第十六段、『二つの依頼』
人口は差ほど多くはない、イシュダル北西に位置にするダークナイト家が統治する町ナイトウィード。
早朝だというのに働く人たちで町に中は既に音で溢れていた。そんな中刀を二振り携えた黒い外套を纏った少年が西門の前で書物を片手に誰かを待ってた。
「……」
待ちゆく人たちにその様子を見られても特に気にする様子はなく、片手で器用に書物を読んでいた。
それから十数分くらい経つと短めの金髪を風に靡かせながら、綺麗な顔立ちではあるがどこか眠そうな少女が少年のもとへと歩いてきた。
「遅れてすまない」
謝罪の言葉を聞いた少年は別に問題ないと静かにそう答えると、手にしていた書物を外套の中へ仕舞う。
西門の門番にギルドカードを見せると面倒な手続きを全て省略し、門の外側に出ることが出来た。
「アウルはこれが初めての依頼なんのだよね?」
「依頼自体はギルドを通さないで何度かやったことはあるけど、正式な依頼はこれが」
「そっか。そう言えばまだ言ってなかったけどこれがあたしのギルドカード」
名前 シズ・エレキオット
属性 雷
ランク C
クラス ビショップ・『魔法剣士』
シズがCランクだったことにもアウルは驚いたがそれ以上に『魔法剣士』という戦闘スタイルにアウルは驚いていた。
シズの恰好を見る限りでは、武装らしい武装は身に着けておらず、どちらかというと『軽戦士』や『盗賊』というイメージが強い。ただシズをよく見てみると身体のいたるところに武器らしいものがある。
これではますます『魔法剣士』とは言えない。寧ろ『暗殺者』の方がよく似合っている。
「身に着けている武器は全て魔器だよ。雷以外の属性も多少なら使えるしその時いつも使っている魔器だとどうしても相性が悪いのさ」
魔器というのは魔法を簡略化し発動をしやすくする媒体として用いられることが多く、確かに一つの属性に特化した魔器は別の属性を使おうとすると魔力の変換効率を著しく阻害してしまう。
これでは逆にストッパーでしかない。
そのため、多数の魔器を用いることで様々な属性を使いこなす魔導師がいるとは聞いていたがアウルは初めてその実例に遭遇した。
「……数からしてほとんどの属性?」
「雷よりは威力が落ちるけどね。それでも多少使えるというのは戦闘の幅を大きく広げてくれるから」
アウルはシズに依頼書を見せる。
「薬草の採取と……餓鬼討伐?いやいや……これはいくらなんでも厳しいよ」
シズはアウルが戦闘を見たことがない。それに自分よりも小さい子供が自分よりも高位の依頼を受けるというのだ。
同行者がいるとはいえあまりに無謀。餓鬼自体はそれほど戦闘力があるわけではない。人型をしているとはいえ知能はほとんど皆無。
「餓鬼くらいならいくら束になっても大丈夫。それに餓鬼程度に抜刀する必要もない」
アウルは完全に言い切った。それを聞いたシズはアウルは餓鬼を甘くみているとこの時は思っていた。




