王国の危機2
「おい、あっちゃん! 一体何の騒ぎや? 何が起こったねん?」
たまらずダケヤマは、アビシャグに詰め寄る。カヤタニは「よさんか」と言うだけで、魔法少女に突っかかって行くのを制止するのが精一杯のようだ。
はるか山の方から確かに、心地よい風が吹いたような気がした。
アビシャグは、ひょいと帽子のつばを上げると、魔法の杖を地に突いた。そしてダイナゴンが見せたような、諦観にも似た笑顔をコンビに捧げるのだ。
「カヤタニさん、ありがとう。もちろんダケヤマさんも。……さあ、城内へと案内します。元の世界へと戻す儀式の準備がすでに、できあがっておりますので……」
「ちゃうがな! 俺は今、この世界で何が起こってんのか訊いてるんや!」
「そうそう、私ら、それが知りたいねん。さすがに気になるやろ?」
スカンピンの二人からの真剣な問いかけに、しばし眼を閉じたままのアビシャグは、意を決して話し始めた。
「……ネクロマンサーのヘカテ率いる大軍勢が、王国のすぐ傍にまで迫ってきています」
ダケヤマは、ほぼ始めて聞く言葉に、本番のしゃべくり中のように首を傾げた。
「ね、ネクロマンサーって何やねん? それにヘカテって誰やねん?」
「ネクロマンサーとは、分かりやすく言うとゾンビやスケルトンなどの死体を自在に操る黒魔法使いです」
「ゾンビ!? ゾンビってあの映画とかに出てくる……」
「ヘカテは最近になって現れた強力な術者で、ゾンビ化した兵隊の大群を使い、近隣にあった人間の王国を次々と滅ぼしてきたのです」
ダケヤマもカヤタニも、俄に信じ難い話をアビシャグから聞かされ、ただただ顔を見合わせて黙るしかなかった。
「いずれにせよ、こちらの世界での話です。あなた方には関係のない事でしょう。さあ、今のうちなら混乱もなく帰還できると思いますよ。城まで案内しますから、私に付いてきて下さいね」
そこまで言うと、アビシャグはマントを翻し、ゆっくりと城内までの小路を歩き始めた。見た目の幼さとは裏腹に、感情には左右されない、しっかり者の態度だ。
「……何でやねん……」
「えっ?」
「何でやねんって言うてるんや」
魔法使いの少女は、ダケヤマの放つ怒りにも似た言葉の真意が伝わらず、カヤタニの表情を伺った。彼女は彼女で、元に戻れる嬉しさや別れの悲しさとは別な感情……、複雑な気持ちが、心の中から、ふつふつと湧き起こっているように思えたのだ。
「あっちゃん、私らそんな事、聞いてしもうたら素直に帰られへんやん」
ダケヤマは体を強張らせていたが、ブツブツと譫言のように何かを繰り返していた。青ざめた顔の口元からは、こう聞こえてくる。
「ゾンビの軍団が攻めてくるやと? そしたら、……そしたら、あの広場の皆は一体どうなるねん? ダフニーちゃんは? ようさんおった子供達は? いや、俺達のコントを笑ってくれた街の人達は……!」




