第二十一段、『試験と顔合わせ』
数日後、アウルはギルド支部の『アフィード』の方ではなく、ギルド本部のある中央に来ていた。ギルドという組織はその特徴から領地ごとに本部が置いてあり全ての領地のギルドを統括するギルドが王国の御膝元にある総本山が有名だ。
アウルが来ているのはベルンハルト領にあるギルド本部だ。その中の一階フロアの奥にある特別訓練所。
「よく来てくれた。本日ここで行うのはランクDに上がるための承認試験。ランクDの冒険者の特徴としては依頼の中に対人戦闘が含まれていることだ。ギルドの情報を他国に売り渡そうとする人物の処分や近隣の町や村に被害を及ぼす盗賊の討伐なんかが依頼として入ってくる」
アウルは目の前に立っている冒険者風の男の話を聞きながら周囲の状況を改めて確認していた。
◇◇◇◇
これはアウルがこの場所に訪れる少しだけ前の話だ。
「ルウさん聞きました?」
「何を?」
「何でも今日は月に一度の昇格試験あるじゃないですか。そこで今日の登録者の名簿の中にまだ九歳の子供がいるらしいんですよ」
「え、それほんと?」
「しかもあの悪名高いギルド『アフィード』所属らしいですよ」
ギルド支部にはそれぞれマスターの意向にあった方針で運営されている。因みにアウルが所属している『アフィード』は主に討伐系の依頼を請け負っている。採取系などに比べるとその差は歴然。
ただ討伐系が多いせいなのか傭兵崩れやガラの悪い連中が多くいることでも有名でマスター自身も現役時代は散々やらかしたらしいのだが。
「ここで試験を受けるように言われたんだけど」
受付嬢たちが会話で盛り上がっていると軽装をした少年が試験会場はどこかと尋ねた。
「もしかして、アウル・S・コルトハード君?」
「どこかで会いました?」
ルウと名乗った受付嬢は自身の持っている名簿とアウルが本人であるのかという確認を含めてギルドカードの提示を要求した。
アウルは無言でギルドカードを提示するとルウの後輩に案内してもらい無事会場に到着することができた。会場の中に入るとそこには大剣を背負った男が一人と魔法使い風の男、それに女。弓を手入れしている女がいた。その人たちと相対的な位置関係にいる人物がおそらく本日の教官なのかもしれない。
アウルが会場となっている訓練所の入口を開けた音につられて大剣を持った男と魔法使い風の女、それに教官がこちらを見ていた。
教官は「あれが」と小さく呟き、大剣を背負った男は何故餓鬼がここにいるという風な、女は興味が無くなったのかすぐに視線を逸らした。
「これで全員そろったな。各自獲物を持ってきているか?」
魔法使い風の男女は自分の魔器であるであろう杖を見せ、弓使いは当然のように弓と予備として短剣を見せた。大剣を持っている男はそれを誇示するように見せつけたが、アウルは何も示すようなことはしなかった。
「少年、お前の獲物は何だ」
教官が尋ねる。
「おいでウィル、ナージャ」
その言葉に反応するようにアウルの手元には二振りの刀が顕現した。
「魔刀に妖刀の類か。自分で名前を付けているところを見るとどうやら正式に契約しているようだな。その挙動一つ一つに達人と呼ばれる人間たちと同じものを感じる」
最後の部分はアウルにしか聞こえないように言葉にした。無用な争いを避けるためだろうが、アウルは別にどうでもいいとさえ思っていた。
妖刀・暁。アウルがナージャと名付けたこれをアウルは一度仕舞い、もう片手に持っていた魔刀・忌『ウィル』を腰に差した。
ここで冒頭に戻るわけなのだが、アウルは退屈そうに試験官の言葉を聞いていた。
「さっきも言ったが人を殺す依頼なんかもある。お前たちにはこれから護衛の依頼を受けてもらう。俺も一応同行するが基本はお前たちだけで対処してくれ」
そういうと全員に依頼内容書を配る。
「ランク指定D『領主の護衛』か」
「ランクDにまでならほとんどと言っていいほど普通に仕事をこなしていれば簡単に上がれるランク何だが、これから上のランクに上がろうとすればかなりの貢献度を上げるしかない。護衛を最低でも十回は熟さないと基準値には達しない」
アウルはとある人物のことを思い出していた。それはシズのことだ。彼女はアウルより少し年上だがそれでもランクCという領域に立つ人間だ。実際にランク昇格のための試験を受けている今のアウルならそれがどれほど大変なことなのか理解することができた。
そんな今はどうでもいいようなことをアウルが考えているとアウルを否定するような声が訓練所に響いた。
「どうして俺がこんな餓鬼とパーティーを組まないといけないんだ!」
その声の主はさっきから大剣をやたらと目立たせている男だった。その隣に立っている魔法使い風の女は男と知り合いなのかやれやれといった風に傍観している。それは教官でも同じようなものだ。
つまり彼らにとって大剣の男の行動は日常かしているのだろう。
「なら、こういうのはどうだ。お前たちはまだ会って間もない。実力を判断するために模擬戦をしてみるというのは」
「ちっ。ま、それでいいぜ」
「少年、お前はどうだ」
「依存はない。制限はあるのか?」
「殺傷力の高い魔法の使用を禁止する。もちろん相手を殺すのもダメだ。まあ、骨折程度なら大目に見よう」
教官がそういうとすぐに医療スタッフを手配するように頼むと互いに武器を構えるように促した。
「少年も勝利にはこだわらなくてもいい。これはあくまで実力を見るためのものだからな」
アウルは構えるような姿勢を見せることなく、相手に向かってかかってこいと言わんばかりの態度を示した。
「……クソガキが!!」
男は自身の身長を超えるであろう大剣を片手で振り抜くとそのままアウルに向かって攻撃した。アウルは刀を使うまでもなく掌を大剣の腹へと当てる。
───コルトハード流近接格闘術、天破。
内部破壊系の攻撃である天破は大剣を大きく震わせるとその振動を直接使い手に伝える。
「ぐっ」
「戦場で武器を捨てるのは命取りだ、大剣使い」
───コルトハード流近接格闘術、衝針。
先程使った技とは異なり外部を破壊する外部破壊系の技。魔力を纏った攻撃ではなく、通常の攻撃とはいえその威力は通常の攻撃よりも何倍もの威力がある。
「そこまで!」
攻撃がヒットする直前で教官が止めに入る。
「お前の力は十分理解した。けれどやり過ぎだ」
「実際の戦闘にやりすぎなんて言葉があるのか?俺にはその考え方を押し付けないでもらいたいものだ。それにそこで伸びている奴もあんたとは違う考え方だと思っているが……まあ、チームワークはともかく盗賊の一団の始末くらい俺一人でも十分だが、これが試験である以上は仕方ない」
「……実際に人を殺しているな」
「それこそ今更だ。俺をあまり外見で判断するな……これでも血には慣れているつもりだ」
アウルはそういうと破壊された大剣を持ち主に投げ返し、訓練所を後にするのだった。




