33.勇者を挑発しよう
各話に(改)が付いてますが、ルビの振り方を覚えたので、一部古い読み方をさせるものにルビを改めて振らせていただいています。内容に変更はありません。
夜、王都上空に到着した。
王都が見えたところでドラミちゃんと別れ、ここまで自力で飛んできたのだ。
いくら夜でも酒場とかは開いていて人通りもあるからな。ドラミちゃんが上空を飛んだら大騒ぎだ。
「カーリン、俺はちょっと三郎に用事がある。先に宿取っておいてくれ」
「いつもの宿でいいのかの?」
「ああ、すぐ戻る」
三郎、この街の一番いい宿のベランダで黄昏ております。
もうなにもかもイヤになったような不貞腐れぶりですな。
ハーレム解散しちゃったもんねーやることないよねー。
俺は例のマスクを取り出して顔を隠し、街路を挟んで反対側の宿屋の屋根に立つ。
「よう三郎、久しぶり」
「おっ……お前は!!!」
一度奥に引っ込んで、
……。
……。
……。
……待たすなよ三郎そこはすぐ斬りかかってくるのが様式美だろ。
鎧着て剣引っこ抜いてこっちに一気にジャンプしてくる。
おうさすがだな勇者闘い慣れてはいるようだな。
「現れたな『悪魔仮面』!」
振りかぶっての一閃をかわす。両手剣か。日本刀ぽく片刃で反りがある。特注ですかね。ファンタジー世界で日本刀って中二病設定のお約束ですな。
この世界の技術で日本刀作ってもすぐ折れるせいか分厚くて幅広のかなりみっともない日本刀モドキの刀になってるな。
「『悪魔仮面』ってなんだよお前が名付け親かよ!」
屋根の上で立て続けの斬撃をかわしてかわしてかわしまくる。
「ポーリーだ!」
後ろにジャンプして距離を取る。
「ポーリーって誰だよ僧侶の子か? 白いパンツと谷間がまぶしいあの子か」
「うるせ――――っ!」
びゅっ。うおう飛ぶ斬撃来た! 連続で来る!
一応実験で十手で受けてみる。がきんっ! がきん! がきんっ!
あ、防げるぞこれ。空気を固めて飛ばす感じか。
かまいたちみたいな真空刃だったら十手すりぬけるだろうから危なかった。
「お前『次会ったとき殺さないでやる』って言ってたじゃねーか!」
「あれは嘘だっ!」
すがすがしいまでのクズっぷりですな。
「勇者たる我の熱き心を糧にして敵を焼き払う弾劾の炎となれっ!」
火の玉出た! この世界の基本ですね!
「ファイアボール!」
無詠唱じゃないのかよっ! 詠唱しないと出せない魔法なんて実戦で使えないぞ? あぶねっ避けたら宿に当たる!
