第十五段、『アウル・シュヴァルツ・コルトハード』
アウルはシズから魔刀と妖刀を受け取るとそれを腰に刺し、それと同時に受け取った短剣を外套の中へと仕舞いこんだ。外套の裏側はアウルが施した特殊な術式によってどんなものでも収納できる空間になっていた。
「さて、薬草でも取りに行きますか」
「……その装備で薬草を取りに行くのかい?」
シズは短剣を大量に注文してきた人間がまさか薬草を採取しに行くだけだとは思わず唖然していた。
「薬草は取りに行くが、ここから歩いて薬草の生えている場所までだと数日はかかる。それまで食料は現地で調達しないといけないし、それに盗賊に襲われる危険や魔獣と遭遇する可能性だってある。準備するに越したことはないと俺は思っているんだが。俺は何か間違っているのか?」
「うん……なんかごめん」
シズはこのアウルという少年は一体どれ程過酷な日常を過ごしてきたのだろうかと思った。普通の子供であれば、子供でなくとも薬草を取りに行くだけでそんなに警戒はしない。普通に薬草を取りに行くだけなのであれば、それ程の危険はない。
ましや薬草が生えている場所まではほとんど整備されている街道を通れば簡単にいくことが出来るし途中でキャラバンに遭遇する確率も高い。そこに頼めば大抵はその場所まで運んでくれる。
アウルという少年の考え方は常に戦闘が行われることを想定して動いてる。それは先の大戦を経験しているかのような。
けれど年齢を聞くとどうだ。まだ9になって間もないというではないか。シズよりも六歳も下の少年がそんな考え方を持っていることに戦慄していた。
だからなのかもしれない。
シズはこの少年に興味を持った。自分が貴族である相手が庶民……正直そんな考え方は学院に入学したことで捨てている。ただ単の好奇心。
「あたしもその依頼について行っていいだろうか?」
不意に、自分でもどうしてそう発言したのか理解することが出来なかった。
「ん?それは構わないけど……どこにでもあるような。普通の採取依頼なんだが……」
アウルも何故彼女がそういい切り出したのか理解することが出来ず困惑する。アウルとしてはいいものを貰った礼もあるのでそれを了承する。
「明日の早朝に西門の前でいいか?」
「それでいい」
その後も多少やりとりを続けるとアウルは店を出た。店を出たアウルの目的地はギルドだった。
しばらく歩いているとギルドの看板が見えてきて、アウルは腰に携えている刀を一度外套の中へと隠す。
中へ入ると恒例行事になっているかのようにバカ騒ぎをしていた。アウルは酔っている傭兵たちの群れを何とか掻い潜って、カウンターまで行くとFランクでも受けられそうな妥当な討伐依頼を探す。
「あら、アウル君。もう薬草の採取終わったの?」
「いえ、まだです。明日薬草を採取しに行こうと思っているのですが……それとは別にもう一つ依頼を追加しておこうかと」
「ふーん。多重依頼は問題はないのだけれど、大丈夫?因みにどんな依頼にするの?」
餓鬼討伐依頼。
討伐数 十体以上。
報酬 銀貨三十枚。
期日 なるべく早急に。
備考 素材は自由に扱ってください。
難易度 D
「……同行者がいるの?」
「一応、ランクの方は確認してませんけど。学院の生徒さんみたいなので」
それを聞くとよく同行してくれることになったものだと少しばかり感心された。何でも学院の生徒というのはプライドが高く、自分よりも下のランクの人間とはあまり行動を共にしないことが多いのだという。
身分による差別はなくとも、ランクによる差別があるのだとアウルはいささかショックを受ける。
「死なないように頑張ってね」
満面の笑みでそう言われてしまった。
本編で出てくる通貨の基準なのですが、大まかに
銅貨100枚=銀貨1枚
銀貨1000枚=金貨1枚
銅貨1枚 100円。
アウルが作った魔器が如何に希少価値の高いものだったのか……。
それを普通に購入してしまうお店も繁盛しているんだと思う。
因みに魔刀と妖刀で金貨はほとんど使ってます。なのでほぼプライマイゼロ。




