えるような美学に彩られた謎めいた世界、ディアブルーン……。悪魔の戯れに創られたとされるゲーム内の世界は、科学と魔法の融合を目指した不可思議な不文律によって支配されているのだ。
ワイバーンを意匠とする旗が朝日を含んだ風にはためいている。荘厳な城のテラスからダケヤマが眺める中世のような街の様子は、灰色の溜め息を漏らすに十分なほどの惨状だ。人々の生活感が失われ、一部火の手が上がったのか、煙をくすぶり続ける地域もある。
「廃墟になったとまでは言わんが、ゾンビが通り過ぎた後は、あらゆる生き物が根こそぎ掃除された感じやな……」
背後から聞き覚えのある声が聞こえた。城内においても紅基調の礼服を着用する『赤騎士』こと穴金虎馬であった。
「ダケヤマ殿……傷はもう癒えたようだな」
「アナキンさん……」
「ようやく名前を覚えて貰えたか……」
穴金は若干の照れくささを誤魔化すように両目を伏せた後、いつもの真面目くさった口調に戻った。
「君の連れの……カヤタニ殿だが、今しがた目を覚まされたようだ。昨日の戦いの後からずっと眠り続けていたのだが……安心したまえ、どこにも怪我はしていないそうだ」
「そうか! それは良かった……!」
しかしダケヤマは穴金が一瞬、微妙な表情に変わった瞬間を見逃さなかった。
「おい! まだ何か、俺に隠してるやろ?」
「……! さすがだな、ダケヤマ殿。別に隠し立てをしている訳ではないのだが……」
そう言い終わるやいなや、ベストタイミングで女性陣が二人の前へと姿を現したのだ。
「カ、カヤタニ……」
ダイナゴンに付き添われ、カヤタニが昨晩のような緩い服装で登場した。見たところ血色も良く、どこにも不具合なさそうに歩いてくる。そう、見た目には健康そのものだ。――喜怒哀楽、推し量れぬ言いようのない表情以外は。
傍にはアビシャグもいた。いつものマント付き黒セーラー服に、とんがり帽子を被った魔法使いのスタイルだ。当然のように魔法の杖と眼鏡も装備している。
「…………!」
そして目が合うと耳まで真っ赤となり、気恥ずかしそうに視線を逸らした。
これにはダケヤマも、いたたまれなくなり、まんま中学生のように俯きかけたのだ。それでも何とか気を持ち直し、真っ直ぐな視線で三人を見据えると……カヤタニの、らしくない不安げな様子にショックを受け、掛ける言葉も出てこなかったのである。
そう、白基調のワンピースを着たダイナゴンが相方の隣にいると、まるで看護師に付き添われているようにも見えたのだった。




