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22.ワイバーンを退治しよう2


 もちろんやりましたよ。

 やるに決まってるでしょそりゃあもうタップリと遠慮なく。俺もカーリンもおとなですから。

 俺はそこらの鈍感童貞主人公と違うからな。風俗大好きなオッサンですから。

 もう上に下にアンコールとカーテンコールにも応えちゃうよ。

 100年以上乙女だった魔王様に俺からの心のこもったおもてなしです。


 今朝はカーリン起きられなくてまだ寝てるわ。

 とろんとしちゃって、「人間がわしらの五倍いる理由がわかったわ……」とか言ってふにゃふにゃしとる。

 やかましいわ。


(フラグ回収早すぎますっ!)

 エルテスもやかましいわ。

 朝食前に宿の前の通りを散歩しながら女神紋でひさしぶりに通信する。


「魔族と人間の相互理解の促進です。それにしてもお前俺の盗聴してないよな」

(佐藤さんが一人でそんな高級宿泊まるわけないじゃないですか。ぼっちの佐藤さんが立ててるフラグって魔王様しかいないでしょ)

 それもそうか。でもホントは俺のこと全部モニターしてるよね間違いなく。


(魔王人間領に連れてくるってなに考えてるというかやることが斜め上というか……。まさかそんなことになってるとは予測できませんでしたよ。こんな展開想像つきますかって!)

「なりゆきだよなりゆき」

(佐藤さんこれでもう完全に魔族側じゃないですか! 人類の敵でしょうが!)

「違うよ俺は人類の味方で魔族の友人で三郎の敵だよ」

(勇者は敵認定なんですか……)

「勘違いするなエルテス。今は教会と勇者が和平の敵なんだよ」

 そう、それが俺がこっちの世界に来て出した結論だ。


「三郎どうしてる」

(あと四日ぐらいで王都に着くんじゃないかと思います)

「のんびりしてるなー。どんな様子だ?」

(ローテーションに偏りが)

「そこじゃねえよ」

 エルテスもなに聞いてんだか……。


(パスティール教会ともう一つ大きな勢力持ってるモーガン教会っていうのがあるんですが)

「なんで分かれてんの?」

(魔王を倒したパスティール、モーガン、ツェルトの史上三人の勇者のうちの二人目です。200年前の魔王を倒した勇者を信仰する教会派なんですけど、そこが勇者召喚やろうとしてる動きがあります)

「うまく行ったら勇者が二人同時に現れることになるな」

(それぐらい三郎さんの立場が悪くなってるってことかもしれませんね。頼りにならないのでこの際新しい勇者召喚してライバル教団つぶしてやろうってことかもしれません)

「そんな情報よく三郎にバラしたなパスティール」

(パスティール教会としてはここは三郎さんに新しい勇者召喚を阻止させるか、倒すなりして教会の正統性を証明してもらいたいらしいんですよね)


「三郎どうした?」

(そんなのイヤだって。やるなら正々堂々と闘いたいとか主人公丸出しなこと言ってますわ)

「どっちみち新しい勇者が勇者として戦えるようになるまで時間がかかるだろ。レベル的に追いつけるわけないし三郎圧倒的に有利じゃね?」

(まあどっちにしろ王都に到着しないと話にならないですね。本部が判断することですから)

「王都の王様はどう考えるんだ?」

(あの人たちはホラ魔王を倒してくれるなら誰でもいいみたいだし教会同士の争い事なんて勝手にやってくれ勇者は一人でいいわと思ってるんじゃないですかね)

 クズいな王様。


「まあそうだろうな。俺の感じじゃ、魔王軍には王国を攻める意思は全くない。人間側も市民レベルだと自分たちの代で魔族が攻めてきたことは一度もないし魔王戦にはかかわりたくない。王国は魔王討伐連合軍すぐに解体しちゃったのを見る限りやる気なさそうだ。魔王を倒そうと張り切ってるのは勇者召喚して一番偉い教会になって教徒を独占したいという聖職者連中の欲丸出しな連中だけだと思うぞ」

(だから私ずっとそうだって言ってるじゃないですか)

「はっはっは、そうだったな」

 さてそうすると俺たちもそろそろ動かないと三郎に追いつけないな。こっそり同じ町に滞在するぐらいのペースで追いかけたほうがいいかもな。


「とりあえずやりかけの仕事があるから、それ終わったらすぐ出発するわ。通信終わり」



 部屋に戻ったらカーリンが朝風呂から上がって着替えてた。

 うん、いっぱいしちゃったもんね。

「おはようカーリン」

「ふわぁ……おはようなのじゃ……」

「大丈夫か?」

「……なんだかとっても恥ずかしいのう」

  何をいまさら。

「こんなに幸せにしてもらえてわしは果報者じゃ……。マサユキはおなごの扱いが上手すぎじゃの……」

 言えません。世界最高レベルの風俗文化を誇る日本で泡姫相手に百戦錬磨してたなんて言えませんて。


 部屋の据え置きの風呂桶は夕べは宿がお湯を張ってくれてたが、カーリンは朝水を抜いてから水魔法で自分で水張りなおしてちっちゃいファイアボール水に浮かべて沸かしたらしい。便利だな生活魔法。微妙な調整はカーリンのほうがうまいからな。

