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第九段、『ファーストシフト』

「こちらは女子供だけか……」


「そういうな、バッツ。女の方は中々の上玉だ……子供も数年すれば高く売れる」


「ウッドの兄貴は中々にエグイことを考える。俺はただ殺せればそれでいい……女子供に興味などない。金にも興味などはない。ただただ殺すことが俺の生きがい」


「相変わらず物騒だな、バッツは。少しは勘定のことでも考えた方がためになるぜ」


「俺の欲は戦場でしか満たされない」


「はいはいそうですか」


 盗賊の団体を束ねる二人の男はそんな会話をしていた。それを聞いた、ローラの母親は気付かれないようにローラに防御魔法をかけた。


 誰にも触れることのできない魔法。


「………星霊神よ、その慈愛の心を持ちて我が愛しき者を守り給え。───アストラルフィールド」


 一瞬の発光の後、ローラの眼の下あたりに五芒星が刻まれる。ありとあらゆるものから守り通す絶対の結界。


「あの女、星霊魔法を使えるのか!面白い」


「あれと戦うつもりなら殺さない程度にしてくれよ。お前が戦うといつも商品が死ぬ」


「それはそいつが弱かっただけだ」


 バッツと呼ばれる男は自身の腕に刻まれた魔法陣を触る。


「……吹き荒れろ、燃え上がれ。命を喰らいて我に力を貸し与え給え。戦場に散る生命の如く、一瞬にして全てを焼き払え!!ヘルブラスト」


 バッツの詠唱から出現した黒炎は全てを焼き尽くしながらローラたちを完全に包囲し、その包囲を徐々に詰めていった。


「魔法って本当に不思議だよな」


 ローラはいつの間にか自分の目の前に立っている少年の言葉に唖然とした


◇◇◇◇


「……どんな原理の魔法だ?黒い炎ってことは火属性の魔法なんだろうけど……火属性ってそもそも黒い炎なんて出せるのか?まるで闇属性の魔法と合体させたような」


 一定距離まで近づいたアウルは状況を静かに観察していた。


「本当なら二人のいるところまで一瞬で行く予定だったのに、まさか魔力が足りないなんて」


 アウルは状況を観察しながらも地道に空気中に漂う魔力を吸収していた。


「あの状況はやばいな……。だけどこっちとしては好都合。これだけ大規模に魔法を使ってくれたおかげで魔力の溜まりが速い」


 普段は無意識に集めている魔力を意図的に集め、さらに詠唱を加えることでその速度をさらに加速させる。


「よし」


 アウルは本日二度目の掌握魔法を発動させた。


◇◇◇◇


「誰だ、お前」


 バッツは突然現れた少年に驚きを隠せない、その隣でウッドと呼ばれていた男は静かにその様子を分析していた。


「別に名乗るほどのものでもないさ。通りがかりの一般人ってところ」


「飛んで火にいるなんとやらだな。俺の魔法の餌食になるんだから」


 それを聞いた少年は無邪気な笑みを浮かべると背を向け、少女とその母親に声を掛ける。


「貴方たちの父親はたぶんもう助からない。それなりに強い方だったのでしょう」


 静かにそう告げる。


「……夫は昔、ギルドナイツの一人でしたから。今は商人をやっていますが……夫はもう?」


「あの様子では助からないと思います。それに俺は全てを守れるほど強くはない。生存確率の高い方を選んで貴方たちに加勢します。貴方は自分のお子さんを守ることに集中してもらえれば俺は貴方たちを助けます」


「……そんな、ローラと歳はそんなに変わらないでしょうに」


 それを聞いた少年は少しばかり苦笑する。


「歳なんて関係ないですよ。俺は五歳の頃から戦闘技術を学んでいるんだ。それにこれ以上その子に俺と同じような思いをしてほしくないと思っただけ」


 少年は静かにそういうとローラと母親の周りに囲むように魔法陣を描く。


「守護せよ」


 すると光の柱が折重なり球体上に二人を包み込む。それと同時に少年は自分の胸の前で一度拍手を行うと自分たちを覆っていた黒い炎が消失した。


「……面白いな、お前」


「その年でそれ程の魔法を使うの魔法使いなど……聞いたことがない。最年少天才魔法使いのユリア・コードレスは始末した。それ以上の天才がいたということか」


 少年はウッドの言葉に反応する。


「お前、今……ユリアと言ったか」


「ああ、この前……依頼で殺した。それがどうした?」


 少年は身体の中に熱くなるものを感じた。まるで全身の血が沸騰しているようなそんな感覚だ。


 少年は自身の身に着けているイヤリングに触れながら小声でこう唱える。


「封印、第一段階ファーストシフト解放」


 すると少年の漆黒のような黒髪は色が抜け落ちたかのように真っ白に染まり、黒かった瞳は紅蓮に染まる。


「予定変更だ。お前たちは完全に皆殺しだ……慈悲なんてない。ここから始まるのはただ一方的な虐殺だ」


「………亜人か!」


 盗賊の誰かがそう叫ぶ。


「悪いが亜人なんてものじゃねえよ。お前たちに教えてやる必要もないが……。罪を悔い改めろ。まあ、例え神が許しても俺は許さないがな」


 少年はどこからともなく仮面を取り出し、それを付けると盗賊団の中央にいつの間にか立っていた。


「……断罪のロザリオ」


 少年がそう呟くと空から無数の逆十字の描かれた棺桶が降り注ぐ。その光景はまさに地獄だった。

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