32.武闘会に申し込みに行こう
(で、ヒュウガ殿にはぜひ、武闘会で並みいる強者をかるくひねっていただいて、ぜひ御威光を確たるものにしていただきたいと教会の使者が)
「なるほどなー。それ国王の判断?」
(そうです。『国王陛下のたっての願い』と言ってたけど、実際は勇者が国で一番強いなら文句はなかろうと丸投げした感じですね)
「国王雑」
(教会の争いなど勝手にやれ、勇者が一番強ければ本物でおっけー、弱ければ偽物勇者でもういいんじゃない? と思ってるんだろうなーと)
「はっはっはっはっは! いいね国王なんか好きになってきたわ」
(三郎くんはもう不貞腐れちゃって『そんなもの出たくない』とか言ってるんですけど、『私たちが全面的にバックアップしますから』とか教会の使者言ってたから気を付けたほうがいいですよ。あの調子だとズルとか平気でやってくる連中だと思いますから)
「国王はそういうズルとか許すタイプ? 嫌いなタイプ? どうでもいいタイプ?」
(一応国王ですからね、あからさまな不正があれば見逃さないでしょうね)
「うんまあそれなら少しはいいかな。了解、また通信するわ」
日課のエルテス通信を終えて、俺とカーリンは王都ハンターギルドにやってきた。
ここも大きな石造りの立派な建物だ。
入って一目で一流の装備品に身を固めたハンターたちがいるのがわかる。
ガラが悪い奴がいないのだ。さすがは王都お膝元、ハンターギルド本部だ。
「武闘会の受付はどちらでしょうか」
「はい、私がやっております。ヒルダーと申します。以後お見知りおきを」
品のある執事風紳士だ。俺たちみたいな一見武器も持ってない平民風の人間にも動ぜず対応するのはさすがである。
「私どもも武闘会に出場しようと思うのですが、不慣れなものでいろいろ説明いただければありがたいのですが」
「よろしいですよ。なんでもどうぞ」にっこり笑って対応してくれる。
できるぞこの男。
「まずなぜこの武闘会が開かれることになったのかについてなんですが」
意外な質問のようで、ちょっと驚かれた。
「そうですね、まずこの都市には古くから闘技場がございます。ここで数年に一度不定期に武闘会が行われているのです。全国から強者どもが集まる一種のお祭りですね。賞金が付き、勝ち上がった者は騎士など仕官への道が開けますので人気の催し物です。ですが、今回は勇者の資質に疑問ありとの教会の対決などがありまして、パスティール教会に勇者の正統性を示したければ力を示せ、との国王陛下の裁断が下ったのです」
「なるほど」
「なので今回は特別に、勇者、王国騎士、教会騎士など通常武闘会になど参加しない者たちもこぞって参加せよということになりました」
ふーん、なるほど。雑だね国王。でも国民にもわかりやすいよ。
治世にはこの「わかりやすい」というのが何より大事。わかってるね国王。
「つまり王国騎士や、他教会の抱える騎士も勇者に大いに不満を持っており、その騎士たちに公の場で勇者に挑戦させる機会を与えてやろうというわけですね」
「そこはご想像にお任せいたします」
そう言ってにっこり笑う。
「あわよくば勇者をぶっ飛ばして、偽物勇者と言ってやりたいのであろうの」
「そこもご想像にお任せいたします」
そう言ってにこにこ笑う。
「だが確かにこれなら多くの臣民の目の前で、誰もが認めざるを得ぬ決着がつくというものよの。騒ぎも収まり一件落着じゃ。パスティール教会も勇者が勝てば今までの不始末の文句を全部抑え込めるいい手に見えるからの」
「勇者にしてみりゃ公開処刑に等しいがな……」
「そう、ある意味裁判じゃ。裁判官は国王で陪審員はその臣民じゃの。パスティール教会はこれを断れぬ。特定の教会や勇者に肩入れしておらぬある意味公平な裁き。国王はなかなか面白い男のようじゃの」
カーリンがヒルダーと向かい合ってどストレートな質問をする。
それを受けてヒルダーは笑顔のまま軽く頷く。
……おう、なんか一瞬だがすげえやり取りが行われたような気がする。
「騎士だけでなくハンターも参加できるわけですよね」