 俺もひと風呂浴びて、着替えてから朝食にした。

 スゥイートとなるとルームサービスでもってきてくれる。

 パンとスープとサラダだが、これもカーリンがもってきた調味料でさっさとひと手間加えると絶品の朝食になる。マヨネーズ最高! これが無いとサラダじゃねえよ!


「今日はワイバーン討伐かの」

「ああ、さっさと終わらせて勇者を追うぞ」

「勇者どこにおるんじゃ」

「王都の4日手前の街にいる。教会関係者と一緒に移動中」

「勇者追いかけてどうすんじゃ」

「とにかくまずは様子を見る。利用できるところは利用し、妨害できるところは妨害する」

「おぬしも悪よのう」

「いえいえ魔王様こそ」

「「ふっふっふっふっふ」」

 これだよこれ、ずっとこれやりたかったんだよ。やっと言えたぜ。



 朝遅かったのでチェックアウトして街の外に出て、俺の【フライト】をカーリンにもかけて引っ張る。

 日帰りでいける距離だし、ドラゴンのドラミちゃんを呼ぶほどのこともない。あんまり早く行ってくるとギルドマスターにまた疑われる。

 カーリンは羽を広げながら、自分で羽ばたかなくてもいいから楽だし速いと大喜びだ。グライダーみたいに上下したりくるんくるんとロールしたり楽しんでる。

 【ホーミング】には機影は無く、おそらく若いつがいのワイバーンは周囲10kmには見当たらない。

 どこいっちゃったんだろうと思って話を聞きに、農家のオヤジさんの牧場近くに着地して歩いてゆく。

 オヤジさん俺を見つけて全力で走ってきた。


「それが、ど……ど、ドラゴンが出て! ワイバーン二匹を捕まえていってしまって……」

「……」


 なにやってくれてんすかドラミちゃん……。


 もうブレスやらファイアボールの応酬の大空中戦を村人全員が目撃したらしい。上空でドカンドカンと大騒ぎだったから無理もない。

 ラドンVSキングギドラをリアルで見てオヤジ大興奮だ。

 戦闘は一方的にドラミちゃんが圧倒して一匹を口に、一匹を両足で捕まえて飛んで行ってしまったそうだ。


「どんなドラゴンだった?」

「全身真黒でワイバーンの倍ぐらいあって……。口から火の玉を吐いてまして」

「あーそりゃ渡り龍の黒ドラゴンだな。北の大地から南の大地まで季節ごとに移動してるんだ。たまたま通りがかっただけだろう。たぶんもう来ないから安心していいぞ」

「えっそうなんですか!?」

 カーリンが横で半目で俺を見てるけど気にしない。

「ワイバーンも退治してもらったことになるな。もう大丈夫だ。じゃ俺たちも必要ないみたいだしこのまま帰るね。オヤジさんいろいろ世話になった。ありがとうな」

「いえ……前のワイバーンありがとうございました。肉だの部材だの売ったら今までやられた牛や羊におつりが出ましたので……」

「じゃあな――!」

 そう言って俺たちは戻っていく。


「ようあんなウソがすらすらと咄嗟に出るのう……」

 カーリンさん目が怖いです。魔族は嘘つきが嫌いでしたねすいません。

「ああでも言っとかないとドラミちゃん討伐部隊が国を挙げて編成されちゃうって。それにドラゴンは勇者の大好物だから面倒なことになるぞ」

「とにかくドラミちゃんはおしおきじゃな! わしの初仕事を取りおったからの」

 そこは穏便にお願いします魔王様。



 牧場から十分に離れたところでカーリンが龍笛を吹くと、すぐにドラミちゃんが飛んできた。

 ほんとに使えるなそれ。どんだけ距離あったのか知らないけど絶対音で呼んでると思えないんだけど。

 説教しようとする魔王様をなだめて、とりあえずワイバーンの死体のところまで案内してもらう。

 俺はドラミちゃんを怒るのは理不尽だ、ドラミちゃんはただ自分で餌を獲っただけでこっちの事情なんて知らなかったんだからしょうがないと言ってなんとかカーリンの怒りを解いた。だってワイバーン狩り禁止されてドラミちゃんが人間や家畜を襲ったりしたら大事件になるからな。

