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第十九段、『ギルドナイツ』

今回は少し長めにしてみました。


だって、久々の休みで暇で暇で。



そんなことはさておきお楽しみください。

 餓鬼の巣窟から脱出したシズは捕虜の女性を連れてギルドへ駆け込むと受付嬢に事情を話し、シズは準備を万全に救援に向かおうとする。


 しかし、ギルドから出ようとすると片方の眼を眼帯で隠した女性が出口を塞ぐ。


「何を慌てているの?」


 シズは女性の左肩の部分に目を向けるとそこにはギルドナイツである証明の刻印が記されていた。


「ギルドナイツの……」


「ギルドナイツ序列六位、神速のアイシャ。以後お見知りおきを」


「……あたしは」


「知ってる。シズ・エレキオットでしょ?ギルドナイツの候補名簿の中に名前があったし」


 シズは緊急事態だというのに驚きを隠せなかった。


「それよりも急いでいるんでしょ」


「はい……友人が」


 その話を聞いたアイシャとシズは既にいなかった。


◇◇◇◇


 ゴブリンソルジャーを殲滅したアウルは、使用した短剣を全て回収すると同時に餓鬼たちの宝物庫のような場所があったのでそこから使えそうな武器を奪取する。


「何もないな……魔器レイドが多少ごろついているくらいで。それに質も悪い」


 アウルはかつて傭兵や冒険者たちと共に過ごしたであろう魔器を手に取るとそれを鑑定。そして評価を下すと同時に破壊した。


「餓鬼たちの討伐部位を持って帰るとするか」


 アウルは餓鬼を耳を削ぎ落すとそれをポーチのようなものに仕舞いこんだ。使えそうな金属部分だけを回収すると普通の武器も破壊する。


 ゴブリンソルジャーが持っていた剣を拾い上げ、軽くスイングしてみるものの重さが気に入らず刃の部分だけを破壊してポーチに入れた。重量無制限に入るポーチは採取活動をするためにはかなり最適だ。


 ある程度物色が済んだアウルは遺体を丁寧に埋葬すると墓前に手を合わせる。


「安らかに眠れ、憐れな弱者よ」


 一言余計だが、それにツッコミを入れる人間はここにはいない。依頼内容を確認し依頼が終了したことをギルドへ伝えるために帰還の支度をする。旅支度が慣れているアウルはすぐさまテントを組み上げ、野宿することにした。


 翌日。


 餓鬼の巣窟から少し離れ、町から約三日程のところの街道まで戻ってくると二人組の傭兵らしき人間が前から歩いてくるのを確認することが出来た。アウルは探知魔法を発動させる片方は知っている魔力の波動をしていた。


「彼女は無事ですか?」


 二人に遭遇したアウルの開口一番はそれだった。


「ああ、無事だ。ってそれより君の方こそ無事だったのか!」


「俺があの程度でやられるとでも?」


 アウルは誇るわけでもなく、まるで勝って当然だと言わんばかりにそう言って見せた。


「ところで?」


 アウルはシズの隣に立っている女性に目を向けるとそう口にした。


「神速のアイシャという。よろしく」


「俺はアウル・S・コルトハード。ただの流れ者さ。二つ名持ちのギルドナイツさん」


「出来れば、私のことはアイシャと呼んで欲しいのだが。まあ、知り合って間もないことだしそれはおいておくとしよう。話は変わるけど君は本当に一人であの場所から戻ってきたと?それも無傷で」


 アイシャはまるで何かを観察するような視線でアウルを見るとアウルは苦笑し、そうだと肯定した。


「君ほどの実力者なら私が名前を知らないはずがないのだけれど……流れ者ということは前は別のどこかで傭兵稼業をやっていたのかな?」


「正式に働き始めたのは今年からだ」


 それを聞いたアイシャはシズと同じような反応をする。


「……それ、ほんと?ランクだけで言ったらAには匹敵すると思うのだけれど。そんな子供がこの町に」


 アイシャはギルドナイツにダメ元で誘ってみるが、即答で断られてしまった。ギルドナイツとはそもそも国専属の傭兵部隊。軍とは別の指揮系統で動いている。それでも王家直轄の特殊部隊というのは正直なところアウルが嫌いな部分でもある。


 その後も何度かギルドナイツへの勧誘が続きながらアウルは町まで戻った。


◇◇◇◇


 町に帰ってとりあえず依頼達成の報告を兼ねてギルドまで行くことにした。シズとアイシャはどこのギルドに所属しているのか気になり後を付けるとお世辞にもいいとは言えない底辺のギルド『アフィード』だった。


「依頼達成の報告をしたいんだが」


「アウルか。無事に帰ってきたようだな……ほう。ゴブリンソルジャーを討伐したのか」


 受付嬢の代わりにカウンターにいたのはギルドマスターであるトワだった。アウルが討伐部位としてカウンターに上げたものを見てトワはすぐにそれがゴブリンソルジャーのものであると理解した。


「依頼内容は二つ。採取依頼の薬草を持ってくること、そして餓鬼を討伐すること。確かに餓鬼は討伐しているがまさかその上位種にあたる魔物を倒せるだけの実力を持っていた人間だとは正直思わなかったよ。そんな人間をFに留めておくのは勿体無いな」


 トワはアウルに昇格試験を受けてみないかと誘った。アウルは断る理由はなかったのでそれを了承した。


 アウルが受けたのはBランク討伐依頼。大餓鬼オークの討伐だった。大餓鬼は単体での行動を好み知能は差ほどないが、餓鬼の何倍もの体格と攻撃力を誇るBクラスの魔物だ。そいつを一頭討伐するのが今回の依頼。


「因みに昇格試験というのはその依頼のランクにあった同行者を連れていかないと行けない決まりになっていてな、入口に隠れているアイシャでも連れて行っていくといい」


 アイシャはトワに隠れていることが既にばれていたのかと苦笑しながらアウルの前に姿を現した。それと一緒にシズも。


「すごいじゃない。アウル」


「それは正直どうでもいい。俺は高位の依頼を受けることが出来るようになればそれでいい」


 アウルはランク自体に興味があるわけではないとだとアイシャは知った。特に名誉を求めているというわけでもないアウルが何を求めているのかアイシャはそれなりに興味を示し、ギルドナイツに誘うことを抜きにして試験官をすることにした。


「期限は一週間以内。試験官、神速のアイシャには連絡用の水晶と転移魔法の使用を許可するわ」


 トワは水晶と転移魔法が施された魔器を受け取ると一礼する。


「試験開始は明後日。それまで好きにしててもいいわ」


 シズは自分が世話になっている工房へ、アイシャは試験に向けて準備のためギルドナイツ本部へ、そしてアウルとトワはその場に残された。


「貴方たちの年代は正直感服するわ。七大貴族セブントリニティたちの跡取りが揃っているんでしょ。そうなると他の子もはやり才能に恵まれるのかな」


「どういう理屈ですか、それは」


 実際、アウルと同年代には七大貴族がそれぞれ揃っている。アウルは何の因果かと苦笑する。


 アウルはとりあえずギルドの訓練所を使わせてくれないかと申請を出して宿へ戻ることにした。

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