第119話 第四王女の予感
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第119話 第四王女の予感
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▽▽▽ Side エリス・クルディア ▽▽▽
わたくしの第三軍団は、順調に進んでいる。予定より少し遅れているけど、そこまで深刻な遅れではない。
そもそもわたくしは王になどなりたくないのです。しかし、外祖父(母の父)がわたくしを王にしたいと、気を張っています。外祖父の顔を見ると、王になりたくないとは言えなかったのです。
空を見上げると、補給物資を運んできた竜騎士隊が離れていきます。
わたくしもあのように自由に空を飛びたいものですが、立場が許しません。
この戦争が終わったら、次期国王も決まります。どういう結果になろうと遺恨が残らないようにしたいものです。
「エリス殿下。補給の受け入れが完了しました。本隊を前進させたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
わたくしは神輿です。実質的にこの第三軍団を指揮しているのは、叔父のダンケン・アルガ・バラライヤ伯爵です。
外祖父から家督を譲られ、三十歳と若いながらもこの第三軍団の指揮を執っています。
「叔父様にお任せします」
「はっ!」
叔父様は足早に立ち去られ、全軍に命令を下しています。
あと五日もすれば、目標の都市ジュブレーユに至ります。
わたくしが王になれるかを占う意味で、ジュブレーユ確保は大事な局面です。叔父様も張り切っております。
進軍してしばらくすると、先遣隊が敵と遭遇し戦闘に至ったと報告を受けました。敵を撃退したと聞いた叔父様は、意気軒昂です。
さらに進み、ジュブレーユが見えてきました。ただ、先遣隊が到着した時には、敵軍の姿はなかったそうです。
多くの住民を残して、カトリアス軍は退却したと言うのです。わたくしとしては戦いがなくホッとしているところです。
「なんと情けないことだ。これが今のカトリアスか!?」
叔父様は戦わずして後退した敵軍を厳しく批判しています。
このジュブレーユは、都市全体が防壁に囲まれています。さらに、中心部にある城も高い城壁で守られています。敵がここで徹底抗戦していたら、第三軍団はかなり苦戦していたことでしょう。
それだけに、何か違和感のようなものを感じます。
「エリス殿下。ジュブレーユ内に敵の影はありません。また、特にしかけもないようです。軍を入れてよろしいでしょうか?」
「叔父様。何か嫌な感じがします。しばらく入城は待ってみませんか?」
「敵は複数の方面で侵攻を受けております。そのため、ここに割く戦力がなかったのでしょう。それに、町中はしっかり確認しております。それほど心配することではありません」
「……分かりました。入城しましょう。ですが、町の人々に乱暴なことはしないように徹底させてください」
「承知しました」
わたくしたちは、悠然と町中に入っていきます。
町中では痩せ細った人たちが家々の窓から、こちらを覗き見ています。新しい統治者がやってきて、これからどうなるのかと不安なのでしょう。
わたくしたちは解放軍なのです。ですから、こういった民を慰撫しなければなりません。
城内に入り、すぐに軍議を開きます。
「バラライヤ伯。民は飢えているように見受けました。物資を放出し、わたくしたちが敵ではないと安心させてあげてください」
人前で叔父様とは言えません。
「しかし、物資を放出したら、次の補給までここから動けなくなります」
「わたくしたちは解放軍なのです。カトリアスの圧政から民を解放するのですから、民を大事にしなくてどうしますか」
「……分かりました。物資を放出いたします。また、総司令部に補給を急ぐように急使を送ります」
「よろしくお願いいたします」
皆が下がると、わたくしは叔父様に声をかけます。
「この城はとても嫌な感じがします。町の外で野営をしたいと思います」
「何を仰いますか。都市を解放された殿下が、町の外で野営などしたら示しがつきません。それに、警護の問題もありますので、どうかお聞き届けください」
「ですが、この城は嫌なのです」
なぜかとても胸騒ぎがします。
「……では、町中の屋敷ではいかがでしょうか? そちらならまだ警護もしやすいと存じます」
「分かりました。では、屋敷の手配をお願いします」
「承知しました」
この胸のざわつきは、なんの根拠もないものです。我が儘だと分かっているのですが、どうしても嫌な感じがするのです。




