ゾンビ軍団の襲来
息の詰まるような不穏に満ちた空気が流れ――。
数滴の墨が清水を濁らせるように、人々の心は闇に覆われてゆく――。
シンニフォン王国の危機、もっと大局的に見れば、ディアブルーンにおける人類側最期の砦の運命は、風前の灯ともいえる様相を呈していた。
すぐ傍にまで異形の集団が押し寄せて来ており、絵のように風光明媚だった大地は赤黒く染まりつつあるのだ。
かつて人だったと思われる異臭を放つ存在は、じわじわと確実に豊かな国土を蝕んでいる。
屍肉の嵐……、物言わぬ軍隊蟻のような集団……、人の心を失った無数のゾンビが、謎の統率力を保って王国の領地を蹂躙している事実に、誰も穏やかでいられるはずもない。
城の見張りが、血の気が失せた表情で紫服の家臣団に飛び込んでくると、状況の報告を始めた。
「何という事だ! これ程の規模の敵集団が、突如として現れただと!? 辺境にある出城の警備兵は、今まで昼寝でもしていたというのか?」
「狼煙を揚げる暇もなく、一瞬のうちに全滅との事です」
「信じられん。しばらく何もなかったので、油断の隙を突いてきたという訳か。ネクロマンサーめ! 急襲を仕掛けてくるとは、小賢しいわ。円卓の騎士団を中心に至急、反撃の命令を伝えよ!」
その頃、騎士団長の無頼庵は円卓の席に着いていた。
「……元はと言えば、この円卓は、各々の騎士達に順列を付けぬように配慮されたもの。つまりここに座る七名の騎士達は、すべて同じ地位と名誉を持っている。長年の経験と体裁上から、この私無頼庵が取り纏めを行っているが、戦となれば誰もが代わって指揮を執れる。もし私が化物との戦いの中で倒れることがあれば、思う存分に自らの持てる力を発揮されよ」
すでに戦いの装備を整えた青騎士ルンバ・ラルとトムヤム君は両脇で頷き、3時と9時に位置する赤騎士穴金とダイナゴンは、思わず表情を硬くした。真正面に座るアスカロンと隣ののべ太は、武者震いをして滾る血を抑えているようだ。
「相手はゾンビだけに思考能力がない。本能的に生きた人間の匂いを頼りに襲い掛かってくるだけだ。孤立さえしなければ、効率的に敵方の流れを止める事もできる」
団長の経験談にアスカロンは答えた。
「だが疲れ知らずの感情もない敵に、大群で波状攻撃を仕掛けられたら、どのような騎士でもいつまで保つか分からない。そこで……」
無口なはずの穴金が、アスカロンの言葉を遮る事もなく続けた。
「無能なゾンビどもは、ネクロマンサーに踊らされているだけだ。ただの凶暴な操り人形にすぎない。つまり……」
いつになく真面目なダイナゴンが更に続ける。
「ゾンビ軍団のどこかに潜んでいるネクロマンサー・ヘカテを探しだし、とどめを刺せば、一気に殲滅する事もできるって訳ね!」




