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30.王都の休日を楽しもう


「マサユキは疲れておるのじゃ。いろいろ考えすぎてかえって馬鹿になっておるの。ここは一休みして気分転換でもするのがよいのじゃっ!」

「カーリンも少しはなにか考えてくれよ……」

「わしにマサユキよりいい考えが浮かぶわけが無いわ。期待するでない」


 ……開き直るなよ脳筋魔王……。


 そうしてカーリンはずんずん先頭切って街を歩いていく。

 もう王都には三日もいたのだからすっかり慣れたものだ。

「ほれ、芝居小屋じゃ! これでも観て元気をだすのじゃ!!」

 こんなすごい劇場を小屋とか言うな。

 それで元気が出るのはあんたでしょうに。


「『王都の休日』か」

「……そのまんまじゃの。王都で休日に芝居を観るのに『王都の休日』を観てなんとする」

「そのツッコミ今までで一番秀逸」

「まあいいの。つまんなそうじゃがさっさと観るのじゃ」


 友好親善のために各国を歴訪中のお姫様が、退屈な公式行事の毎日に飽き飽きしてちょっとした冒険心で逃げ出したが、そこで出会った下級兵士の若者とお互い身分もわからぬまま、一日中王都の街をデートするはめになるという例のアレな王道ストーリーだ。ミュージカルじゃないので歌も踊りも無いのだが、カーリンは……


 ……没頭してる。

 ……真剣すぎるわ。


 下級兵士は途中で彼女がお姫様と気づくのだが、あえてなにも言わず、お姫様のワガママに一日中付き合ってやる。お姫様は生まれて初めて、本当の自由を満喫し……、世間知らずな姫とそれを必死にフォローする兵士がひき起こす大騒動に観客もゲラゲラ大笑いだ。

 やがて二人に淡い恋心が芽生えるのだが、楽しかった時間は終わり、別れが訪れる。


 ……カーリンの涙が止まらない。

 カーリンは魔王の娘で、本物のお姫様だったからな……。

 ……うん、邪魔しないで黙って観ていよう。


 そして、出国前の国王との会見の場で、姫は警備の衛兵の中にあの若者を見つけるのだ。全てを悟ったお姫様だが、二人にはそれぞれ立場がある。

 姫はずらりと並んで身動きもせず立つ衛兵たちの前を歩んで退出してゆく。

 その時、居並ぶ兵の一人の前で立ち止まり、深々とお辞儀をして、そして振り返らずに出て行った。


 幕が下り満場の拍手、カーテンコールの間も、カーリンはその場を立てず放心状態だ。観客がみんな出ていってがらんとした劇場でカーリンをつつく。

「カーリン……、カーリン?」

「はうぅ……」

 ダメだこりゃ。


「魔王様、お時間です。ご退出ください」


 カーリンはふわふわと街を歩き、勝手に宿に戻ってそのまんま寝てしまった。


「わたくしはここでお別れいたします……なにも言わないで、なにも聞かないでくださいませ……」


 キャラまで変わっちゃったよ――――っ!

 ってかそれさっきの劇のセリフ――――!!


 と、いうわけで俺は久々の単独行動となるのであった。

 やることはまず女神通信だ。

「三郎どうしてる?」

(いくら探してもダンジョンが見つからないので同行してた教会の随行兵に八つ当たりしてました)

「心が狭いのう……」

(これはおかしいと、で、さすがにダンジョンが地滑りを起こして潰れてしまっているということはわかったみたいで、これ以上調べてもしょうがないということで今帰還中です。明日にでも王都に戻るんじゃないですかね)

「そうかあ思ったより早かったな」

(随行兵が早馬飛ばして先に帰還してますから、教会とかにはもう連絡行ってるはずですよ?)

「教会がどう出るかだな。ダンジョン攻略にも失敗した三郎をどう扱うか……。うーん難しいな」


 エルテスがはあーとため息つく。

(私佐藤さんにはもうちょっと違う展開を期待してたんですけどねー)

「どんなだ?」

(例えば、佐藤さんの手助けで魔王と勇者が手を組んで和平を実現するとか……)

「今更キャラ的にありえないわ」

(お忍びで市街にいる王子様と魔王様が偶然会って、お互い身分を隠したまま恋に落ちて……)

「ラノベ展開封印して」

(佐藤さんがチートで大活躍して反対勢力をかたっぱしから叩き潰すとか)

「ネット小説も参考にしないで。これ現実だから」

(佐藤さんそういう小説書いてたじゃないですか?)

「アレは俺の妄想なの。チートなの、ご都合展開なの。現実とは違うの」

(チートならあげたじゃないですか)

「やかましいわ」


 なにしろ戦争を止め和平を結ぶ大義名分があるからな。俺もカーリンもその有り余るチート能力を使えないという制約がでかい。一度戦闘が始まってしまえばそれは簡単に魔族対人間に拡大してしまう。それでは今までの努力が水の泡だ。

 さてどうしたものか。


「ファンタジー的解決か……」

(佐藤さんならどんなストーリーにします?)

「各教会の魔法陣こっそり書き換えてカエルしか召喚できないようにしてやるとか?」

(なんの問題解決にもなってません!)

「パスティールとモーガンの勇者像も教会もぜーんぶ崩壊させてやるとか?」

(ツェルト教会の仕業にされて全員火あぶりになっちゃいます)

「魔族のお店を開いておいしい料理を市民にふるまって好感度を上げる」

(すぐに異端指定されてお店がつぶされます)

「王都にサキュバスの店を作って男性客を呼び込む」

(R18指定にすると書籍化もアニメ化も絶望ですよ?)

「魔族と人間両方にとって脅威となる新たな敵が……」

(誰がその敵やるんですか佐藤さんがやるんですか?)

「王様と魔王が会談する場を設けて話し合う機会を作るとか」

(それいいんですけど事前の外交交渉をどうやってやるんですか?)

「王様の寝室にこっそり忍び込んで……」

(そういうのはヒロイン相手にやってください)

「三郎暗殺」

(一番ダメです。全部魔族のせいにされて人間の魔族への敵対心が取り返しのつかないことになります)

「三郎事故死」

(勇者が事故で死ぬなんてみんな信じませんよ)

「三郎病死」

(だから三郎さんが死んでもなにも解決しないじゃないですか。新しい勇者が召喚されるだけです)

「ほらな、なにやってもダメじゃないか」

(……)

 エルテスと一緒にため息をつく。


「なんかこう平和的に、三郎も教会の権威もどん底に落ちて、王様も市民もこれだったら教会潰してでも魔族と和平したほうがマシだと思えるようなイベントでもあればなあ……」

(なんか考えてること最低ですね佐藤さん……)



「号外! 号外――――!」

 公園の芝生に寝転がりながらエルテスと話していた俺は突然の声に起き上がった。


 パスティール教会の旗を立てた騎馬が市民たちに紙を振りまきながら走り抜ける。市民たちが争うように紙を奪い合う。

 紙って貴重なんじゃなかったっけ? と思って俺もそれを拾うとわら半紙? みたいなパサパサの紙っぽいやつに木版で印刷された安っぽいチラシだった。


「……やられたな……」

 そうかこの手があったか。教会汚ねえ。最悪だあいつら。

 やっぱり三郎暗殺するか。


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