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第十三段、『傭兵』

「新入りか?」


 グラマーなお姉さんは少年にそう尋ねた。少年はみれば分かることではないのかと思いつつも、愛想笑いを浮かべ、そうですよと答えた。


「実はまだ登録していないので、別に新入りというわけではないのですが」


「年に似合わない話し方だな」


「そうですか。師事を受けていた者の流れを汲んでいると思っていて貰った方がいいかもしれないですね」


「それはそうと自己紹介がまだだったね。ここのマスターをしているトワという者だ」


 少年はトワがそう名乗るに合わせ、


「アウル・S・コルトハードです。アウルで構いません」


「家名持ちか、どこかの貴族だったのか?」


「別にそういうわけではないですよ、自分がいたところでは全ての人間に家名がありましたから、と。まあ、そんな話はどうでもいいんです」


 アウルが要件を繰り出そうとするとそれをトワは静止する。


「その前に換金を済ませてしまおうか。今回君が持ち込んでくれたものは短剣40本とブロンズソード3本、質は悪いが革の胴当てに革の手袋と言ったところだね。それに指名手配されている盗賊団だったようで」


 要約するとこのギルドに入るのは正直なところもったないとのことで。


「自分としてはこのギルドでいいと思っているのですが」


 換金を終え、硬貨の入った袋を受け取ると、ギルドの名前を指差してどうしてあの名前を付けたのかと尋ねると、トワは自身の右腕を見せた。


「なるほど、それで」


 トワの右腕は黒い金属のようなもので形成されており、その輝きはとても鈍く、その黒はまるで闇のようだった。


「先の大戦で失ったものだ、これはこれで気に入っているので問題はないのだがな。ただそのせいかわたしを貰ってくれる男子に困っていてな」


「……いろいろと苦労しているんですね」


 話がそれていることをカウンターの奥の方からやってきた受付嬢に注意されると


「済まない、これが登録するための必要事項を記す用紙だ」


「分かりました」


 アウルは羽ペンを手に取り、インクを付けるとインクが滴らないように注意しながら綺麗な字で文字を記す。


 名前 アウル・S・コルトハード


 年齢 9


 出身国 フロント・イシュダル。


 クラス 不明


 これ以外に項目はあるのだが、書く必要性が特にはないとのことで、登録自体はすぐに終わった。


「因みにクラスっていうのは?」


「それは15歳になるとみんな学院にいくでしょ」


 受付嬢がそう告げる。アウルはそれに相槌を打つと


「学院ではそれぞれ学級を意味するクラスとは別に実力を意味するクラスがあるの。これはその人個人の能力によって決まるものなんだけどね。そのクラスっていうのがチェスの駒を意味するものなの」


 つまり、チェスを意味するということは実力の低いものは兵士ポーン、このクラス制度は学院内での権力の高さを示しているため、貴族だとか庶民だとかそういうはあまり関係ないらしい。


「ただ、学院を出てからもそのクラスが付き纏うということはあまりないの」


「クラスというのは、さっき彼女も言ったが実力を表すもの。そしてギルドではクラスを職業や戦闘スタイルとして捉えている」


 トワがそう補足する。


「登録が終わった今の君はクラス『傭兵』と言ったところだね。ギルドの個人情報にはそのように書いておくから」


「『傭兵』か」


 アウルは誰にも聞こえない声で呟いた。


「あとは彼女に聞いてくれ、これでも多忙な身なのでな」


 トワは受付嬢に後を任せるというとどこかへ行ってしまった。


「それでは登録おめでとうございます。アウル様……貴方様の魔力パターンをこちらの方で登録しておきましたのでこのギルドカードを受け取り下さい、こちらは身分を証明するための効果も御座いますので大切に扱ってください。それに祝い金として銀貨5枚を支給致します。ランクはFから始まりますが、現段階で質問等は御座いますか?」


「自身のランクよりも上の依頼を受けることって出来ますか?」


「一応は可能となっておりますが、あまりおすすめはしておりません。それに自身よりも上のランクを受ける際には手数料が発生しますのでそちらの方をご了承いただいた上での判断をお願いします」


 自身よりも高いランクの依頼を受けるというのはそれなりにリスクが伴う上にギルド側としては失敗する確率が高いのと失敗した際の評価を考え、手数料を取っているのだという。


 アウルは無難に薬草の採取という初歩的な依頼を社交辞令のような形で受けるとそのままギルドを後にした。


 ギルドから出たアウルは自身の服装を見る。


 長旅や野宿を繰り返したせいなのか外套や靴がかなり汚れていた。この際なので外套や靴の他にも装備を新調することにした。


 アウルがまず最初に訪れたのは服飾屋だ。


「いらっしゃいませ」


 店に入ると洗礼された動作で店員がアウルに対してそう言った。


「外套と靴を見繕って欲しいと思いまして。出来れば普通の衣服関係もお願いします」


「分かりました。外套などは好みとか要望とかございますか?」


「そうですね。外套は黒がいいですね。それと靴は動きやすいものを」


「畏まりました」


 店員が頼んだものを探している間にアウルは普段着る服などを何着か選んでいた。普段着るものに対してアウルは特にこだわりを持っているわけではないので難なく選び終えた。


 アウルが選び終えたと同時に店員の方も準備を終えたみたいでアウルがカウンターに品を持っていくとこちらでよろしいですかと外套をアウルに手渡した。


「中々いいものですね」


「わかりますか」


 店員が選んできた外套には魔法コーティングが施されており、それなりに耐久度のある品だった。それほど高級なものというわけでもないのでアウルはそれに決めた。


「カードでいいですか」


 アウルがギルドカードを取り出し店員に渡すと


「おや、『傭兵』の方でしたか。では少し値段を下げさせていただきますね」


「別にいいですよ、普通の料金で」


「そういうわけにはいかないのです、わたくしどもが所属しているのは商会ギルド。つまり戦闘を主な生業としている傭兵の方々の傘下にある組織なのです」


「では、こういうのはどうですか?僕はこれからも貴方の店で買い物をします。そのときもこのような丁寧な対応をしていただければそれでいいので」


「変わった人ですね。とても9歳には見えませんね」


「よく言われます」


「分かりました、では靴とそちらの普段着の方はこちらからのサービスということで受け取ってください。アウル様がまた当店にご来店いただけることを心からお待ちしております」


 アウルは何故自分の名前がわかったのか少し疑問に思ったが外套と同時に受け取ったギルドカードを見てなるほどと思った。


 アウルは古くなった外套を持っていたカバンに仕舞うと先ほど買ったばかりの真新しい外套に身を包んで外に出るとすでに日は姿を隠し月が静かに照らしていた。

おひさー☆


って冗談みたいな挨拶はさておき。


久々の更新です。今回は少し長くなってしまっていますが気にせず読んでくれるとありがたいです。


誤字脱字が御座いましたらご指摘の方よろしくお願いします。

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