マルシェにて4
様子を伺っていた子供達は、ダケヤマの呼びかけを耳にすると、我先に店の前に群がって果物を掴み、美味そうにかぶりついたのだ。
「おいおい、まだ食いモンはようさんあるから、ケンカせず仲良く分けて……」
強面である店の主人の一喝により、行儀良く並ぶようにはなったが、降って湧いた出血サービスにパニック状態は収まりそうにない。しまいには老人を含む大人達までもが店先に並び、店の商品はあっと言う間に底を着いた。
幸いにも奪い合いや争いは起こらなかったが、城の衛兵が出動する一歩手前の事態だったようだ。
「ふう、一時はどうなる事かと思ったが……」
「何とか落ち着いたね」
シビアな世界を垣間見た二人は、額を拭いながらほっと胸を撫で下ろした。
そしてコンビは、ちょっとした衝撃を受けたのだ。
「こ、これは……」
今になって、ようやく気が付いた。
刹那的な幸運といえど、打ちひしがれたような暗い顔した人々に笑顔が戻った事を。
若干の物足りなさを覚えたようだが、絶望の中で肩を落とした面々に生気が甦った。
一過性の出来事とはいえ、確かに広場の人達は、明るい表情になったのだ。
「おい、カヤタニ……」
「何やねん?」
「おまえ、今でも覚えてるか? コンビ結成した頃の誓いを……」
「ああ、まだ覚えてるで」
「暗くて夢のない世の中を、お笑いの力で元気にする!」
「何や知らんが、世間にイヤな事が立て続けに起こった時期やったな~。まあ、私らも青かったし、色々と怖いモン知らずやったかなぁ……と」
「アホ~! 我らスカンピンのモットーは、全く色褪せておらぬわ! 何て言うんや? 1ミリの狂いもないわ!」
「ちょっと違うような気がせんでもないが、まあええわ」
「俺が一体、何を言いたいか、分かってるんやろな~!?」
カヤタニは、目をつぶり宙を見上げ首を振った。
「ホンマ、信じられへんわ~」
市場のざわめきのトーンが低くなる頃、広場のど真ん中にちょっとしたステージが完成した。
先ほど丸ごと買った店の主人が、店舗の一部を利用して急拵えしてくれたのだ。
「ありがとうな、八百屋のオッサン!」
「いやあ、金貨一枚でまだまだ事足りるぜ」
最初に興味を示してくれたのは、あの少女ダフニー。スカンピンの異世界デビューにおける、一番客になってくれそうだ。すすけた顔に勿体ないような、澄みきった蒼い瞳を輝かせている。
髪を整えるダケヤマは、精一杯のキメ顔で言った。
「ダフニーちゃん、ちょっと待っててな。もうすぐ始めるから」
「こちらのキモい兄さんの名前はダケヤマ。私はカヤタニっていうんやで」
「そっか~、このキモいお兄さんはダケヤマっていうのか~」
「コラ~! カヤタニ! そこはイケてる兄さんって事にしといて。確かにキモいけど」




