ダケヤマの夢
――いつの間にか騎士としての自覚が芽生え、振る舞いも板に付いてきたものだな。
俺は遺品だという青色のプラスチック製ヘルメットを、暫し眺めながらそう思った。
異世界には存在するはずのない唯一無二の材質。
傷だらけの安全帽は誇らしげだが、無論何も語りかけてはくれない。
日本が誇る安っぽい工業製品も、このディアブルーンと称される幻想的な異世界では妙に悪目立ちしていると思う。
首から下は他の騎士達と同じように、中世のような銀白色に輝く鎧を装備しているのだから。
もっとも、俺の場合は胸当てと肩当て、両肘・膝と必要最低限の防御しか施してはいない。プレートアーマーで完全防御すると弓矢を通さないのはいいが、重すぎてフォークリフトの操縦に支障をきたしてしまうからだ……。
いつしか夕闇が支配する時間となってしまった。
レバーにあるスイッチを操作しライトを点灯。すると我々城外の防衛騎兵隊の前に、あの世まで続いていそうな薄気味悪い石畳が、延々と薄暗い森まで伸びているのが見えた。
「ちょっとダケヤマさん! 敵がもうすぐそこまで迫ってきているのに、ボーッとしてちゃダメでしょう!」
俺が乗っているオレンジ色のフォークリフトの傍らで、パートナーの魔法使い……アビシャグが檄を飛ばしてきた。
彼女はシュナミティズムと呼ばれる回復系魔法の使い手で、とんがり帽子のメガネ美少女。なぜか師匠譲りの紺色セーラー服を着用している。
「ありがとう、あっちゃん。今まで戦ってこれたのは、君のおかげかもしれへんなぁ」
「……何を、らしくない事、言ってるのですか。戦いは、まだまだこれからも続くんですよ!」
「だから今のうちに伝えてるんや。言える時に言っとかないとな」
「ダケヤマさん――……」
彼女が心配そうに杖を抱えた瞬間、靄がかかったような仄暗い森から異形の者達が姿を現わし始めた。
古代の防具と具足に身を包んだ虚ろな兵士の躰には肉が付いていない。磨かれたような綺麗な白骨だ。
どういう原理で動いているのか、おそらく俺には理解不能である。髑髏に穿った両眼窩の奥からは、冷たい眼光が鬼火のように揺らめいて見えた。
そしてカタカタと鳴る関節と、錆びた槍や剣がかち合う異様な行進音は、辛うじて秘めている戦意とやらを徐々に刮ぎ落としてゆく。
戦う前から死んでいる。こいつら、死者そのものの姿をした軍団にどう立ち向かってゆけというのか。
こんな状況においても、微塵も狼狽える素振りを見せない頼り甲斐のある魔法少女が嘯いた。
「これはネクロマンサー・ヘカテの仕業ね。今度こそ見つけ出して捻り潰してやるわ」
俺はリフトのステアリング近くにあるキーシリンダーを捻ると、エンジンを目覚めさせ、豪快に回転数を上げたのだ。
「おお~!!」
馬上にあるフル装備の騎士達は、その轟音に覇気を再び奮い立たせたようだ。
「行きますか、あっちゃん」
「おっ! いいですね、その余裕綽々の態度。私は好きです」
「当たり前やん! 生きて元の世界に戻るんや」
「もうあちらでは葬式も済んで、とっくに忘れ去られているかもしれませんよ」
「それを確かめるまでは、このまま死なれへんで!」
俺の相棒、トヨタGENEOに血潮のごとくオイルが駆け巡る。
油圧がみるみる上がると、フォークの先端を黒金色に鈍く光輝かせたのだ!
その時、不思議な事にどこからかカヤタニの声が聞こえてくるのを感じた。
「ダケヤマ〜、もし死んだら罰としてコンビ解散やからな~……」