「市井の者にも実力者はございます。国民分け隔てなく最強の者を決めよとの陛下のご意向にございます」
「国民全員をぶっ飛ばせるぐらい強くなければ勇者は名乗れぬであろうの」
「その通りでございます。ただ、ハンターも数が多いし、冷やかしや売名も多くなりますのでランクは1級に限らせていただいております」
「じゃあ問題なさそうですね。二人とも出場登録していただけますか」
「カードを拝見させていただきます」
「どうぞ」
「……」
けっこう念入りに調べてるぞ。偽物とかあるのかな……1級だしな。
結果論だが1級になっておいてよかったわ。
「確かに本物でございます。驚きました。王都にいる1級ハンターなら私が知らないはずないのですが、お二方は昇級されてから日が浅いのでは?」
「そうですね」
「この刻印はタリナス支部ギルドマスター、ジョーウェル様のご推薦ですね」
「あいつの推薦だったのか……。騙されたな」
「ほっほっほっ、食えない男でございますからな。魔族領最前線のタリナスでギルドマスターを任されている男です」
「言われてみればそれもそうか。わかりましたよ」
ヒルダーがカードを書き写して、返す。
「お二方が第一号の申込者でございます。お早いお越しに驚いております。勇者が出るというだけでしり込みする者もいるでしょうし、誰が出るのか、騎士からもよく知られている者がでるのかと様子見をし、ギリギリまで登録を見送る者も多いと思っておりました」
「まあただの腕試しなんで」
「他にご質問はございますか?」
そうそう、大事なことを聞いておかないとな。
「ご褒美なんですけど、国王の名誉を賜るということですが?」
「はい」
「具体的に言うとどういう……?」
「つまり賞金や、賞品ではなく、陛下の名誉を賜るということです。簡単に言うと国王陛下に頼みごとをしても良いということになります」
「それはなんでもいいんですか?」
「陛下にできることなら何でもよいのです。陛下にできないことであれば陛下は断ることができます。つまり、あなた方ご自身にとって陛下にしていただければ名誉であると思うことならお願いできます。無理なことをお願いし陛下に断られるとあなた方にとって大変不名誉なこととなりますので、その内容はよくお考えなさいませ」
「ずいぶんとまあ王に都合の良い褒美じゃの」
魔王カーリンからすればケチ臭い話になるのだろうな。
「そうじゃない、これはただ褒美をやるのではなくテストなんだ。褒美を受け取る者の資質を見ているのさ。欲深き者、傲慢な者、俗物な者は陛下の前で恥をかく。名誉を得たければ陛下の歓心を買えと」
「御主人は、よくわかっておられますな」
つまり難問奇問珍問をぶつけて受験者を困らせて面白がる圧迫面接ですな。
「魔法禁止とのことですが、魔法を使ったかどうかはどのように判定します?」
「基本は審判の判定です」
「判定に不正が行われる可能性は?」
「……なんとも」
初めて難しい顔になったな。
魔法が使えるやつは魔法使いになったほうが稼げるので剣も魔法も使えるやつは少ない。両方使えるのは勇者クラスだ。勇者が魔法をこっそり使っても流される可能性は高い。まあそれぐらい撥ね退けて文句ない勝ち方をしろということになるか。
「試合は陛下もご覧になる?」
「本選には闘技場に足を運ばれます」
「陛下はあからさまな不正は見逃されたりしない方でしょうか」
「当然」
「最後に一つ」
「どうぞ」
「あなたハンターギルドの人間じゃないですね?」
ほっほっほっと面白そうに笑う。
「国王付筆頭執事ウォシュラル・ヒルダーと申します。ご夫婦で参加される新米1級ハンター、一週間後を楽しみにしていますよ」
やっぱり食えねえやこのクソジジイ。
「よろしくお願いいたしますっ」
「うむ、よろしくなのじゃっ」
宿の中庭で、カーリンに稽古をつけてもらう。
俺実戦経験皆無だからな。ここまでせっかく買った十手の出番一度も無いし。
カーリンは例の如意棒だ。
「手加減無しじゃっ」
「こいっ」
がつっ!
「いてて」
……カーリンが半目になる。
「もう一度じゃ」
「こいっ」
どこっ!
