マルシェにて3
カヤタニが相方の背中をつついて、かぶりを振った。
「もうええやんか、ダケヤマ。話半分に聞いとけ。あまりこの世界に深入りすんなって事や」
「でもなぁ~……」
ダケヤマは、がぜん異世界の現状に興味が湧いたようだ。そんな相方の危なげな性根に、カヤタニは思わず眉をひそめた。
「おい、八百屋のオッサン、そんで〜、この国は今どうなってんねん?」
「どうって、見た通りだな。化物に国を滅ぼされた周辺の難民どもが、藁をも掴む思いでシンニフォン王国に押し寄せてるのさ。まあ、言ってみりゃ人間側の最後の砦だな。もっとも、そんな奴らを受け入れて食わしていけるほど、この国も余裕があるって訳じゃあねえんだが」
ダケヤマは心打たれたのか、真剣な眼差しとなり、改めて広場の周辺を見廻した。
一見、広場にあるマルシェには商品が山積みされて豊かに見えるが、明らかに行き場を失ったみすぼらしい人々が所々にひしめき合っている。比較的良い身なりをしているのは自国民なのだろう。
格差の少ない平和ボケした日本で育ったダケヤマは、突き付けられた厳しい状況に、何だか申し訳ない気持ちで一杯となった。それはカヤタニにとっても同じ事であった。
店の前に主人が何度追い払っても戻ってくる子供がいる。小学校低学年くらいのボロを着た男の子は、髪が短かくダブダブのズボンを穿かされていたが、よく見ると整った顔つきをした女の子であった。たぶん兄のお下がりを着させられているのだろう。
彼女は薄汚れた服の袖で鼻の下を拭きながら、仔犬のような目でダケヤマを見てくる。この世界においては見かけないタイプの人種に、興味津々なのかもしれない。
「よう、お嬢ちゃん。お名前は?」
「……ダフニー」
「ふーん、ダフニーちゃんか。ええ名前やな」
屈みながらダフニー視線で会話するダケヤマの背中に、ずっしりと重い物がのし掛かった。
さっきカヤタニと購入した籠に詰めこまれた果物だ。
「ダケヤマ、今考えてる事、当てたろか?」
「何やねん、幼女誘拐とちゃうで」
二人は口角を上げて二カッと笑った。
「八百屋のオッサン! この店の商品全部買うたるわ」
「おおうっ?! 今日は何て日だ! 毎度ありィィィ!」
ダフニーの両手一杯に洋梨やリンゴの果物を渡すと、店前の騒ぎに気が付いた子供達が遠巻きに集まってきた。
「おい、ビビらんでもええで。お前らも来いや。腹減ってる奴には、俺らがおごったるで」