俺はとっさに【ウォール】を出して上空にファイアボールを跳ね上げる。
そこに三郎が飛び込んできて突いてくる。うん連続技もなかなかだ。
勇者なのは伊達じゃねえな。
ごきんっ、どこんっどすんっ。
必殺の三段突きですね沖田総司ですかね。
全部【ウォール】を貫通できません。
「くそっなんなんだよその壁! それさえなきゃお前なんか……」
俺の壁の手ごわさはいやというほど経験しているでしょうからな。
「魔法が無けりゃいいのか?」
「……」
攻撃の手が止まり、壁を挟んで向かい合う。
「俺は武闘会に出る。そこなら魔法無しで闘えるだろ? そこで勝負を付けよう」
「……」
「……」
「……」
……頭悪いな三郎。そこは即答するとこだろ。
「俺が勝ったら、お前もう日本に帰れ……」
「帰れるのか? 日本に!」
三郎が驚愕する。
「帰る方法知らんのか?」
こっちがびっくりだよ。
「魔王の亡骸を生贄にして送り返すと教会が言っていた。だから俺は魔王を倒さなきゃならないんだ!」
ホントかねそれ、後でエルテスに聞いてみよう。
「女神様に聞いといてやるよ」
「なっなんでお前が女神様を知ってるんだ!?」
「……俺を召喚したのは誰でしょうね?」
「ホントか、ホントだな!」
もうこの世界にほとほと嫌気がさしてるんですねわかります。
「よし、じゃあ武闘会でお前が勝ったら帰る方法を教えてやる。もし俺が勝ったら、お前は日本に帰れ。それでいいか?」
「……わかった。受けてやる」
どっちにしても日本行きじゃねーか。こんな好条件受けるのになにドヤ顔してんだよホント頭悪いな三郎。
「また会おう勇者、武闘会でな!」
そう言って俺は【フライト】で高度をどんどん上げていく。
「おうっ、逃げんなよ悪魔仮面!」
そのまま俺は三郎が見えなくなるまで上昇した。
三郎、お前飛べなかったんだな……。
(三郎くん、『フッ面白くなってきやがった』とか言ってましたよ……)
こっそり街はずれに降りた俺は、エルテスと通信しながら宿屋街に向かって歩いている。
「エルテス、人は誰もみな、『一生に一度は言ってみたいセリフのリスト』というやつを心に持っているのだよ」
(なんですかそれ……)
「質問があるんだが」
(はい)
「三郎どうやったら帰れんの?」
(死んだら帰れますよ)
「えええ――――!!」
なにそれ驚愕の事実だわ。びっくりだわ。ホントかよそれ!
「えーと日本のどの時点に帰れるの?」
(三郎くんが召喚されて2~3秒後の世界にですかね)
「三郎成長しちゃってんじゃないの?」
(それも元に戻ります)
「じゃなに? 三郎召喚されている間日本ずーっと止まってるの? 三郎一人のために?」
(そうじゃなくてその時間に戻されるだけですね)
「はあー……びっくりだわその事実」
(つまりですね、『召喚する』ってのはゴムを引っ張るみたいに魂と体をこっちに引っ張ってきてるわけで、手を離すと元に戻っちゃうってイメージですね)
これ三郎に言って納得できるかなあ。死んでみないとわかんないし、だからって「死んでみろ」って言ってあいつ死んだりするかなあ……。
「じゃあ教会が言う、魔王の体を生贄にとかって全部ウソ?」
(ウソです)
ミもフタもねえ……。
「俺は違うんだろ?」
(佐藤さんは死んで私が転生させましたので、普通にここで老衰で死んでもらいます)
「なんで老衰限定なの」
(LV999の人が老衰以外で死にますかねえ)
「……うん、いろいろ突っ込みたいけどそれはもういい。どっちみちもう死んでたんだからあきらめるよ。でもそれだとツェルトとかの前の勇者も死んで元の世界に戻ってるってことだよな」
(そうですよ。こっちの世界で馬に蹄鉄打つの広めたのがツェルトさんですからなにか鍛治関係の仕事してた人だと思いますね。帰ってすぐ仕事再開したと思いますよ)
「そうか、カーリンに教えてやれば喜ぶかもな。カーリンあいつ殺しちゃったの今でも後悔してるから」
(秘密にしておくのも、一つのロマンかと)
「……そうだなあ。『いままでのわしの後悔はなんだったんじゃ』とか言って怒るかも。っていうかそれ教えたら今後は魔王は勇者全力で殺しに来る未来しか浮かばんな。勇者殺すのになんの遠慮もいらなくなるからな」
ふーん……、俺はこの世界で死ぬわけか……。
「なあエルテス」
(はい)
「俺とカーリンの間に子供できるの?」
(それはわかりませんねー、前例が無いですもん。魔族って種族すごく多いし異種族間ではできたりできなかったりバラバラです。魔族が人間ほど増えない理由の一つです)
「そうか」
うん、実験だな。俺は理系だからな。これは今後も実験を続ける必要があるな。




