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34.武闘会予選に出てみよう


 昨夜もタップリ実験して、闘技場に向かう。


 ……魔王カーリン様がなんか若返ってきているような気がします。

 もうアラサーに見えないよ。お肌ぴちぴち髪もツヤツヤ。

 もしかして俺なんか吸われてる?


 さて今日から予選開始だ。


「なんで勇者に宣戦布告する必要があったのじゃ?」

「あーそれはさ、俺本名そのままでハンター登録してるだろ? 出場者の名簿に俺の国の名前があったら三郎、すぐ俺が『悪魔仮面』って気づいて騒ぎになると思ってな。だから前もって闘う約束しとけば、あいつも黙ってるだろ」

「なるほどのう。わし勇者と闘ってみたかったんじゃが、まあおぬしが約束しとるというならゆずるかの」

「まあどう当たるかは対戦表見ないとわからないけどな」


 闘技場は予選を見に来た客で半分ぐらいの客の入りだ。

 明日の本選では満員になるだろう。

 詰め所に集まったのは40人ぐらい?

 騎士風、ハンター風、いろいろだ。モブなので詳しくは解説しない。


「こちらにトーナメント表があります」係員が説明する。

 でかいトーナメント表だ。え? 100人以上の表になってるぞ? 

「各自、自由に出場枠に名前を書き込んでください。ではどうぞ」


 これは面白いな。つまり自分の対戦相手を選べるというわけだ。

「勇者」枠はすでに書き込まれている。

 予選で勇者と当たりたいやつもいないか。三郎来てもいないし。


 誰でも名のある強いやつと最初から当たりたくないので、強者と対戦する枠は空く。そうすると強い奴はある程度トーナメントが進んでから出場することになる。自動的にシードされるわけだ。

 弱い奴は固まってしまって決勝まで勝ち抜かなければならない数が増えるというわけだな。公平だか不公平だかよくわからん。


「俺は勇者と闘ってみたくてここに来たんだ!」

 そう言ってでかい全身鎧が勇者と決勝で戦うルートに名前を書き込む。鎧にモーガン教会の紋章がある。

「私もです」

 こちらはパスティール教会の紋章のイケメン騎士だ。これも勇者と反対側、決勝で戦うルートに並ぶ。

「どちらが勇者を倒すか勝負だな!」

「準決勝で会おう!」

 でかい全身鎧とイケメン騎士が笑顔でがしっと固く握手する。


 そんな中、空気が読めないカーリンがとことこと前に進んで、「じゃ、わしはここにするかの」と言ってでかい鎧男の隣に名前を書き込む。初戦が鎧男、勝ち進めば準決勝がイケメン騎士のルートだ。


 全員、ポカーンとする。


 じゃあ俺はここかな。三郎とは準決勝で戦えばいいし、決勝はカーリンと分け合うか。俺も前に進んで、勇者と離れた場所に名前を書く。

 奴も教会もどんな手使ってくるかわからないので俺が先に三郎と闘おう。俺が万一負けたり教会の不正で失格にされたりしても次はカーリンがいる。


 それをきっかけに、急にみんな集まってきて先を争うように名前を書く。


 本選に進出できるのは8人だ。

 予選で勇者と闘いたい奴はいないのか三郎には予選の対戦相手が無く、本選進出決まり。イケメン騎士も予選無しだ。

 鎧男は予選でカーリンと闘う。他に対戦相手はいないので勝ったほうが本選に進む。俺の書いた左右にはずらりと記名があり、俺は3回勝たないと本選に進めない。うん、多分俺が弱そうなので弱い奴が集まっちゃったんだな。

 誰でも一回戦ぐらいは勝ちたいもんな。強そうなやつと当たりたくないよな。

 鎧の大男は「なんで俺が予選など……」と不満気で、イケメン騎士のほうは「はっはっは、じゃ俺は先に帰るとするか」とか言ってる。余裕だな。

 この二人は元々仲がいいのだろう。

お前らパスティール教会とモーガン教会の騎士だろ。ま、宗派なんて関係なく騎士になりたかっただけなのかもしれないな。

 俺はもうなんかいろんなやつに睨まれて居心地悪い。

「では決勝進出は勇者様含めて2名、残りは6名になるまで、予選を行います。順序は数の多いグループから始めます」


 闘技場の中央に約30m角の四角いリングがある。ルールは戦闘不能になるか負けを認めるまでだ。

 リングから落ちたら中央から再開だ。魔法使ったら失格。

 武器は刃をつぶした刃引き剣か打撃武器。武器に魔法がかかってないかチェックされる。けっこうユルユルだね。

 俺の十手もカーリンの如意棒(にょいぼう)も問題なくそのまま使っていい。

 予選最初のほうなんでお客もダラダラだ。


 先にリングに上って待ってると、ガラが悪い態度が悪い目つきが悪いと三拍子の若いハンターが登ってきた。きっと頭も悪いのだろう。

「両者中央で握手」

 俺の手を握って若いハンターがガンつけてきます。

「ようおっさんよぅ」

 口も悪いな。コンプリートだね。

「わかってんのか? ハンターってのはな、城でぬくぬくしてる騎士とは違うんだよ。魔物や魔獣と闘うのがハンターってやつだ。ここは騎士連中なんかよりハンターのほうがつええってとこを見せる場なんだよ!」

