表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/29

第二十六段、兄妹

 ダークナイト卿の一人娘であるルカは護衛についている少年のことが気になっていた。先日訓練所で最後に見せたあのアディンセル流という剣術はルカが本来の継承者で剣術だ。


 ルカの旧姓。ダークナイト家へ養女として迎え入れられる前まで名乗っていた名はルカ・アディンセル。英雄ジークフリート卿の長女だった。あの事件以来ダークナイト家でアディンセル家の復興を夢見ながら暮らしている少女だ。


 最近はこのままダークナイト家の一人娘で過ごしてもいいのではないかとさえ思ってきているが、ルカにはどうしても気が掛かりなことがあった。未だ見つかっていない兄様の死体。


 ルカにはアルト・D・アディンセルという兄がいる。それも殆ど年齢も変わらないというのに英雄から直接手ほどきを受け、ルカよりもアディンセル流を自分の手足のように使いこなしていた。


 ルカはそんな兄が大好きだった。父はよく王宮へ招かれ、その間留守になる家でよく一緒に遊んでくれる兄がとても大好きだった。


 そしてあの事件が起こった。ジークフリート卿の反逆事件。つまり二人の父親が国に対して何らかのクーデターを起こそうと画策していたとし、王の目の前で斬殺された。


 その場に居合わせた長男のアルトも斬殺されたと後に、長くアディンセル家に仕えてくれたメイド長から聞いた。


 幼いルカにとって一度に多くのものを失うことになった。このときあまり心が強くなかったルカは口数が減り、笑顔が減った。そうして同時にダークナイト家の家業にかなりの才能を見せた。


 国の闇を背負う一族の家業は暗殺。国に対して害悪となりえるものは全て排除する。それが、ダークナイト家の仕来り。


「ルカがこの仕事をやる必要はないけれど」


 ルカの義理の父親であるダークナイト卿は諭すような口調で昔、ルカに言ったことがあるが、当時のルカはほとんど心が壊れていたと言っても不思議ではない。


 そして最近になって壊れていた心が回復の兆しを見せた。そのきっかけはとある貴族を暗殺したときのことだった。


「止めてくれ……金ならいくらでも払う」


「……」


「頼む」


 ルカは命乞いをする相手の言葉に耳を貸すこともなく、無慈悲に冷酷に、手に持った短刀を突き立てた。


「……アディンセルの亡霊……」


 その貴族は窓の外に視線を向けながら静かにそう言った。


「……」


 ルカが振り返り、その窓に視線を向けるがそこには誰もおらず、けれど、確かにそこには誰かがいたであろう痕跡が残っていた。


 この時ルカはもしかしたら自分の兄も同じように貴族たちを殺して回っているのではないのだろうかと疑問を抱いた。


 そんな疑問を抱きながら、訓練所で義父と親しげに話す少年を見た。外套を深く被っており、それが本当に少年だったのかも定かではないが、暗殺をしているうちに身に着けた観察眼はあれを少年だと判断した。


 そのときはあまり気にも留めずに訓練へ向かうと、何を考えているのか先ほどの少年もあとから入って来た。


 なりゆきからなることとはいえ、その後彼との戦闘になったのだが、ルカは自分の積み上げてきたものを簡単にあしらわれてしまった。


 そしてそのあとに見せた彼の剣技。


 アディンセル流の極意は口伝でしか伝えられていない。彼はその極意を口走った。このときルカは確信した。この少年はアディンセル家に関わりのあるものと親しいものだと。


「なら、見極める」


「そうだね、ルカがそうしたのならそうするといい」


 義父の全てを知ったうえで語りかけてくるこの口調はあまり好きにはなれないが、それでもルカは素直に頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