 こんもりと茂った森の中に作られたドラミちゃんのねぐらに降り立った。もう一匹食べちゃってたけど、爪とか牙とかは食わずに残ってたのでそこで二匹分回収する。

 せっかくなのでワイバーンの肉を醤油ソースでお昼にする。

 うん絶品。さすがカーリン。嫁さんが料理上手ってこんなに幸せなことなんだね。


 ドラミちゃんに街道まで送ってもらって、そこから時間稼ぎに二人でてくてく歩いて帰る。

 点在する農村、そこの人間の暮らしぶり。すべてがカーリンにとっても興味深い。

 山林が少なく平野が続くおだやかな地形は人間にとって暮らしやすい。魔族より発展している理由の一つだろう。正直に羨ましいとカーリンは言う。



「ど、ど、ドラゴンが出たって!!」

 ギルドマスターのジョーウェルが驚愕する。

「そのドラゴンがワイバーン二匹を捕えて飛んでいくのを村人全員が目撃したそうです」

 ドラゴンが出たというのは大事件らしい。ジョーウェルの声が震える。


「ど、どんなドラゴンだった?」

「村人の話ですと全身真黒でワイバーンの倍ぐらいあって……。口から火の玉を吐いてまして」

 それを聞いてジョーウェルが息を吐いて椅子に座る。

「あーそりゃ渡り龍のブラックドラゴンだな……。北の大地から南の大地まで季節ごとに移動してるんだ。魔族領付近で目撃されたこともあるが、今回はたまたま通りがかっただけだろう。たぶんもう来ない。助かった……」

 カーリン様が半目を通り越して白目になってます。

 俺もびっくりです。いや、アレ全部口からでまかせで全部適当だったんですけど。


「ワイバーンの死体は見つけたんですけど食い荒らされていて、なんとかこれだけは回収できました」

 二匹分の爪と牙が入った袋をどさりと置く。

「これを一人で持ってくるか……。それにしてもお前はよくよく運があるな」

 袋の中身を確認し、ジョーウェルが頷く。


「今回の依頼は未達成! ペナルティは無し! 報酬は無し! ランク上げも無し! お前らなんにもしてないからな。ま、ワイバーンも退治できてとにかくよかったよかった……前にお前が倒したとか言うワイバーンも、本当はドラゴンにやられたやつをたまたまお前が見っけただけだったとしたら納得いくし、領主にもそうやって説明できる。ギルドとしちゃあ助かった」

 満面の笑顔でジョーウェルが言い切る。

 うーうー暴れそうになるカーリンの口を押さえて黙らせるのが大変だ。


「規定通り牙一本金貨1枚、爪一本銀貨50枚。全部で金貨8枚で買い取ってやる。それでいいな?」

「それでいいです」

「金受け取ったらさっさと帰ってくれ!」

 そうして俺は暴れるカーリンをなんとか黙らせてギルドを出たのであった。



「納得いかんかっただろうけどさっさとこの街出たかったし、あんまり目立つと今後動きにくくなるから今回はこれでいいんだよ」

「しかしのう……。わしら誰にも感謝されておらんではないかのう」

 そうかあ、それが魔王様への一番のご褒美だよね。

 臣民の幸せ、感謝と信頼、それがあるから激務にも耐えられる。わかるよ。


「ハンターじゃなくて魔王として考えてみ? 農民はワイバーンを3匹も駆除できた。領主は通常より安い金で領地を守れた。ギルドはメンツと他の地元ハンターたちの仕事を守れたし、ドラミちゃんは満腹した。いいことばっかりだっただろ」


「……そうじゃの! 言われてみればそうじゃ!」

 よかったー機嫌なおった。

「父上が言っとったの。『全体を見よ』とな。簡単そうで難しい。わしはまだまだ父上の治世には及ばぬの。マサユキは大したものじゃな」

「ほら飼い主に報酬」

「お?」

「この金貨8枚はカーリンの稼ぎだからな。持ってなさい」

「おおおお――――っ!」

 すっごい嬉しそう。

「お金稼いだのはじめてじゃー!」

「え、そうなの?」

「魔王の仕事なんて全部タダに決まっとるの。いちいち金取ってたら臣民が魔王に頼み事なんてできなくなるわの」

「清廉だねえ……」

「今夜はまたあのふかふかのベッドの宿に泊まるのじゃー!」

「はいはい」

 ご褒美をご所望ですか意外とお盛んなのですねすっかり気に入ってしまいましたか暴れん坊魔王様。

 金貨8枚は日本円で80万円ですよ。あのスゥイートは一泊10万円ですよ。

 普通ハンターはこんなに稼げませんからね毎晩スゥイートなんて泊まれませんからね言っておきますけど。

 明日からはしばらく野宿なんだから……まあいいか今夜ぐらい。


ユニークアクセスが1000を超えました。

読者が増えている実感が出て励みになります。ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
魔王様可愛い^_^ こんなに立派で可愛い魔王様、他に居ないです。
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