第六段、『旅立ち』
血染め法を試したアウルは自分が何の属性に当て嵌まるのか知ることは出来なかった。
「系統の方は特殊系統ですかね、掌握魔法を使えるみたいですし」
「系統は調べられないの?」
「系統の方は実際に使ってみないと分からないんです。それに系統は努力次第で二つは覚えられます。ただし光闇の系統は特別な才能を持っていないと使うことは出来ませんが。ちなみに王都で名門貴族に所属している七大貴族は一般的な属性魔法を使えない代わりに光闇の系統に属しているのが二家ありますから」
「ダークナイト家とシャインフォード家だね」
アウルがそういうとユリアは頷く。
「アウル様の妹君はダークナイト家の方で預かっています。今まで人目に触れてない妹君はダークナイト家の養女という形で過ごしてもらっています。現当主の方は自分の娘のように大切に育てると仰っていました」
「なら安心だよ。妹にはまだ知らせてないんでしょ、僕が生きていること」
「はい」
「なら、そのまま隠しててよ。生きていればいずれ会うかもしれないけど、僕にはやるべきことがある」
ユリアは目を細める。
「復讐ですか?」
「それもいいかもしれないと僕は思ったけど、僕がするのはあの日、あの事件に関わり父様を陥れた者たちの虐殺。これは一方的な抹殺だよ。復讐なんて綺麗なものじゃない」
ユリアは腰に携えていた剣を地面に置き、頭を垂れる。
「ならば、力を貸しましょう。あたしは貴方を強く致しましょう。あたしが教えるのは魔法。もうすぐ帰ってこられるルークさんが教えるのは武器の使用法。ギルドで仕事が出来るようになる9歳までの4年間修行をしましょう」
「お願いします、師匠」
頭を上げたユリアに対し、アウルは嬉しそうな年相応な笑顔でユリアを師匠と呼んだ。
「剣を持っているのに魔法の方が得意なの?」
腰に剣を携える様子を見ていたアウルが尋ねる。
「これは魔器と呼ばれる魔法を制御するための媒体です。別段これがないと魔法が発動出来ないというわけではありませんが、これを介して魔法を発動した方が苦なく安定させることが出来ます」
そういうと胸元からイヤリングのようなものを取り出し、
「修行中はこれを付けてください。これは先ほど言った魔器です。魔法を御する為の器……魔法とは面白いものだとあたしは思います」
これは後日ユリアがアウルに教えたことなのだが、世界には古今東西様々な形式の魔法が存在していて、全て把握するのは無理ではないのかと思うほどに数があり、同じように数多くの遺跡があるのだという。
遺跡にはこの世界から完全にその存在を忘れ去られてしまった失われし魔法や古代式魔法などがあるのだというユリアの趣味は遺跡を巡りそれらを調べること。
いつか一緒に行きましょうと子供のように目をキラキラと輝かせながら、そう言ったのを思い出すと今も苦笑する。
「……誰が、誰がやったんだよ……答えやがれえええええええええええええええええええええええええええええええ!!」
土砂降りの中、声は掻き消され空しい静寂だけが訪れる。あたりには砕かれた剣が散乱しており、数えているだけで吐きそうなほどの死体が転がっていた。
「あ…………アウ……様」
今にも消えてしまそうな声はアウルを呼ぶ。
「ユリアさん……」
「……あ、たし……ま……でしょう、か」
「ああ……だから、もうしゃべらないでくれ。助かるから……助けるから」
アウルは回復魔法を使うことが出来ない。それを知っているユリアは力なく笑う。そして弱弱しい手で、アウルの頬を優しく撫でる。それは母のようでいて姉のようでいて、アウルのとって大切な人だった。
「……先輩……い、……逝き……」
「待ってくれ!!」
アウルの静止が効力をなすはずもなく、ユリアはぐったりとその場で息を引き取った。
「……ルークさん、ユリアさん。今まで有難う御座いました」
それから数日、アウルは二人の亡骸を丁寧に埋葬すると墓前でそう言った。
9歳の誕生日を迎えたこの日、アウルは大切なものを失った。




