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第二十八、『情報屋』

 翌日、アウルはダークナイト卿の動向を窺いながら、この町のギルドで仕事をすることにした。仕事と言ってもアウルが受けたのはほとんど採取系の簡単なものばかり。


 戦闘依頼ばかり受けていたアウルからして見れば、どうしてそのような依頼ばかり受けたのか不明な点は多いが、少し休みたいという本音もあったのかもしれない。


 だったら仕事を休めばいいのでは、と言われるかもしれないが仕事を休めるほど収入が多いわけではない。拠点に戻るくらいの金を溜める必要があった。


 だからと言って、高収入の討伐系の依頼を受けることが出来ずにいたのもアウルとしてはもどかしさがあった。


 ダークナイト卿の護衛の依頼が完遂したとはいえ、ダークナイト卿はまだこの町にいるし、それにあの娘もまだこの町にいる。


 甘さを捨てたと言ってもアウルはやはりあの娘が気になっていた。


 もし、自分がまだ元の名を名乗れるならと何度も考えた。けれどそれは無理なのだと理解しているからこそ、アウルはこの町から離れることが出来ずにいた。


 自分の拠点としている町ではないため、どうも勝手が分からない。この町の近くにはどのような物が取れるのか、どのような魔物が生息しているのか、少しの間とはいえ、仕事をする以上は情報が欲しかった。


 何も知らないというのは『弱さ』である。これがアウルの信条だ。知っているのと知らないのではかなり違ってくる。ましてそれが討伐系の依頼だったら、相手の弱点を知っていると知らないのでは倒すための労力が変わるし、それに生存率が変わる。


 無知は罪なりとそんな言葉を残した昔の人もいるが、罪とまでは言わない。けれどそれは『弱さ』だ。知らなかったという言い訳を作ってしまう『弱さ』だ。


 知らなかったという言い訳で何かを失ったとする。それが大切な者ならそれは罪だ。


 話が逸れてしまった。


 要するにアウルは情報を欲していた。そんなアウルの心情を理解したかのように外套を深く被った女性が声を掛けてきた。


「お兄さん、何か探しているね」


 外套を深く被った女性は、愉しげに笑いながらそう言った。


「昼間から酒を飲んでいるのか?」


「違う違う、あたしゃー、常にこのテンションさ。それよりもお兄さんが何かを探しているようだったからさ、声を掛けちまったのさ、今なら安くしておくよー」


「どんな情報を取り扱ってる?」


「あたしゃー、専門なんてものはないのさー。くふふふ、信じとらんね。情報は何でも扱ってる、それがあたしゃーのスタイルさ」


 アウルは金貨を何枚か取り出すと、その女性に渡す。


「別にいらんさー。ま、今回はおまけだじぇってね。それにあたしゃー信じた者にした話はしない主義なんさ」


 かなりふざけた口調で話す情報屋だが、その情報はどれも信憑性の高いものばかりでアウルは舌を巻いた。


 その中でも特に驚いた情報がダークナイト卿に関する情報だった。娘に関する情報は少ないものの、この町に何をしに来たのか知ることが出来た。


「ダークナイト卿は暗部って呼ばれる裏の組織を束ねているからね。暗部と呼ばれる組織からはかなりの信頼を得ているけど、それと同様に敵対組織からはかなりの恨みを買っているはず」


「なるほど、実際それがダークナイト卿じゃなければ、俺には関係のないことなんだがな」


「そうだ、あなたの情報をちょうだいよ。あたしゃー知らないことがあると夜も眠れない質なんだ」


「そうかい。別に俺にはアンタが眠れなかろうが、関係のないことだ。それに俺の情報なんて面白いものはないぜ」


「ふーん。災禍の貴族アディンセル家の長男。アルト・アディンセル。今から五年か六年前に反逆罪で処刑された大英雄ジークフリート卿の息子さん」


「……誰のことを言っているか分からんな。俺は───」


「アウル・S・コルトハード。コルトハード流の使い手で、あの宮廷魔導師兼魔導研究開発部局長ユリアさんの一番弟子。知らないことがあるとすれば……その腕と眼帯について」


「答えるつもりはない。それにこの腕になった経緯は知っているのだろう」


 アウルは包帯で巻かれた上に鎖で拘束されたその左腕を視線を落とし、そう言った。


 この腕は自身の腕ではない。それでも腕としての機能はちゃんと使える。この腕は義手とは違う。正確には人体義手と呼ばれる禁術の一種で作られた腕だ。


 人体義手にはある特徴がありそれは複雑な術式が刻み込まれていること、使い手によるがベースとなった人間の技術を盗めること。


 そして材料が生物。生物を使用した禁忌の法。


 アウルはルークの死体からこの腕を作り上げ、自信と同化させている。そして複雑な術式を隠す意味で包帯を使い、禁忌特有の副作用が出ないよう鎖で拘束している。


 アウルが眼帯をしている『目』には『名無ノーネーム魔導書グリモワール』が宿っている。一度見た魔法ならどんなものであれ、記録し保存する。あらゆる禁書が記され、あらゆる魔導が記された【原書の魔導書】。


 それもある者から渡されたもの。アウルからしてみれば戦う力をくれた人。もはやこの世界にはいないのだけれど。


「俺は、護衛に戻るとするよ。また、どこかで会うこともあるだろう」


「あたしゃー、リエン・マイノリス。覚えなくてもいいよ」


「じゃあな、リエン」


 アウルはダークナイト卿がいるであろう場所へ向かった。

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