ゾンビ軍団の襲来8
穴金とダイナゴンの視界は、不浄の肉体を持つ集団に覆い尽くされてゆく。瞬きすらしない半死半生の肉体には、かろうじて衣服が纏わり付いているだけで、男女の区別など生前の情報をいくつか伝えてくるに過ぎない。
ただ元兵士だった者は、死んで甦った後も戦意旺盛で、武器や防具を手放さず、まるで生者に恨みを晴らすかのごとく敵意剥き出しで襲い掛かってくるのである。
戦いの手を緩めず穴金は、ダイナゴンに問い掛けた。
「……おい! ライオンの騎士は、……何してる?」
「アスカロンも正門に釘付けとなって、動けないんじゃないかしら?」
「……多勢に無勢の状況は、あっちも変わらんって事か」
剣の一振りで扇状にゾンビが打ち倒される。……がその残骸を乗り越えて、更なる数のゾンビが迫り来る。
前進しきっていたトムヤム君が、たまらず数名の配下の兵と共に撤退の準備を始める。
「駄目だ! 全滅する前に一旦引いて態勢を立て直そう!」
兵を引かせる合図に後方でラッパを吹かせた。だが、その矢先に数名の部下がゾンビに襲われ、悲鳴を上げながら倒れる。すると、あっと言う間に不可思議な呪いが掛かり、人ならざる者として復活を遂げるのだ。
「味方が数分後には敵となって攻撃してくるとは……。誠に恐ろしき術を使ってくる。火を使うなど、対抗策を早急に考えなくては……」
トムヤム君が城門に向かう頃、穴金とダイナゴンはまだ踏みとどまっていた。
「チッ! 撤退の合図か。俺はまだやれるぞ!」
「穴金さんも、あまり無理しない方がいいのでは?」
ダイナゴンの風系魔法を乗せた斬撃もインターバルが存在する。竜巻のような風で吹き飛ばしたゾンビ軍団の間隙はすぐに塞がった。
「きゃあああ!」
盾を装備した活きのいいゾンビが腐敗臭を放ちながら突撃してくる。
「……油断するな!」
すんでの所で穴金の袈裟切りが決まり、盾のゾンビは真っ二つとなった。
「助けてくれてありがとう。でも私は、あなたに惚れたりしませんよ」
「………………」
嬉しいような悲しいような表情を見せた赤騎士、穴金はついに退路を失ってしまった。いつしかダイナゴンと背中合わせとなり、ゾンビ軍団に包囲されてしまったのである。
「囲まれたか……。俺が連続技を出している隙に城まで逃げろ」
「ここは私が奥義を披露している間に、あなたが逃げる番では?」
渦潮のように二人の周りを旋回しながら、ゾンビは徐々に包囲網を狭めてくる。その濁った目はギラギラとしており、歯の隙間には泡を吹き、変色した肌からは絶え間なく涎のように膿を垂れ流し続けている。
「コイツらの仲間になるのだけは、イヤですね」
「…………そうだな」
円卓の騎士の男女が絶体絶命の淵に追い詰められた瞬間、城門前にある堀の上に揚げられていた重い吊り橋が急に落ちてきた。
「何だぁ!?」
下敷きになりかけたトムヤム君は仰天し、動揺を隠せず狼狽えまくったのだ。




