第八段、『盗賊』
「そろそろ片付けて出発しましょうか」
「そうだね。街道は如何に整備されているからって魔物と遭遇しないという絶対的な保証はないからね」
「魔物出るの?」
ローラは不安げに父と母に尋ねる。それを見た父は優しくローラを抱きしめた。
「大丈夫」
けれど、ローラはその声がひどく震えているように聞こえた。ローラを抱き締めている父の手に力が籠るのを感じる。
「……お父さん?」
父の体がローラの視界を遮り、ローラには何も見えていなかったが、それでも父から発せられる魔力が若干であるはあるが変化していることに気付く。
「……アナタ」
「分かってる」
父はローラのことを離すとローラに行ってくると告げるとどこかへ走り出した。
「……お父さんは……」
その言葉と同時にローラは全てを理解した。理解したくはなかったが、理解するしかローラには出来なかった。目の前に迫る脅威に対して現実逃避はあまりにも利口ではないと考えたからだった。
「盗賊なの?」
「……こんなところに盗賊がいるなんて。それも数百人規模の盗賊団」
母は驚きを隠せないようで、商人を積んだ馬車とローラを守るように前へと出た。
「娘には指一本と触れさえやしない」
そう言った父は魔法の詠唱を行う。
「我は求める!敵を阻む壁を……───アースウォール!」
三メートルは越えようかという強大な壁が盗賊たちの行く手を遮る。それと同時馬車を町のある方向へと走らせる。
「ここは引き受ける。お前とローラは早く」
父はその場に残り、
「……お前たちだけでも逃げてくれ」
◇◇◇◇
「……襲われているのか。この反応は数百人以上……。俺には助ける義理はないな」
アウルは盗賊に襲われている商人を見てそう呟く。
「中々の詠唱速度だな」
商人の男が魔法を唱えるのを見てかなりの手練れだとアウルは思った。それでも数が多い。いくら手練れだからと言って一人でこれだけの人数を相手に出来る者が人間にいるとは思えない。
「死ぬ気なのか……」
無い左腕が疼く。アウルの左腕は数年前とある事件で失って隻腕になっている。その左腕を補うために人工的に作り出した偽物を使ってる。
これがアウルの魔器。
「助ける義理はないが、盗賊ってのは許せない」
それでもアウルは動こうとはしなかった。商人の男が発動させた防御魔法の裏から誰かが町の方角へと馬車で向かうのが見えた。
「……あちらを助けるとしますか」
行動方針を決めたアウルは自分の胸の前で拍手を一度行う。
「『指定』……『切断』」
アウルは自分のいる場所から馬車のいる場所までの距離を指定し、それを切断する。この魔法はアウルの使う掌握魔法の一種で本来あるはずの距離を無視して移動することのできる魔法。
この魔法を使うには一定以上の魔力を蓄積し、蓄積した魔力を使用して発動させる特殊なタイプ。
故に詠唱を必要とせず魔器を介すだけで発動できる。




