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第二十二段、『素質』

 訓練所を出たアウルは弓使いの女に声を掛けられていた。


「あんた強いね」


「俺は全然強くなんてない。それより何か用なのか?」


「用がなければ声を掛けてはいけないなんて決まりはないだろ?それにうちはあんたみたいな自分勝手な奴、そんなに嫌いじゃないんだ。それにしてもまさかコルトハード流の使い手だったんだな」


 アウルはコルトハード流という言葉にピクリと反応する。


「どうしてその流派の名を?」


「簡単な話。ルークさんとうちの姉貴が知り合いってだけのこと。うちの姉貴もそこまで強い威力ではないけど、その流派の技使えるし。ルークさんが退役する4年位前に師事してもらってたことがあったんだけど」


 それにしても話が長いものだとアウルは呆れてしまいそうになる。


「あ、忘れてた。うちはイルミ。うちの家系は貴族や商人ってわけじゃないから家名はないよ。因みに11歳だ」


「俺はアウル・S・コルトハード。名前の通りルークさんの縁者だ。まあ、血が繋がっているわけではないんだが。ルークさんからはコルトハード流の全てを一応は教わっているつもりだ」


[知っていると言いたいところだけど、しっかりとした自己紹介は確かに大切なことだからね。それにしてもまさか魔刀と妖刀を使えるなんて思ってもみなかったし、うちのパーティーメンバーが迷惑をかけたことも謝罪しないと」


「なるほど、あの場にいた面子はお前たちの仲間ってことか。それに俺を加えたメンバーが今回の依頼ということだな」


 イルミはその通りと楽しそうに笑う。そこらへんの事情自体アウルにはどうでもいいことだったため深く追求するようなことはしないが、自分が不利になるような状態になるようであればこいつらを切り捨てるつもりでいた。


 それを察しているであろうことからイルミはこれ以上何かをする気はなかったし、それにこれから仲間として仕事をするのに変な蟠りは作りたくなかった。


「ま。今回はこちらが悪かったってことでいいかな。うちとしてもこれ以上この話をしたくはないんだよ」


「了解だ」


 ◇◇◇◇


「……痛ぇ」


 アウルと対戦していた大剣使いはアウルがいなくなってから数分すると目を覚ました。


「アウル・S・コルトハード……あれでまだ低ランクだというのか!」


 男は実際に対峙してみて理解した。あれは人の形をした何かだと。男は魔力探知に長けているわけではないが、それでも対峙することでやつが異常なまでの魔力を保有していることが分かった。


 ほんの一瞬だったが奴の魔力が何かの枷が外れ跳ね上がったような感覚があった。その感覚が本物だったとしたらと正直男は二度と奴と対峙するような場面には遭遇したくないと感じるようになった。


「……いい人材がギルドに入ったものだ。そうは思わないか」


 男は誰かにそう語りかけたが返事が戻ってくることはなかった。


◇◇◇◇


 アウルはランクDへの昇格試験の前に別の昇格試験を受けに来ていた。


「アイシャさんは来ていますか?」


 アウルが敬語を使う数少ないベテラン受付嬢にそう尋ねた。


「同時に試験を受ける人間は珍しいと思うけど。ん~……まだ、アイシャさんは来てないわ。何なら現地に直接アイシャさんを送ろうか?」


「自分としてはそれでも」


「りょーかい。じゃあ現場に向かうようにするから、アウル君はこれから現場に向かってもらってもいいのかな?」


 アウルはすぐさま準備を終わらせるといつもの門番のいる場所までいくとそこでアイシャがやってきた。


「これから何日かかかると思うが、その間他の依頼は出来なくなるが大丈夫か?」


「大丈夫。俺が受けている昇格試験はどうせ一週間後にやるしな。その前までに帰ってくれば問題はない」


「因みにこれはギルドナイツへの昇格試験。そのためにギルドナイツの平均的な能力として最低ランクBくらいの実力はないといけない」


 実際昇格試験はアウルにとって金がたくさん入るようになればそれでいいというだけの認識だった。アウルという人間は金以外にあまり執着がない。つまり無駄な情で流されるような奴ではないということを意味しているが護衛にはあまり向いていないだろうとアイシャは思っていた。


 町を出てからすでに一日が過ぎ、日が真上で二人を照らしている頃アイシャは自身の武器である剣を研いでいた。これはアイシャの日課のようなものでありこれをしなくてはいざというときに戦えないと思っている。


 アウルはそんな光景を見ながら静かに深呼吸をしていた。当然ただの深呼吸というわけではない。これは空気中に漂っている魔力を自身に取り込む作業のようなもので、アウルが好んで使う掌握魔法には必要な行為だった。


 四年修行したためか練度は昔の比ではなく、精密な魔力コントロールもしっかりできており、その気になれば相手が使用した魔法を自身の魔力へと組み込むことも可能になっている。まだ開発中の魔法ということもあって、実際に戦闘中に使えるほどアウルは器用ではない。


 戦闘中に困らないよう今魔力を出来るだけ溜めている。この溜めるという行為もかなり意味のある行為で自身の魔力量を底上げしてくれる効果もある。四年間毎日繰り返しただけあってアウルの魔力量は異常に跳ね上がっている。


 それも魔力探知に長けた純粋な魔法使いなら意識を持っていかれるか恐怖するほどまでに。


 純粋な魔法使いというのはその存在がかなり珍しい。魔法を使う人間は必ずしもと言ってもいいくらいある程度は体術も身に着ける。それは魔法を使うものの弱点である接近戦に対応させるためだ。


 ただそれにも才能というものが関わってくる。武術に対する才能がない人間というのは必ず存在する。


 そう言った才能のないものたちのことを純粋な魔法使いと呼んでいる。彼らの特徴としては本来あるはずの最低限の接近戦の才能を全て魔法に注いでいるために起こる異常なほどの魔法適正。


 その中でも一種限定の魔法使いはかなり強い。アウルも純粋な魔法使いにあったことはないためその存在は知識でしか知らない。イシュダルで最も有名なのは水の一族だろう。


 とそんなことは実際今はどうでもいい。


「ところで大餓鬼討伐ってやったことある?」


「俺はない。けれど所詮は餓鬼を大きくしただけの魔物だ……それだけ分かっていれば全く問題はない」


 アウルはそう言って歩行を早めるのだった。

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