36.武闘会準決勝に出てみよう
「準々決勝第四試合! パスティール教会騎士団、ンーコガル・ファル! 勇者、ヒュウガ・アスカ!」
「ン」だよ、「ンーコガル」だってよ!
さすが異世界! ンで始まる名前なんて初めて聞いたわ。
今までモブの名前なんてどうでもよかったけどお前名前だけで俺に最大のインパクト与えてくれたわ。連想しちゃうのはウ〇コだけどな。
会場微妙。すげえ微妙。
普通にざわざわしてるだけで別に歓声も怒声も上がらない。
だってパスティール教会の騎士とパスティール教会の勇者だもん。
出来レースに決まってるもんな。
パスティールの騎士、これまで他教会のやつを少しでも痛めつけて勇者様有利にするか、当て馬として敗れるかぐらいの役しかねえよ。損な役割だなンーコ。
あ、ちなみに片手剣と盾の勇者装備です。
「両者中央で握手!」
態度悪いぞ三郎。ンーコ手握って頭下げてるじゃねえか。
なにふんぞり返って見下してんだ。
両者離れて剣を抜く。
勇者三郎は……例の日本刀モドキですな。
あの分厚くて幅広の反りがある片刃剣な。
ってあれ俺に斬りかかってきたやつそのまんまじゃね? 刃引きじゃねえぞ?
あ、一応返して峰打ちにするのね。
汚ねえそれ汚ねえ好きな時に刃を返して斬れるじゃねえか。
その可能性だけで相手ビビっちまうよ。
なにか無茶言って押し通したのか教会がなにか企んだのかしらんけど卑怯だなあ三郎……。
「始め!」
三郎斬りかかる、騎士盾で防ぐ。
どおんっ! 騎士盾ごと吹っ飛ぶ。
騎士慌てて起き上がって立ち上がるも、またしても吹っ飛ばされる。
パスティール教会関係者からの声援がすごくなってきた。
「いかがですかカーリン先生」
「身体強化と攻撃速度上昇の魔法じゃの。武器強化で剣も折れないようになっておる。アホでもわかるわ」
「魔法は禁止でしたよねカーリン先生」
「審判はアホなのでわからないフリしておるの。まあ勇者じゃからの」
三郎余裕こいて中央に戻る。
騎士戻って構えなおすも、三回目のどおんっ!
「勇者を勝たせるための大会なのだから当然ってわけ? なんでもかんでも『さすがは勇者様』で通っちゃうか」
「つまり勇者に勝つには、審判がグウの音も出ぬぐらいわかりやすい勝ち方で勇者に自分で負けを認めさせなければならぬということよの。マサユキできるかの?」
「んーまあなんとか」
「ほれそろそろ降参かの」
四回目のどおんっ!が決まって、騎士起き上がれません。
「勝者、勇者アスカ!」
……客席微妙。すげえ微妙。拍手もまばら。
パスティール教会のやつらは大喜びだけど国王も執事のヒルダーも半目です。
バレてるかな? どうかな? どっちでもいいか。
それにしても三郎、お前の戦い方って結局魔法でゴリ押しじゃん……。
しばらくの休憩の後、準決勝だ。
カーリンはあのイケメン騎士と、俺は三郎と闘うことになる。
どうやって勝てばいいかな……。いやストーリー的に盛り上がるのはこれか、ここで教会の不正もいっしょに暴いてだな……いやこの展開は後に取っておきたいな、ただ勝つっていってもな、もうちょっとこう、いやそれも面倒だな……。
俺の理系とは別のファンタジー脳がフル回転でシナリオ作成中だ。
うーんだんだん面倒くさくなってきた。
「何を悩んでおるんじゃ」
「いやカッコいい勝ち方をいろいろと」
「おぬしのう……小細工せずに普通に勝て。そのほうが面倒が無くてよいわ」
そうでした。これは人類の希望勇者三郎VS魔族率いる魔王様の物語でしたね。俺はモブでしたね。せいぜい要所要所で暗躍する謎の仮面の男が俺の役回りでしたっけね。
今更だけど俺この世界で主人公だったこと一度も無いよね。忘れてたわ。
「だったら俺負けて、カーリンが勇者倒して優勝でいいんじゃね?」
「国王の名誉を賜るのは優勝と、準優勝だけじゃ。おぬしにも勝ってもらわねば話にならぬの」
「そういう計画でしたね。はい」
「準決勝第一試合! パスティール教会騎士団、ハーマン・カイロン! ハンターギルド、サトウ・カーリン!」
うおおおおおおっ!!!! 大声援すげえ!
さっきの試合見せられてるからな。観客期待盛り上がっちゃうわな。
女性客がイケメン騎士、男性客がカーリン派に分かれちまってるような……。
「両者中央で握手!」
すたすたと二人が歩み寄ると、イケメン騎士、カーリンの手を取って跪いて、手の甲にキスしやがった。
きゃああああああ――――っと女性客から悲鳴が上がる。イケメンはやることもイケメンですかそうですか。
……カーリン無表情です。
「先ほどのあなたの試合、拝見させていただきました。予選でカルスンを一撃で葬ったという話、信じておりませんでしたが、あり得たかもしれませんね」
「……」
「モーガン教会を破った私と、ツェルト教会を破ったハンターのあなた。あなたを倒せば私が文句なく最強として勇者に挑戦することができます。お礼を申し上げます」
「……」
「見ればあなたも私と同じ、華麗な動きで敵を翻弄するスピード重視のタイプのようだ。よい勝負ができることを期待していますよ」
「……」
「勇者への挑戦権は渡せません。申し訳ありませんが手加減はしませんよ!」
そう言って下がる。
……うん、死亡フラグの辞書ができそうだ。
いつもなら見事な煽り返しを見せる魔王カーリン様が終始無言です。
悪い予感しかしないんですけど。
「始め!」
うおおおおおおおおお!!!! 大声援!
二刀流で飛び込んできたイケメンをカーリンが無造作に素手でぶん殴った。
イケメン、一直線に吹っ飛んで場外の壁に激突。
終了。
総合評価が100ptになりました!ありがとうございます。
沢山ある小説の中から、みなさんどうやってこの小説を見つけているのでしょうね?
ランキングも圏外なのに、不思議です。
次回、いよいよ勇者VS悪魔仮面