 初耳です。

 手を放して距離を置く。

「始め!」


「それをおっさんみたいのが今更ノコノコ出てくんじゃねえよ! 本物のハンターってのを教えてやるよ!」

 両手剣を振りかぶって……がきんっぐるっ……からららん……。

 闘技場ざわざわ……。

 十手でねじり取った剣がリングを転がっていった。

 若い兄ちゃん、空になった手を見てあんぐり……。

 俺は十手をだらりと下げたまま待つ。


「は、ハンターってのはな! 騎士じゃねえんだ! 相手は魔物なんだ! 剣を落としたぐらいで負けを認めたりしねぇんだよ!」

 そう叫んで剣を拾い、斬りかかってくる。

 十手で受けて腕を取りねじり下げる。

 ガキッぐにょっ……からららん……。

 また落とした。

 若い奴はうろたえながら剣を拾う。汗ダラダラっすね。

 うおおおおおっっっと観客席が盛り上がる。

 

 なりふり構わず今度は身を低くして俺の足を斬りにくる。それを十手で受け、剣をリングに押し付け蹴とばす。

 かんっからからから……。

 剣がリングの外に落ちる。


 兄ちゃん、リングの外に降りて剣を拾いに行く。

 闘技場はすでに大ブーイングだ。

 ぶう――――。ぶう――――。ぶう――――――――。


「てめえ! なんで攻撃しない!」

「俺、実戦経験あんまり無いんで練習台になってもらおうと思って」

「ふざけやがって!!」

 ひゅんっひゅんっがきっ かららららんん……ぼとっ。

 今度も剣をリングの外まで転がしてみた。

 大ブーイングの中立ち尽くす若い兄ちゃん。顔面蒼白だ。

 俺は、中央で十手をだらりと下げて待つ。


 兄ちゃんリング降りて剣拾って、そのまま帰っちゃいました。

「勝者、ハンター・サトウ!」


 審判が宣言して会場がうおおおお! と盛り上がる。

 一度も攻撃しないで勝っちゃったな。

 あとで、「あれはなかろう……恥をかかすな」とカーリンに怒られた。

 だって初戦だし、練習したかったし、キレやすい若者って苦手だし。


 俺の後に3組の試合があり、二人目。

 今度はベテラン風ハンターだ。握手する時、「妙な武器を使うな」と言ってにやりと笑う。

「だが槍が相手ではどうかな?」

「開始!」

 フェイント気味に突き出してきた槍をいきなり手で掴んで引っ張るとベテランさんそのまま素っ転んだ。

 槍をリング上に放り投げる。

 しーん……うわああああおおおおおおおっうううううう。

 闘技場大歓声。

「……すまんがもう一度やっていいか?」

「どうぞ」

 ベテランハンターさん槍を拾いに行く。これは恥ずかしいがまだ予選なので許容範囲か。

 頭の上でビュンビュンビュンと回してから横なぎ!