「いてて」
「……おぬしふざけておるのかの?」
「いえ……」
「まるっきりド素人のそれではないかのっ!」
「はい、実はそうです」
「なんじゃそれは!!」
バレました。ついにバレました。そう俺格闘なんてやったことないしまるっきり素人なんだよね。おっしゃる通りです。
レベルは高いですよLV999ですからね。力も敏捷も攻撃力も防御もカウンターストップするほど高いですのでたいていのやつはゴリ押しできます。
でも魔王カーリンほどの使い手が相手だとボロが出ます。しょうがないね。
「おぬしはわしより強いのじゃ。それは間違いない。怒って本気で暴れようとするわしを何度も簡単に抑えてきたからの。ふざけてじゃれ合っていたのではないぞ。わしはあんなぐずる赤子のように手込めにされたのは初めてじゃ」
「はい……」
「魔法もとんでもない威力じゃ。わしもドラミちゃんもあのように山を崩すなど思いもよらぬわ」
「めっそうもございません……」
「だがおぬしの技はまったく成っておらぬ。力と速さに頼り切っておるだけじゃ。武闘会ではそれではいかぬ。たとえ倒れず立っていようと、誰もが勝ったと認める一撃を相手に入れねば勝ったことにはならんのじゃ!」
「おっしゃる通りです……」
「ようそれで武闘会に出る気になったの! 特訓じゃああああ――――!!」
カーリン様激怒です怖いですもうすぐに王都を出て突っ走り暗くなってからドラゴンのドラミちゃんを呼び付け、ドラミちゃんの魔力飛行に俺の【フライト】を全力で二重掛けして大至急魔王城まで戻ります。
徹夜で飛び壁をぶっ壊して通常の3倍ぐらいの速度で翌日の早朝にようやく魔王城の前に着陸しました。ドラミちゃんもヘトヘトです。ばたんと倒れてぐうぐう眠り出しました。
「魔王様!」
「魔王様お戻りになりましたか!」
「よくぞご無事で!」
「出迎えはよいっ! 四天王を集めよ! 大至急じゃ!」
もう全員集められてなにごとかと騒ぎになってる。
「これから毎日一人ずつマサユキの相手をし武術を教えよ! ぶっ倒れるまでやるのじゃぞ! マサユキが勝ったら代ってよい。わしは皆の者に指示がある。後はまかせたの!」
とんでもないことになりました。
「まずは俺だ」
最初はわんこですかバルトーとかいいましたね狼男偵察部隊のリーダーです。
両手剣です。うおうガキガキきますすごい太刀筋です。
「お前俺より弱かったんだな!」ワンコあきれております申し訳ありません。
必死に十手で受け、払い、抑え込もうとしては失敗し、刃引き剣で殴られます。
「どんだけ丈夫なんだよお前、殴っても殴っても殴った気がしねえよなんなんだよお前!」
HPと防御力は高いんです。数字だけは。
夜になる頃には、バルトーの剣を十手の鉤でもぎ取って、放り投げることが十中八九できるようになりました。
「強くなるの早すぎお前……」
二人でゼイゼイいいながらぶっ倒れます。
次の日はリザードウーマンのチリティさんです。片手にナイフです。
めちゃめちゃ攻撃速いです体術も使ってきます特にしっぽが予測不可能です。
何十回も転ばされては首にナイフに見立てた鉄棒を押し付けられます。
投げられたり転ばされたりしなくなるまで半日、腕を十手でからめとって鉄棒をひねり落せるようになるまで半日かかりました。
「なんなんですかあなた……。もうダメです私……」
とうとうチリティさんのほうがダウンしました。
三日目は虎男さんです。
剣と盾です。これも定番ですね。勇者装備です。
盾めちゃめちゃやっかいです。まったく攻撃当たりません。
もう面倒なんで剣折りました。十手で峰叩いてボキッとね。
剣折っても盾で殴られます。応用力がすごいです。
十二本目の剣を折って十手流の捕縛術で虎を抑え込めるようになったところで夜になりました。
「なんだか知らんけど汚ねえよその武器……」
そう言って二人で同時に倒れます。
四日目は全身鎧のホロウさんです。
ハルバートですね超長柄の斧ですね2m以上の身長からくるリーチが凄いですそれ当たったらさすがに俺でも死にそうです。
十手でどうにかできる相手じゃないので体術勝負です。チリティさんのやりかた真似して転ばせます。
転ばせても壊しても何度でも復活します。中身やっぱり空でしたね幽霊ですか。
とにかく勝てないんでハルバートを白刃取りで受け止めて(やってみたらできた)蹴り倒します。もう十手関係ないです。
ホロウさんがバラバラになって動かなくなるまでやりました。明日には復活するそうなんで安心です。自慢の鎧をデコボコにしてしまってすいません。
最後は魔王カーリン様です。
テルテルボーズとガイコツはあれで魔法使いらしいんで出番なしです。
もう面倒なんでカーリン様が打ちおろしてきた如意棒掴んでブン投げます。
……カーリン様ごと見えなくなっちゃったけど飛んで戻ってきました。
「合格じゃ!」
四天王の皆さん、ありがとうございました!!!
PV1万!
ユニークが2000を超えました!
たくさんの小説の中から、これを選んでくれてありがとうございます!