 十手を持つ右とは反対の左からくる。これを前に進んで左手で受け止め、十手をベテランさんの腕と槍の柄の間に差し込んでひねり下げる。

 片手が離れたところで今度は槍そのものをベテランさんの体に押し当てて腕をひねり下げる要領でリングに組み伏せる。

 意地でも槍を手放さないのは槍使いの本能だろうが、そのために槍と十手の両方を使った関節技が決まった形だ。

 ここまでつきあってくれたので痛くないようにはしているが、ベテランさんまったく身動きできずに「……まいった」と言ってくれた。



 三人目。

 筋肉もりもりの大男。こいつもハンターか。俺の組はハンターばっかりだな。

 握手する時ギリギリと締め上げてきやがったんで握り返してやるとあわてて手を振りほどく。ヘタレだの。

 片手剣に盾ですな。

 十手の相手に「盾」ってのはさすがに想定されていないのだが、必然的に片手剣だ。盾は敵からの攻撃を防ぐための物なので攻撃には参加してこない。虎男さん以外は。

 突いてくる片手剣に十手をガキッとからめとりそのまま腕を取って一本背負いで投げる。

 柔道というやつはこの世界の人間は知らないだろうな。

 日本だと体育の授業でやるのだが、知らない相手は何されたかもわからんだろう。

 大男なのでドカーンと派手に背中からリングに叩きつけられる。


 離れると大男がふらふらになりながら立ち上がる。

 会場はざわざわしてる。「投げ技」という観念がなさそうな世界なので全員が初めて見る技だろう。


 今度は突っ込んでくる。俺は刃物を持ってないので大丈夫だと思ったのだろう。

 防御を盾に任せ相手に接近し剣で斬るのがまあ盾と剣の王道だろう。

 だが盾を前に構えると今度は俺の足が見えないぞ。


 身を伏せてからの足払いで大男が簡単にコケる。

 剣と盾ってのは相手も剣と盾でないと試合にならないな……。

 突きもダメ、盾のタックルもダメ。さあどうする?


 今度は剣を振りかぶって打ちおろしてきたので、いきなり剣を叩き折る。

 筋肉男は「こ……、これは練習用の刃引き剣だ! ちゃんとした剣ならこんなに簡単に折れたりしない!」と審判にアピールする。

 審判は首を振って認めない。そりゃそうだ練習用の剣ってのは普通刃がついてない分厚みもあってハガネも柔らかく本物の剣より折れにくいからな。ブーイング凄いです。

 筋肉男必死に叫んでますけどもうブーイングで何も聞こえません。

 剣の目利きも武闘家のたしなみの一つ。折れるようなもの持ってくるほうが悪い。

「ハンター・サトウ、予選通過!」

 大ブーイングの中最悪の終わり方だけど、まあやったぜカーリン。次はお前だ。


 俺以外の予選グループの試合も終わり、本日の最後の試合。


 全身鎧の男が兜をかぶってリングに上がる。ぶっとい槍をグルグル回してピタッと止めると大歓声が上がる。モーガン教会の聖騎士らしい。有名人で人気者なんだろうな。本来予選に出てくるような人じゃない。


 で、カーリンが如意棒(にょいぼう)持って上がってくる。

 鎧とカーリンは他に対戦者はいないので今日はこの一戦だけだ。

 歓声が収まり、ざわざわざわ……と静かになる。

 全身鎧の大男に対して、別に防具とかで固めたわけでもなく単にアウトドア系の格好をした髪の長い普通っぽいねーちゃんが棒だけ持って現れたら、そりゃあ観客驚くわな……。


「両者中央で握手」

 審判に勧められ二人がリングの中央で手を取る。

「女、一つ聞く」

「なにかの?」

「なぜ対戦相手に俺を選んだ?」

 機嫌悪いです全身鎧さん。本当ならすぐ帰れたはずだったのにカーリンが初戦で指名したようなもんなのでここまでずっと待ってたんだから。


「理由は二つあるのう」

「聞こう」

「まずそんな鎧着こんでいる奴は弱いヘタレに決まっておる」

「そうではない。これは……」

「あるいは防御は鎧に任せて、攻撃にすべてをかけるタイプかの」

「……その通りだ」

「もう一つの理由も知りたいかの?」

「言ってみろ」


 カーリンはすたすたと距離を取り全身鎧に振り返る。

「全身鎧というのは弱点が多くての、案外簡単に倒せるからじゃ」

「弱点など無い。それが鎧だ」

「では勝負といこうかの」

 そういって無造作に如意棒を構える。

 煽る煽る。さすが魔王カーリン様です。

「……かなり使えると思ってよいのだな? 本気でかかっていいのだな?」


「始め!」

 鎧男が槍を頭上でぶんぶんぶんぶんぶんっと回してカーリンに突き出した。

 ひゅっどがごっ!!!!!

 物凄い音がして全身鎧の動きが止まる。一瞬止まった後動き出して「ふぉっふっふっ!」っと槍が襲ってくるのをカーリンがかわすかわす。

 なんだかカーリンが鉄人28号と闘ってるみたいに見えるわ。

 一見逃げ回ってるように見えたカーリンだが、いきなり声も上げずに鎧がバッタリ倒れた。

 ざわざわざわ……。闘技場が静まり返る。


「審判、早く鎧を脱がすのじゃ」

 あわてて係員が数人リングに駆け上り全身鎧をひっくり返す。

 胸から腹にかけて鎧がべっこりとへこんでいる。

 ……如意棒使わずに直接殴りましたね?


「そんなもんへこまされただけで息ができなくなって窒息してしまうのう」


 いやそんな勝ち方できるのあなただけですから。


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[気になる点] >ガラが悪い態度が悪い目つきが悪いと三拍子の若いハンターが登ってきた いや、ハンターは1級限定なのに、なんでそんなDQNが出てくるんだよw 1級限定てことは、ハンターに0級なんてのは…
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